電力や鉄道など社会インフラを支える情報制御システムを提供している日立の大みか事業所が、脱炭素社会の実現に向けて本格的に動き始めている。地域やサプライチェーンに実証の場を広げる「大みかグリーンネットワーク」だ。この一大プロジェクトの指揮を執る松本一人と、実証の現場を取りまとめる沖林久徳に、大みか事業所の特徴やその使命、そして、プロジェクトの企図や具体的な取り組み、今後の展望について聞いた。

「第1回:世界をリードする先進の“総合システム工場”をめざして」
「第2回:事業成長と脱炭素を両立するために」はこちら>
「第3回:大みか事業所の多彩な実証プロジェクト」はこちら>
「第4回:脱炭素へ向けたステークホルダーとの協創」はこちら>
「第5回:さらなる協創を広げて、共に脱炭素社会へ――」はこちら>

日立では、2022年度から成長可能な脱炭素をさまざまなステークホルダーと共に協創していく「大みかグリーンネットワーク」をスタートさせました。このプロジェクトでは、地域、サプライチェーンなども含めた社会全体でのカーボンニュートラル達成に向けて、脱炭素関連実証を中心とする各種GX施策を推進しています。

本プロジェクトの起点となる大みか事業所は、1969年の操業開始以来、発電・送配電システム、鉄道運行管理システム、鉄鋼圧延システム、上下水道設備の監視制御システム、工場の生産システムなど、電力・鉄道という重要な社会インフラや産業分野向けに情報制御システムを提供。ハードウェア/ソフトウェアの設計・開発から製造、システム全体の運用保守までを一貫して担っています。また、世界の先進工場「Lighthouse(※)」にも選出された同事業所は、先進技術の開発・活用や新たな環境施策などにいち早く取り組んできた“旗艦工場”でもあります。
※ 世界経済フォーラム(WEF)が第4次産業革命をリードする先進的な工場を指定してDX推進を支援する取り組み。

大みか事業所

さまざまな社会インフラを支える“多様性”の象徴

――日立の大みか事業所について教えてください。

松本
大みか事業所長の松本一人と申します。大みか事業所は、電力や鉄道、社会、産業といった幅広い分野のお客さまに対して、重要な社会インフラを支える情報制御システムを提供している事業体です。そういう意味で、私たちはこの事業所を“総合システム工場”と呼んでおり、業務アプリケーションや制御機器の一貫生産を通して、安心・安全で快適・便利な社会生活の実現と、SDGsをはじめとした新たな社会課題の解決に貢献しています。

日立 松本一人

沖林
GX事業推進部 部長の沖林久徳です。ソフトウェアからハードウェアまでの一貫生産や、それを組み上げてシステムとして構築・提供できる点が大みか事業所の大きな強みと考えています。また、日立全体を通じてIT・OT・プロダクトという要素を1つの事業体で具現化している数少ない事業所でもあります。

個人的な印象としては、日立における“多様性”を象徴している事業所です。各部門・製造現場にそれぞれ個性的な文化や精神性が育まれていること、そして多分野にわたって事業展開していることも含めて、当事業所の営みは実に多様な価値観に支えられているのだと感じます。

日立 沖林久徳

――大みか事業所の社会的な役割や責任についてどのようにお考えでしょうか。

沖林
エンドユーザーが安心・安全な社会インフラサービスを継続的に受けられる、それを安定的に支える確かなシステムを提供することが、大みか事業所の最重要ミッションです。その使命を果たすために、信頼性や可用性を最大限重視しながら受注生産のオーダーメードシステムを厳格な管理の下で開発しています。

大みか事業所に勤務する私たちに通底するのは、“損得より善悪”という会社生活における基本的な価値観です。単に利益を追求するのではなく、自らの仕事の社会的な責務や存在意義を常に意識しているように思います。こうしたマインドは、この事業所で働いてきた諸先輩から脈々と受け継がれ、そして次の世代にも継承していきたい1つの文化にほかなりません。

