放送作家 小山薫堂氏/株式会社日立製作所 フェロー兼未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダ 矢野和男
放送作家・小山薫堂氏と日立製作所フェロー矢野和男との対談の3回目。「幸せとは探すものではなく、気づくものなのだ」という信念に基づき、「くまモン」の新しい可能性を探求している小山氏。一方で、ローンチした「ハピネスプラネット」をどうやってプロモーションするかに悩んでいるという矢野。「どうやって一般の人たちへの普及をはかるか?」稀代の仕掛け人である小山氏がアドバイスする意外な方法とは?

『第1回:「ハピネス」見える化のプロセス』はこちら>
『第2回:幸福の最大化は世界のトレンド』はこちら>

くまモンアプリもスタートしている

小山
じつは熊本県にしあわせ部というのを作ったんです。矢野さんのものと比べれば遊びのようなものですが、アプリも作りました。

矢野
それは素晴らしい試みだと思います。

小山
皆さんにもよく知られているくまモンは、ずっと熊本県の営業部長という肩書きでしたが、その役目はもう終えたと考えて、今からはしあわせ部長にしなければいけないと知事に申し入れました。2014年のことでした。ですが、「人事異動は難しい」ということで、営業部長としあわせ部長を兼務してもらうことになったんです。で、くまモンのアプリを開発しました。「くまはぴ」といって、地元の熊本県立大学の学生に作ってもらいました。

どんなものかというと、毎日県民の「プチはっぴー」をくまモンに報告してもらうというものです。「今日は、私こんなことでしあわせになりました!」という投稿が積み重なって、くまモンが大好物の幸せのミルフィーユになり、それをくまモンが食べて、どんどん大きくなっていくという仕組みです。

矢野
それは面白いですね。太るというのも数値化されたビジュアルですし。

小山
例えば「東京ディズニーランドに無事着きました。雨降っているけど、止んできた模様。もうすぐパレード始まります」なんていう、個人個人の「はっぴー」を投稿するわけです。「今週は2人の葬儀があった、でも2人ともニコニコしていた。ご本人が笑顔の葬儀は場も暗さがない。出席させていただいて感謝です」とか、「コンビニで朝買い物したら、会計が777円だった」とか、日常の何気ないみんなのハピネスに対して共感して「いいね」をつけていくんです。自分も何かを投稿して、ちょっとしたポイントがついたり。大学生が作ったものなので、稚拙な部分もあるんですが。

幸せは探すものではなく、気づくもの

矢野
幸せは個々によって違いますし、そういう何気ないものが1日の活力になったりすることはあると思います。

小山
「幸せとは探すものではなく、気づくものなんだ」というのを実践してもらうためのアプリなんです。じつは新しいくまモンのプロジェクトが発表になったばかりで。ハリウッドでアニメーションを作ります。ショートフィルムで、7分のものを10本作る予定なんですが、テーマが「幸せってなんだろう」というんですよ。

矢野
それは直球のテーマですが、私たちにとっても興味深いものですね。小山さんのお仕事を拝見すると、受動的なものではなくて、間違っていてもいいからやってみるというのが通底していますね。そうしたことを意識づけして実践するだけで、結果は全然違うものになると思います。

小山
僕もそう思ってやっています。

矢野
実際いろいろな研究でそういう結果が出ています。

小山
矢野さんは「アバウト・タイム」という映画をご覧なりましたか?

矢野
残念ですが、まだ観ていないですね。

小山
「ラブ・アクチュアリー」などの映画を撮ったイギリスのリチャード・カーティス監督の作品ですが、タイムトラベル能力がある人間が、自分の人生に起きることや起きてしまったことを変えていくという映画です。幸せをテーマに非常に気づかされる映画なんです。

ラジオリスナーの結束感を味方につける

矢野
それは、ぜひ見て研究したいと思います。今日、小山さんにお尋ねしたかったのは、「ハピネスプラネット」をどうやってプロモートしたらいいかということなんです。

小山
なるほど、アプリをプロモートしたいんですね。

矢野
スマホのアプリにしたということは、まず何十億人という人がアプリをダウンロードすればアクセスできるということなんです。

小山
このアプリは一般の人もダウンロードできるんですか?

矢野
はい、無料でできます。まだリリースされたばかりで、走りながら試行錯誤を続けていますが。

小山
まず簡単なところでは、僕のラジオのゲストに来てもらえないですか? Fm yokohamaの「FUTURESCAPE」という番組です。

矢野
いつでもお伺いします。

小山
ラジオリスナーは結束感があって、何かの核を作る時には、ものすごく有効なんです。

矢野
なんとなく実感できます。

小山
例えば、お菓子の会社と何か一緒に商品を作ろうとします。その時に、ラジオリスナーを巻き込むんです。できた商品を横浜地区限定で販売する。そうしたらめちゃくちゃ数字が跳ね上がるんです。そのデータを持って、ほかのコンビニに売り込みをかける。今回の新商品をテスト販売したらこんなに跳ねてますというアピールをして、棚を確保してもらって、ブレイクさせるというやり方もありますよ。

矢野
なるほど、とても魅力的な提案ですね。

小山
このアプリは、すごくラジオリスナー向きですよ。一緒にやることで結果が出て、それをエビデンスにしてまた次に持っていける感じはします。例えば、僕は幸せをテーマによく番組を作っています。僕の誕生日の時に、「リスナーの皆さん、僕にプレゼントをください。それは物ではなくて、僕の誕生日がきっかけであなたが何か目標を設けて、それをクリアできたという喜びを教えて欲しい。僕はそれがハッピーなんです!」という呼びかけをしてみる。そこに「私は1ヶ月後の誕生日までに1キロ痩せます」という投稿があって、「無事、痩せました。ありがとうございました」という報告が届けば、僕はとても嬉しいんです。

ラジオは「幸福のWin-Win」みたいなものを積み上げていくことがやりやすいメディアなんですよ。テレビで同じことをやってもなかなかこの感じは伝わりません。一方的なものにしかならなかったり、やや偽善的なものに見えてしまったりするんです。その意味でもラジオが最適ですよ。

矢野
おっしゃるように、ラジオで聞いた情報の方が、私自身も動いている気がします。先日、上野の森美術館で「世界を変えた書物展」を鑑賞しましたが、きっかけはラジオで聞いた情報でした。

小山
テレビで矢野さんがコメンテーターとして出たとします。「コメントはだいたい20秒以内でお願いします。1分以上は辛いんですよ」とスタッフは釘を刺すでしょう。でも、ラジオは5分でも10分でも喋ることができます。本当に伝えたいことが伝えられるメディアです。

矢野
ラジオ出演のオファーをお待ちしたいですね(笑)。

小山薫堂
1964年、熊本県生まれ。日本大学芸術学部在学中から放送作家のアルバイトを始める。「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「トリセツ」など、テレビ史に残る番組の企画構成を担当する。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回アメリカアカデミー賞外国語映画賞を受賞する。放送作家集団N35とブランドのプロデュースやデザインを担当するオレンジ・アンド・パートナーズの2社を経営する。また京都造形芸術大学副学長も務めている。「小山薫堂の幸せの仕事術」ほか著書多数。

矢野和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は2,500件にのぼり、特許出願は350件超。東京工業大学大学院連携教授。文部科学省情報科学技術委員。

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