株式会社Gab代表取締役CEOの山内萌斗氏は、どんなきっかけで学生起業家となることを決意したのだろうか? そこには、野球部での挫折と、人から必要とされることの「ありがたみ」を経験したことが大きいのだという。そして、先生になろうと思っていた山内氏に、思わぬ転機が訪れるのである。

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「第2回:シリコンバレー研修で、must haveな事業に目覚める」
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野球に挫折し空手部に転向、見事に優勝を飾る

「私の“志”の原点は、中高5年間活動した野球部での無力感でした。下手だったので、チームに貢献できず、無下に扱われ、必要とされていませんでした。そこで、高校2年生の6月に野球部を辞めました。小学校から空手と野球をやっていたのですが、休部状態だった空手部を再興します。再開してみると野球で培われていたのか体力とパワーもついていて、自分も知らないあいだに強くなっていました。最初の大会で準優勝、2度目の大会で優勝できました。その結果、顧問や部員たちからすごく褒められ、他の高校の部員からも認められました。野球部時代の無力感や辛さが払拭されて、貢献感に変わったんです。人に必要とされること、人からありがとうと感謝されることが私の人生で追求したいテーマになりました。これを私は『ありがとう人口の最大化』と名付けています」

高校2年生で空手部に復帰し、優勝を成し遂げる

山内氏は、教員になることをめざして受験勉強していた時に、ある自己啓発本に触れ、“起業”という選択肢があることを知る。そこからは勉強そっちのけで、どうすれば教育を変えられるのかをノートに書き続ける生活に。

そんな折、ITを活用して教育を変えたいという思いを持ち、当時、静岡大学情報基盤センターの井上春樹教授による「教育と情報学」の公開授業があることを知る。

「公開授業を見に行くと、私がアイデアノートに記したものと、井上先生が研究していたテクノロジーの共通点を多く発見し、この方となら大学に入学してすぐにサービスを形にできると思ったのです。アイデアを固め、資料も作っていたので、入学した4月に先生にプレゼンしました。先生は『すぐにやろう』と言ってくださり、チームを組むことになりました。

そして、生徒同士の議論をサポートするサービスを実装することにしました。例えば、黒板に議論したことを書いてもその授業が終われば、議論の内容は消えてしまいます。これを、動画コンテンツとして保存し、ほかの生徒や教師も共有できるようにすることをめざしたのです。浜松市の4つの高校に提案して、サービスの実証実験をしたところ、生徒の満足度が高く、教師もそれを使うことで授業の効率が向上したことが分かりました。もしこのサービスを40校で使うことができれば、教師として40年間勤めてやることを1年に短縮して実現できるのではないかと考えました。この時、起業家になるということを“自分ごと化”できたんです」

起業家育成プログラムでシリコンバレーへ

「起業家」という目標ができた山内氏は、東京大学の起業家育成プログラムに参加する。最終選考に残りシリコンバレーなどに8日間の研修に行くことができた。前半はカリフォルニア大学サンディエゴ校、後半はサンタクララ大学でアントレプレナーシップの講義を受け、自分のビジネスプランをプレゼンする機会もあった。また、グーグルなどのIT企業の研修にも参加するという内容の濃いものだった。

「どちらの大学でも『must haveな事業』を起こせと徹底的に言われました。起業家の共通認識のようなものでしたね。自分が考えていた教育に関するアイデアは、君の独りよがりの『nice to haveな事業』に過ぎないと指摘されました。実際アメリカでは、すでにもっと進んだサービスがとっくに実装されていたからです」

自分が“井の中の蛙”だったことを思い知らされた山内氏。ただ、それよりも現地で出会った起業志向の学生たちのキラキラぶりは日本で交流していた起業家たちとは違うものだったという。

サンタクララ大学で自らのビジネスプランを発表するも、「nice to have」ではダメと酷評される

「学食でも常に熱い議論が生まれていて、パッションとそのビジョンの大きさ、インスピレーションの形に圧倒されました。『起業よりも就職の方がリスクだよね』なんて会話もあって。それに、起業志向の学生に対して教授が真剣に向き合っていましたし、学生同士も尊重し合っている空気にめちゃめちゃ感化されました。また、ある女性起業家の、『私の事業は人類を幸せにするし、その貢献感によって私も幸せになるんだ』という言葉も印象に残っています。その姿を見て、自分もこうなりたいというロールモデルが明確になったのがシリコンバレーでの経験だったんです」

日本に帰国後コンテストに優勝しノリと勢いで起業

アメリカの地で「自分自身もこんな生き方をしたい」とうイメージが生まれた山内氏は、帰国後「must haveな事業」を軸にアイデアを練っていく。それが、前回紹介したタイミーが主催する合宿型のビジネスコンテストへの参加だった。

「そのビジネスコンテストで優勝した時に、審査員からは『ゴミ問題は人類規模の問題で課題が圧倒的に深い。解決できれば大きな事業になるし、人類に必要不可欠な事業になる』と、背中を押してもらいました。実際のところ『must have』になるかまでは想像できていませんでしたが、ノリと勢いで10月に大学を休学して、11月に上京、12月に起業しました」

大学2年時、タイミーが主催する合宿型ビジネスコンテストで優勝する。

直後に投資家にプレゼンをし、1,000万円の資金調達を果たす。だが、そのタイミングで誰もが不可避の「コロナ禍」に遭遇する。

「人流がないので、屋外広告も販売できません。市況を読めなかったこともあり、あっという間に100万円まで口座残高が減りました。経営危機になり軌道修正を考えざるを得ませんでした。人に会い、行動しながら見つけたのは、次の2つの問いでした。まずは、ごみ箱を設置せずにポイ捨てを撲滅できる効果的な策はないか? そして、そもそもゴミが発生しないモノづくり、売り方、消費者の意識改革ができないかということです。それが『清走中』と『エシカルな暮らしLAB』の事業に繋がっていくのです」(第3回へつづく)

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山内 萌斗(やまうち・もえと)
株式会社Gab 代表取締役CEO 

2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中。東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表。大学1年次の2月にシリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意し、同年12月に「ポイ捨てをゼロにする。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。現在4期目。フォロワー4万人のInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の運営や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」の全国展開など、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる」をミッションに掲げて複数の事業を展開中。