2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われた。今回はその中から、楠木建教授自身の執筆のルーティンやおすすめの本、新規事業開発のアドバイスなど、センスと発想にまつわる内容をお届けする。

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Q:センスを見抜く方法、センスを磨く方法は?

――外資系のソフトウェア会社で総務を担当しています。2019年に渋谷で開催された楠木先生と山口周さんとの対談を拝見したのですが、あのときに一番印象に残ったのは、何事もセンスの有無がとても大切であるというお話でした。そのセンスに関して質問です。センスを見抜くにはどんな感覚を研ぎ澄ませばよいのでしょうか。

楠木
それは自分以外のだれかのセンスを見抜くということですか。

――自分もですし、自分の周りにいる人たちのセンスを見抜く方法ですね。あと、センスは磨けるのかどうかもお聞きしたいです。

楠木
もちろん磨けますよ、先天的なものではないですからね。

「スキルではないものがセンス」というのがわたしの考えです。スキルは履歴書に書けることなんですね。「こういうことができます」「ああいうことができます」と。センスというものは、葬式でみんなが言うことです。「ああ、あの人ってこういう人だったよね」と。おそらく、葬式なので参列者の皆さんは何らかのポジティブなことを言うと思うのです。他者がその人に感じるポジティブなことというのは、結局、その人が一番頼りになること、一番成果を出したことです。「この人の葬式に出たら、自分はどんなふうに思うかな」ということを考えてみるのがいいと思います。

――それは自分の周りの人のセンスを見るということですね。

楠木
そうです。

――自分のセンスはどうですか。「自分の葬式ではみんなどういうことを言うかな」と、第三者的に想像すればよいのでしょうか。

楠木
「俺は〇〇のセンスが最高で」って自分で言う人、うさんくさいですよね。大体、自分でセンスがあると思っている部分は、本当にセンスがあるのかどうか結構疑わしいのではないでしょうか。仕事のセンスは、やっぱりお客さんですとか、あるいは自分の仕事を必要としている同僚にも聞いてみないとわかりません。センスの自己評価はほとんど意味がないと思います。

――わかりました。センスを磨く方法についてはいかがですか。

楠木
スキルと違って、磨くための定型的な方法がないというだけで、いくらでも磨けます。まずは『逆・タイムマシン経営論』という本をお読みになってください。それがわたしなりの、センスを磨く方法の答えでございますので。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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