松本
こういった事業活動を通じて得られた利益を再投資することで、時代の新たなニーズに応えるより良い製品やソリューションを提供していく、そんな好循環を生み出していきたいと考えています。

大震災から学んだ進化への道程

――長年にわたって重要な社会的使命を担ってきた大みか事業所にとって、2011年の東日本大震災は事業所としての在り方に大きなインパクトを与えたと聞いています。

沖林
被災によって電気や水の供給が止まり、機械設備も大きな損害を受けるなど当事業所も危機的な状況に陥りました。そこから事業所を挙げて再稼働をめざしましたが、震災前の操業レベルに復旧するまで約1か月間を要しています。この時の過酷な経験が、エネルギーマネジメントの設備の導入やBCP施策を加速する大きな契機となったのは確かです。

まず取り組んだのが、太陽光発電や蓄電池の整備、工場エネルギーマネジメントシステムの構築や電力使用量の見える化です。さらにその後、フェーズ2として省エネ推進施策にIoTやデジタル技術を取り入れるようになりました。

環境を配慮した取り組みの変遷

――2020年に大みか事業所は日本で初めてLighthouseに選出されました。特にどのような点が評価されたのでしょうか。

松本
2018年に始まったLighthouseは、世界経済フォーラムが第4次産業革命をリードする先進的な工場を指定してDX推進を支援する取り組みです。「Lighthouse」には文字どおり、これからの社会や産業を照らす「灯台・指針」の役目を果たす、という意味が込められています。

Lighthouse選出は、ハードウェアやソフトウェアの設計・開発・製造、システムの試験・運用・保守、またBCP対応強化など、大みか事業所が取り組んできた幅広い施策が総合的に評価された結果だと受け止めています。

沖林
中でも重要だと思われるものは、約50%のリードタイム短縮を実現した「高効率生産モデル」と、契約電力を約29%低減できた「環境エネルギーマネジメント」です。

Lighthouse選出において工場として評価されたポイント

松本
Lighthouse選出以降、大みか事業所では日本の製造業のDX底上げをめざして、生産改革やGXの取り組みをより一層積極的に発信するようになりました。その結果、企業関係者の来訪・視察も増え、お客さまとの接点強化にもつながっていますし、日立のブランド価値向上にも貢献していると思います。

そして2022年度から開始したのが、GXやカーボンニュートラル推進の本格化に合わせて、省エネ・再エネGX実証やCO₂排出量可視化実証などを盛り込んだ「大みかグリーンネットワーク」という一大プロジェクトです。このプロジェクトを契機に、東日本大震災以降、積極的に推進してきた工場運営におけるDXを脱炭素化などに向けたGXにつなげる大きな流れが生まれました。(第2回へつづく

大みかグリーンネットワーク

「第2回:事業成長と脱炭素を両立するために」はこちら>

松本一人(まつもと かずひと)
株式会社 日立製作所 制御プラットフォーム統括本部 事業主管 兼 大みか事業所長
1996年、日立製作所 大みか事業所に入社。産業用コンピュータ・プラント制御用コントローラなどの設計開発に従事。2017年からは社会インフラ向け保守サービス事業の立ち上げに注力。2019年からは発電制御システム本部長に就任し、電力分野へのDX/GX導入を推進。2023年より現職。

沖林久徳(おきばやし ひさのり)
株式会社 日立製作所 制御プラットフォーム統括本部 サービス・制御プラットフォームシステム本部 GX事業推進部 部長
2005年、日立製作所 大みか事業所に入社。鉄道運行管理システムのほか、社会インフラシステム向け共通基盤・情報制御LANの設計開発に従事。2017年からは大みか事業所内で20年来実践してきた高効率生産モデルをベースとする生産改革ソリューションの対外発信・外販化に注力。2019年からは中国市場における製造業向けデジタルソリューション事業の立ち上げに参画し、グローバルな製造DX・IoTビジネスを経験。2023年より現職。