2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われた。楠木建教授が22名の参加者一人ひとりとの質疑応答に臨み、経営や組織、センス、キャリアなど多岐にわたる疑問・悩み・相談に、独自の見解と鋭い舌鋒で回答。その様子を4回にわたってお届けする。

Q:SDGsに対する楠木先生の見解は?

――製薬会社で法務の責任者をしております。今、「SDGs」や「ESG」というワードを新聞で見ない日はありません。先生のいろいろなご本や記事を拝見すると、「企業の最大の社会貢献とは、ジャンジャン稼いでジャンジャン税金を払うこと」と書かれています。わたしもまったく同感なのですが、先生のそのお考えとSDGsとの関係を、どういうふうに整理されているのでしょうか。

楠木
おっしゃるとおり、企業の最大の社会貢献は長期利益です。なぜかというと、そのほうが税金をたくさん払えるからです。質問者様がお勤めの製薬業界ですと、社会的な責任や人間の生命に対するインパクトが大きい分野ですので、もちろんルールは絶対大切です。「こういうことはやっちゃいけない」というルール。ダウンサイドを抑止する規制は必要です。ただ、SDGsのように「もっと社会に対して良いことをしていきましょう」「社会的な問題を解決していきましょう」という文脈で言うと、例えばこういうエピソードがあります。

わたしは競争戦略という分野で仕事をしておりますが、その分野をつくったマイケル・ポーター先生という方がいらっしゃいます。資本主義の権化みたいな人なのですが、ある時期から「CSV(Creating Shared Value)」(※)というコンセプトを言いだして、いろいろな人から「宗旨替えしたのか」「それは金儲けじゃないのか」と突っ込まれました。その辺のことをわたしからポーター先生に聞いてみたら、こんな答えが返ってきました。

「何言ってるんだ。これからの時代、CSVが一番儲かるんだよ」

つまり、社会的に価値があることは必ず儲かる。やはりそれがビジネスの主軸なのです。

わたしが嫌だなと個人的に思うのは、全然お金儲けできていないのに、SDGsやESGを声高に叫んでいる会社です。SDGsの達成目標の第1位は、「貧困の撲滅」です。経営者が貧困の撲滅を掲げるのなら、自分のところの従業員に給料をもっと払うべきです。

それこそが企業だと思うのです。顧客にとって価値がある商売、カネをとれる商売、儲かる商売をつくって、労働分配する。給料をいっぱい払えば、従業員が所得税をいっぱい払うことになる。それが社会貢献になる。企業はそこに徹するべきです。

※ 社会的価値と経済的価値の両方を追求するという新たな経営のアプローチ。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第2回:組織について。」はこちら>

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「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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