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「第2回:ベールを脱いだ「FIRA」」
※ 本記事は、2025年8月7日時点で書かれた内容となっています。
創造AIの中の異能たち
「FIRA」の中には、私がデザインしてキャスティングした600体の架空のキャラクターがいます。フィレンツェのレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのように、全く違う能力を持ったキャラクターで、私たちは異能と呼んでいます。世界の経営に精通したスーパーCEO、経営でも金融に特化したスーパーCFOといったCxOの面々。未来を描くのが得意なミライくん、歴史に精通したDr.歴史思考など、創造AIならではの膨大なメソッドや知見を持った異能たちです。
他にも実在の人物の分身を開発しました。メンタルトレーナーの久瑠あさ美氏、元アスリートの為末大氏、家事代行サービス業の(株)ベアーズ高橋ゆき氏、独立研究者・著作家の山口周氏の分身も作りました。専門性を重視した架空の異能と実在の5人の異能が、それぞれの知見に基づいた人格を持って創造AIの中にいる。まずはそうお考えください。
異能たちの中から議論させたい何人かを選択して、ユーザーである経営者は今考えている課題を投げかけます。経営課題というのは、明確に定義できていない、もやもやしたものが多いはずです。しっかりした問題が立てられるということは、答えが大体分かっているということですから、曖昧なままで構わないので問題を投げかけます。すると、ファシリテーターの進行に合わせて、選んだキャラクターたちがディスカッションを始めます。異なるバックグラウンド、異なる視点、異なるメソッド、異なる物の見方の異能たちがその場で議論して、いろいろな切り口やアイデアや、創造的な解決策を生み出していく。経営者の課題を、コレクティブ・インテリジェンス(集団的知性)が発動するような創造的な言論空間で議論する、それが「FIRA」です。
テーマに合わせ、600種のAIエージェント(異能)が熟議し、その場で自己成長する「FIRA」 の全体イメージ図
議論の中で自己成長する異能たち
私たちは、常に先頭に立って事業と取り組む経営者が、より創造的に能力を拡張できるような生成AIを最初からめざしてきました。そのために、LLM(大規模言語モデル)のどこかにある情報や知識を検索して持ってくるのではなく、深くて膨大な知見を元にその場で意見を出し、しかも議論の中で自己成長する人格を、生成AIエージェントとして開発しました。
皆さんが使われている生成AIは、聞いたことに対して、一般論的な角の取れた回答をすることが多いと思いますが、それは多くの場合バイアスを排除するように設計されているからです。しかしそれでは、とがっていたりはじけていたり、殻を破ったような発想は出てきません。「FIRA」の異能たちは、自分たちの知見から自律的に意見を出し、議論の中で成長していきます。
両利きの経営を生成AIが実践
両利きの経営という経営理論があります。イノベーションは、現在の事業をさらに深めていくという「知の深化」と、これまで試したことのない遠くかけ離れたモノやアイデアを組み合わせる「知の探索」の両方が必要だという経営理論です。生成AIのLLMは、圧倒的に物知りですから、知の深化に関しては人間を圧倒します。しかし、「知の探索」という10回試して9回はうまくいかないような、過去に無かった新しい組み合わせを試し、見つけ出すことについては、これまでAIには難しいと言われてきました。「FIRA」の異能たちの議論は、これまでの生成AIの使い方ではできなかった「知の探索」までを生成AIが助けてくれるということです。
例えばあなたが経営者で、「今まで考えたことのないM&Aの相手は?」という質問を「FIRA」に投げかけたとします。あとはテーマに相応しい異能が自動で召還され、ファシリテーターが議論を進めます。それはテキストで読むことも、音声で聞くこともできます。財務や投資に精通したスーパーCFO、世界の歴史を網羅したDr.歴史思考、そして経営に関する独自の発信を行っている山口周さんを召還したとすると、彼らは自律的に議論を始めます。誰かの意見の中に新しい切り口があれば、それを召喚したキャラクター全員で広げたり、議論が足りないところはファシリテーターが軌道修正するなど、すべて自律的に進められます。もし、方向がずれているようなら、途中であなたが参加して、「そういう方向ではなく、こちらで考えたい」といった指示も可能です。
600種類の異能AIエージェント間の関連を表すネットワーク図。各ノードは異能を表し、色は分野を表す。異能間の関連性を定量評価し、一定以上の関連のある異能間を線でつなぎ、より近傍に配置することでネットワーク状に表した。経営関連は、図全体に拡がっている。
彼らは疲れませんから、議論はどんどん深くなっていきます。先日、ある社長さんが「もう半年か1年で辞めたいのだが、次の後継者はどうしたらいい?」という質問を「FIRA」にしたそうです。するとすごくいい回答が返ってきた。何の忖度もせずにこんなことを言ってくれるのは「FIRA」だけだと話されていました。
第3回は、9月24日公開予定です。
矢野 和男
株式会社日立製作所 フェロー 兼 株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO
1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。同社中央研究所に配属。2007年主管研究長、2015年技師長、2018年より現職。博士(工学)。IEEE Fellow。
1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。2004年から先行して実社会のデータ解析で先行。
論文被引用件数は4500件、特許出願350件以上。大量のデータから幸福度を定量化し向上する技術の開発を行い、この事業化のために2020年に株式会社ハピネスプラネットを設立し、代表取締役CEOに就任。ウエルビーイングテックに関するパイオニア的な研究開発により2020 IEEE Frederik Phillips Awardを受賞。