株式会社 製作所 サービスプラットフォーム事業本部 場家康雄/森岡俊行
日立が構想する「サプライチェーンコーディネーションサービス」の全貌とは。その根底には、ESG経営への対応やBCP管理の強化だけにとどまらない、日本の産業の将来に対するポジティブな思いがある。

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「第2回:サプライチェーンのデジタルツイン」
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段階的連携から、Web型連携へ

――日立が構想しているサプライチェーンコーディネーションサービスの概要を教えてください。

場家
まず、製造業全体の共通認識としてあるのが、従来と今後とでサプライチェーンのあり方が変化するという前提です。従来はQCD(Quality,Cost,Delivery)と与信をもとに取引先を選定していました。また、モノや情報が一企業から一企業へと段階的に流れていたため、バイヤーはサプライチェーン全体を管理することができず、各サプライヤーと個別に連携せざるを得ませんでした。これに対して今後のサプライチェーンは、顧客起点で全体が瞬時に同期するWeb型になっていくと同時に、従来のQCDに加えESGリスクも考慮した取引先選定が求められます。

日立が構想しているサプライチェーンコーディネーションサービスも当然Web型であり、次の2つの考え方を柱としています。1つは、地球環境や労働環境などに関するトラスト評価をデータに基づいて行うことで、ESGリスクに配慮した取引先選定を支援する。つまり、環境価値の向上と経営効率という一見相反する要素を両立させることで、サプライチェーンのレジリエンスを確保します。もう1つは、フレキシブルかつタイムリーな契約、調達、製造、決済を可能とする取引環境を提供する。つまり、日々変化する多様な顧客ニーズへの対応と、経営効率を両立させるというものです。

日立が構想している「サプライチェーンコーディネーションサービス」の活用イメージ

これによって、ESGを重視する顧客のニーズに応えると同時に、先ほど申し上げた過剰在庫をはじめとする「ムリ・ムダ・ムラ」を解消するというしかけです。いつどんなモノがどれだけ必要なのかを、市場の需要を起点にして、各ステークホルダーの間で瞬時に共有できる世界をめざしています。

臨機応変にサプライチェーンを再編

――具体的には、どのようにサプライチェーンのレジリエンスを実現するのでしょうか。

場家
冒頭で森岡から申し上げたように、レジリエンスとはサプライチェーンにおいてモノや情報の流れが寸断されてしまう事態を防ぐことを意味します。例えば、大きな自然災害やパンデミックが起きた場合にサプライチェーンにおいて生じうるリスクをあらかじめ可視化できていれば、有事の際に代替先となるサプライヤーを、前もって検討できます。通常時の調達ルートが寸断されてしまっても、すばやく迂回ルートに切り替えられる。つまり、臨機応変にサプライチェーンを再編できるのです。

日立 場家康雄

また、サイバー空間において現実世界とまったく同じサプライチェーンを構築することで、刻々と変化する市場の状況に即応した調達計画を可能にします。顧客、販売拠点、流通拠点、倉庫、そして各サプライヤーの関係をサイバー空間に再現することで、流通のシミュレーションを行うことができるのです。工場レベルでのデジタルツインを実現するSCMシステムはすでに世の中に存在していますが、日立は生産拠点にとどまらず、サプライチェーン全体のデジタルツインを実現することで、製造業に関わる産業全体の発展に寄与します。

日本の産業全体のトラストを底上げする

――取引先のESGリスクを判定する際、どんな点に着目していますか。

場家
カーボンニュートラルへの関心の高まりを受け、CO2の排出量を地球環境に関わる指標の1つとしています。また、雇用環境が人権侵害に抵触していないかどうかも重要な評価項目です。近年、フランスのEcoVadisやイギリスのSedex Advanceなど国際的な評価サービス機関が現れており、そういった外部の調査機関が持っているデータを活用した判定を考えています。

――フレキシブルかつタイムリーに取引できる環境を実現するのは、容易ではないと思います。日立がサプライチェーンコーディネーションサービスにおいて特に力点を置いているポイントはどこでしょうか。

森岡
我々が解消したいのは、ステークホルダーと情報共有ができなかったために注文を取り逃してしまうという事態です。あるいは、先ほど場家から申し上げた代替ルートの選定も必要不可欠ですし、もし代替先がない場合には、リスクが顕在化する前に先行して製品を生産するための調達計画を自動で立案するという選択肢も用意したいと考えています。平常時と有事それぞれにフレキシブルに対応できることが、サプライチェーンの強靱化をもたらすと考えています。

日立 森岡俊行

ただ現実的には、サプライヤーを容易に変更できないケースも多くあります。その場合には、QCDやESGの観点からサプライヤーを評価させていただいてリスクや弱点を可視化し、それを改善するためのソリューションを日立から提供する。もしくはバイヤーからサプライヤーに対して、改善に向けたアドバイスをしていただくというケースも想定しています。

トラスト評価の高い企業との取引だけをサポートするのではなく、このサービスをご利用いただくすべてのステークホルダーのトラストを高め、サプライチェーンそのもののレジリエンスの向上を図る。こうして一つひとつのサプライチェーンが改善されていけば、ひいては日本の産業の強化にも貢献できるのではないか。これが我々のスタンスです。(第3回へつづく)

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森岡俊行(もりおか としゆき)
株式会社 日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 マネージドサービス事業部 部長
2004年、日立製作所に入社。企業間取引を支援するクラウドサービス「TWX-21」を牽引する部署にて、一貫してサプライチェーンマネジメントシステムの企画・開発に従事。2015年から上海拠点にて中国でのクラウドサービス事業の立ち上げとサプライチェーンマネジメントのコンサルティングを経験したのち、2020年より現職。サプライチェーンコーディネーションサービスのプロジェクトチームを統括している。

場家康雄(ばっけ やすお)
株式会社 日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 マネージドサービス事業部 主任技師
1995年、日立製作所に入社。情報通信事業部にて、通信関連のソフトウエア開発やプロジェクトマネジメントに従事し、米国駐在も経験。2014年から在庫管理システムの開発に携わり、IoT領域において顧客企業との協創に貢献。2019年より現職。サプライチェーン関連の新規サービス立ち上げとサプライチェーンコーディネーション構想を担当している。