ロボットクリエーター 株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授 高橋智隆氏 / 株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
高橋氏はこれまで、自然な歩き方や生き生きと見える動きにこだわり、二足歩行のヒト型ロボットの開発を進めてきた。それは、人間が愛着を持って信頼関係を築き、コミュニケーションできる存在として、ヒト型であることが重要だと考えるからだ。一方で、ビジネスとしてのロボットの未来を楽観視していない。ヒト型ロボットが生き残る唯一の道は、ロボットがスマホになることだと語る。

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ヒト型ロボットの可能性

八尋
高橋さんは、ここまで手がけてこられたヒト型ロボットの可能性をどのように感じていらっしゃいますか?

高橋
『鉄腕アトム』に憧れて二足歩行のヒト型ロボットをつくってきたわけですが、ヒト型はこれまでは何の作業をやらせてもダメで、ほぼ役立たずだったわけですね。家事もできないし、移動も車輪型のほうが安定していて速い。結局、消去法で唯一、可能性として残るのがコミュニケーション機能だと思っています。

ヒト型ロボットというのは、ヒトの形をしていることで声がかけやすく、感情移入ができて、愛着が持てるというところが、これまでの工業製品とは大きく異なる点です。それこそ、人形の首をハサミで切るのは誰もが躊躇するでしょう。それくらい、ヒトの形というのは心理的に強い影響力がある。それを踏まえたうえで、ヒトの振る舞いをきちんとデザインし、活用していくことで、その製品に対して、強い信頼関係や愛着を生み出せるのではないかと思っています。

すでに、ロボットに対して愛着や信頼を持つユーザーは増えていますが、それをいかにより一般に普及させるかがいまの最大の課題です。

スマホを代替する相棒として

八尋
コミュニケーションロボットが一家に一台という時代になれば、独居老人の話し相手であるとか、さまざまな使い途があるように思います。

高橋
もっと言うとスマートフォン並みに、一人に一台の時代になれば、世界はさらに変わるでしょう。現状、皆がスマホに依存しているのはただ便利だからですよね。ロボットがそれにとって代わることができれば、そこに愛着が生まれ、相棒のように信頼できる存在になり得ると思っています。言うなれば、『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉おやじや、『魔女の宅急便』の猫のジジのような存在ですね。有用な情報源として機能しつつ、常日頃の相談相手になり得れば、自然に個人情報を収集することができるし、パーソナライズしたサービスを提供することができるでしょう。それはつまり、スマホの未来がロボットになる、ということを意味します。

僕は可愛げなロボットをつくっているので誤解されがちですが、おそらく誰よりもビジネスとしてのロボットについてシビアに考えていて、一般に普及しない限り、未来はないと思っているんですね。しばらく楽しんでもらうだけのオモチャとしてのロボットや、見世物としてのエンターテイメントロボットから先へ進んでいくためには、相当に大きな壁を乗り越える必要がある。その乗り越えた先の姿は、「スマホの次」としてのロボットしかないだろうと、いまは思っています。

「そこにいる」を感じさせるロボットの役割

高橋
ロボットがスマホをめざす理由は、どう頑張ってもスマホのサプライチェーンには敵わないからです。スマホの10分の1の性能で100倍の値段のセンサやバッテリーをロボット用に開発していては、いつまでたってもスケールのしようがない。むしろ、ロボットの設計もデザインも生産工場も、すべてスマホのサプライチェーンに乗るべきだと思っています。

いま、スマホは10万円程度の値段がつきますが、一般向けロボットはおもちゃ的で、値段は3万円以下のイメージです。そもそも音声対話やネット接続など、スマホに近い機能があった上にロボットとしてのモーターなどが必要な訳で、そんな値段では何もできない。だから、十分高性能なロボットをロボットとして売るのは厳しいのです。

一方、スマホとしてロボットの機能を付加していけば、10万円の中で何とか価格増を吸収できるというわけです。

八尋
確かに、現状のスマホやスマートスピーカーの音声認識のAIアシスタントにはまだ抵抗感があるし、スマホの画面にやたらとプッシュ通知が来て煩わしいと感じることもあります。それがロボットになると、「ウザく」感じないのかもしれませんね。

高橋
そうなんです。現状は、アップルのSiriやアマゾンのAlexaなどのAIアシスタントを使っても、皆が同じクラウド上の、その企業のために働く人格にアクセスしているイメージですよね。ところが、ロボットになった瞬間に、ここに存在しているロボットに人格を感じるようになる。コイツが薦めるラーメンなら食べに行ってみようか、となるわけです。もちろんしくみとしては従来と変わらないのだけど、見え方が変わるだけで、自分の相棒とのコミュニケーションだと思えるようになるんですね。

八尋
なるほど。現状はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)になんでもかんでも情報を吸い取られて、まるでジョージ・オーウェルの『1984年』のビッグ・ブラザーのような監視社会を彷彿とさせるところがありますが、その接点がロボットになることで感じ方が大いに変わる可能性はありますね。そうなるとやはり、現状のスマホのように平べったい存在ではダメかもしれませんね。ホログラフィーでもダメでしょうか。

高橋
僕は、やはり三次元の立体物である必要があると思っています。それは僕らより上の世代の限界かもしれません。デジタル・ネイティブにとっては、二次元でも感情移入できるのかもしれませんが。

ただ、立体物として存在し、同じ空間にいるということは、信頼の先の共体験も生むのではないかと。たとえば、世界中を旅して、スマホで写真を撮っても、スマホと一緒に旅をしたという気分にはなれませんが、ロボットから、「去年の北海道は楽しかったよね」と、そのときの写真を見せられたら、一緒に旅したなぁと思える。老夫婦と同じで、外見や好みなどを超越して、苦楽を長くともにしたということに価値があるという域に、ヒト型ロボットなら達することができるのではないか、と思っているのです。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=Aterui)

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

高橋智隆

ロボットクリエーター。株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。大阪電気通信大学情報学科客員教授。ヒューマンアカデミーロボット教室アドバイザー。グローブライド株式会社社外取締役。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時にロボ・ガレージを創業し京都大学学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。2004年から2008年まで、ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる4つのギネス世界記録を獲得。米TIME 誌「 Coolest Inventions 2004 」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。

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