ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院 教授 デイヴィッド・ションタル氏
2025年10月20日に行われた、『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』(原題:『The Human Element』)の著者、デイヴィッド・ションタル氏の講演。ションタル氏は人が変化を拒むのは、その変化に魅力がないからではなく、変化を阻む「Friction」があるためだと指摘します。講演採録の第2回目は、四つのFrictionそれぞれへの対処法について語られます。

「第1回:組織の変化を阻む要因は、燃料不足ではない」はこちら>
「第2回:変化を阻む4つの「Friction」とその対処法」

Frictionを明らかにする問い:現状との乖離とコスト

ここからは、それぞれのFrictionについて考えるための四つの問いを提示します。どんなアイデアにも四つの基本要素があり、それぞれの要素に四つのFrictionが一つずつ対応しています。皆さんの組織において、あるいは顧客に対して、新しいアイデアを導入しようとするときは、四つの基本要素について自問自答することで、どのようなFrictionがあるかがわかります。

一つ目の問いは、「アイデアが現状から大きくかけ離れていないか」ということです。なじみのない変化ほど、「惰性」による抵抗は強まります。つまり、人々は現状を好みます。DX(デジタルトランスフォーメーション)がその典型です。人々は、DXの可能性に対して期待はしていても、導入は退職後にしてほしいと考えます。DX自体には興味があって賛成していても、「今の自分のやり方は変えたくない」と感じる人は少なくありません。

そのため、私がDX導入を支援する際には、「DX」という言葉を使わないよう助言しています。トランスフォーメーションという言葉自体が、長く、曖昧で、意味がよくわからないため、人々はなじみのある言葉のほうに安心感を覚えます。

イノベーターや起業家というのは、アイデアがいかに新しいか、今までといかに違うのかを強調しがちです。しかし、そのことが相手の惰性の力を高めてしまう。新しさを強調するより、なじみの延長として提示することが重要です。

二つ目の問いは、「アイデアの実施にかかるコストはどれぐらいか」ということです。コストには金銭的な負荷だけでなく、導入にかかる肉体的、精神的負担といった見えないコストも含まれます。新しいアイデアの内容や、変化の道筋が曖昧で、イノベーションによって生じる「労力」が大きいと感じられると、人々のFrictionは大きくなります。これに対しては、アイデアの実施のしやすさに配慮することが重要です。将来の道筋を明確にロードマップで示し、ステップバイステップで実施していくことが解決策となるでしょう。

Frictionを明らかにする問い:否定的感情と心理的反発

三つ目の問いは、「アイデアによる変化がどのような否定的感情を引き起こすか」ということです。人は新しいものに対しては常に恐れや懸念、不安などの「感情」を抱くものです。しかし、それらをあまり表に出しません。アメリカでも日本でも同じだと思いますが、特に私のように企業のコンサルティングに関わる人間は、自分の弱い面を人に見せたがらないものです。

その代わり、新しいアイデアに対して「これはうまく機能しない」、「コストが高い」、「複雑すぎる」などと言います。それらは妥当な理由の場合もあるものの、多くの場合は会話を打ち切る方便として使われます。実際にコストが問題ではなくても、コストを理由にすれば断りやすいからです。このFrictionに対しては、人々に本音を語ってもらい、不満や不安があれば、それらを克服できるようにアイデアをデザインし、共感を高めることが大切です。

最後の問いは、「人々が変化を迫られているように感じるか」です。さきほども言及したように、人間が「現状を変えたくない」と感じるのは自然なことですから、新しいアイデアがどんなに優れていても、変化を押し付けられていると感じると「心理的反発」を抱きます。心理学者のアブラハム・マズローの有名な「欲求階層論」でも、人は自律を強く求めると言っています。変化を押し付けられると、その自律が脅かされ、反発が生まれます。

この心理的反発への対処法は、まず変化の設計プロセスに当事者を関与させることです。変化のすべてを、もしくは部分的にでも、主導していると感じられるとFrictionは減少するでしょう。また、自己説得の機会をつくるという方法もあります。相手から言われて変わるのと、自分で納得して変わるのでは、同じ変化でもまったく異なるものです。

アメリカで正しいことが日本でも正しいとは限らないように、Frictionも文化によって表れ方が異なります。しかし、惰性・労力・感情・心理的反発という四つの分類自体は世界共通と言えます。

私が最後に強調したいのは、Frictionを取り除くことは、Fuelを増やすことよりもはるかに影響力が高いという点です。それはただ単にFuelを増やすことよりも自社の差別化につながり、ステークホルダー、お客さまや従業員との長期的な信頼関係を築く力になります。

まとめ:四つのフリクションとその対処の例

※ 講演の内容に加え、一部は『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』からも抜粋しています

■惰性(Inertia):自分がなじみのあることに留まろうとする欲求

【対処の例】
・今のやり方を全面否定せず、既存の流れから小さく変化するように見せる
・最終形を押し付けず、最初の一歩を小さくする
・現状との連続性を感じさせる

■労力(Effort):変化を実行するために必要な努力やコスト

【対処の例】
・項目や手順などの手間を減らす、見えなくする
・デフォルト化、テンプレ化などで選択肢を減らす
・試用、部分導入などで試行のコストを下げる

■ 感情(Emotion):提示された変化に対する否定的感情(不安・損失感・面倒・恥など)

【対処の例】
・否定的な感情を抱くことを批判しない
・無料トライアルなどを可能にし、不安を和らげる
・利用者の意見を聞く

■心理的反発(Reactance):変化させられるということに対する反発

【対処の例】
・指示ではなく質問で変化を促すことにより相手の裁量を残す
・ステークホルダーと共につくる
・トップダウンではなく全員参加で

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デイヴィッド・ションタル David Schonthal 氏
ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授として、戦略、イノベーション及びアントレプレナーシップを担当、デザイン思考やイノベーション、創造性などに関する授業を行っている。また、学生起業家支援プログラムやイノベーションコンサルティングファームのディレクター、ベンチャーキャピタルのアドバイザーなどとしても活躍。これまで世界各地で生み出した新製品と立ち上げた新サービスは200を超える。