2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われた。楠木建教授が22名の参加者一人ひとりとの質疑応答に臨み、経営や組織、センス、キャリアなど多岐にわたる疑問・悩み・相談に、独自の見解と鋭い舌鋒で回答。その様子を4回にわたってお届けする。

Q:環境配慮型ビジネスに転換する体力のない企業はどうすればよいか?

――私立大学の事務職員をしております。今、環境問題は待ったなしの状況にあり、2050年には地球が復旧不可能になるかもしれない、企業が環境に配慮したビジネスモデルに転換していかないと手遅れになるのではないか、などと言われています。体力のある企業はそういったビジネスに転換できるかもしれませんが、ただでさえ体力のない小さな企業が、ましてやこのコロナ禍で変わっていくのは非常に難しいのではないかと思っています。楠木先生のご意見を伺いたいです。

楠木
ケースバイケースですけれども、わたしはおっしゃるような体力、要するにリソースがない企業ほどやりやすいと思います。率直に言うと、今のヨーロッパで企業がESGをアピールしているのは、特に投資家向けの「いい顔」というか、ある種の礼儀みたいな面が多々あるように感じます。というのは、環境負荷を考慮するということは基本的に「引き算」だからです。

ものすごくプリミティブな例でご説明しますと、体力のある企業は新しい本社ビルを造ることができます。でも、そこまでのお金がない企業は、出来合いのビルで済ませたり、電気代がかさむので冷房の使用を抑えたりする。まったく新しいテクノロジーへの投資などは別として、このように環境への配慮というのは基本的に引き算なのです。ですから、体力がない企業のほうがむしろ真剣になれると思います。

ほかの例でご説明すると、外国に比べ天然資源に恵まれない日本のほうが、明らかに環境負荷が低い暮らし方をしています。「これからは環境が大切だ」なんて言っているアングロサクソンの企業を見てわたしが個人的に思うのは、「じゃあ、どうしてそんなふうにゴミを捨てるの?」「なんで暖房ガンガン効かせて、Tシャツで仕事しているの? 暖房の設定温度を下げてセーター着たほうがいいのでは?」と。

今こそ、リソースを持たない企業の出番だと思います。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第2回:組織について。」はこちら>

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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