2022年10月21日(金)、オンラインイベント『楠木建、一問一答』が開催された。人的資本経営や人材の獲得、ジョブ型雇用など「人材」に関する読者からの質問に楠木氏はどう答えたのか。

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「第2回:人的資本経営、など。」
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Q:人生100年時代、人材に長く定着してもらうためにできることは?

――30代のビジネスパーソンです。人生100年時代と言われ、また、年金の保険料納付期間の延長案が検討されるなど、人々はこれまでよりも長期間働く必要性が高まっています。一方で企業には、人々を長期間雇用する必要性が高まるかと思います。人材に長期間定着してもらうために企業はどのようなことを行っていくべきでしょうか。

楠木
仕事とは価値交換です。人材一人ひとりが、企業に対して売る、つまり供給できる価値を持っている。企業には、その価値を買いたいという需要がある。需要と供給があるところに価値の交換が行われるので、人生100年時代になろうとも仕事の原理原則は変わりません。

企業の側からすると、要するに仕事がうまく回っていけばいいので、人材の年齢を一切見ない、聞かない、気にしない。これが、人生100年時代に企業がとるべき社員との向き合い方です。もちろん、年齢と相関している能力もさまざまあると思いますが、因果関係にあるわけではない。年齢を一切気にしないことが、これからの正しい経営です。

個人の側は、自分の持ち味、売り物が何なのかを明確に意識する必要があります。お金を払って価値を買ってくれる人がいないと仕事になりません。「この会社のこういう仕事だったら俺を必要とするよな」ということを常にハッキリと意識して自分を売り込んでいくことが大切です。

――つまり、企業としても個人としても、年齢にとらわれずに人材の価値を見極める眼が大事になってくるということでしょうか。

楠木
年齢というものは所詮、その人に付いているラベルなので、企業に売り込める商品にはなり得ません。「これができます、あれができます、これが得意です」と言える何かを持つことが大切です。

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楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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