「若者世代の考えを経営者は理解できていない」という実感があると佐座槙苗氏は言う。一般社団法人SWiTCHは、そうしたギャップを埋めるための方策をアジャイルに開発している。直近で力を入れているものとして、大学と企業の対話を促すようなプログラムを開発中だ。学生と経営者とがダイレクトに話すことで、お互いの理解が深まり、次への行動へ移れるからだ。そうすることで、経営者にも大きなメリットがあるのだという。

「第1回:Z世代のサステナリテラシーを更に上げたい」はこちら>
「第2回:少子化で若者の奪い合いになる日本」
「第3回:日本をサステナ先進国にする道を探る」はこちら>

経営者と若者が対話できるプラットフォームを作りたい

「経営者の方たちに、Z世代の考えを伝える仕組みを作りたいと動いている最中です。これは、日本に限らずなのかもしれませんが、若者がどんな考えを持って行動しているのかをぶつける機会がありません。また逆に、『若者たちが何を考えているのかわからない』と思っている経営者層も多いのではないでしょうか。ですから、経営者と若者たちが対話できるプラットフォームを提供できればいいなと」

佐座槙苗さんの想いは極めてシンプル。日本の経営者と若者たちの意識のギャップをなんとかして埋めたいのだ。

第1回で触れたように、SWiTCHは若者にサステナブルのジャンルにおける、世界の常識や動きを伝える活動をしてきた。次なるステップは、企業活動の方向性に決定権を持つ経営者に向けて、ダイレクトに若者の想いを伝える機会の創出だ。

「経営者という立場にあると、とても忙しいでしょうし、さまざまな責任を背負うだけに、本音で話せない部分もあると思います。ただ、若者たちはそうしたものを乗り越えて、対話することから生まれる変化に期待をしているんです。企業が社会のためになる活動をどのように取り組んでいるのか?サステナブルな社会のために何をしてくれるのか?そしてどんな未来を描いているのかを知りたいのです」

早稲田大学「大川ドリーム基金寄附講座」で講義をする佐座氏

就活生は「社会貢献度が高い企業」を一番の指標に

SWiTCHがまずターゲットにしているのは大学生。彼らは企業との連携の仕方もわからなければ、どうすればサステナブルな活動を引き出せるかについての知識もない。また、大学という組織の中で、学生をどのように導けば、自発的な行動変容を促せるのか?大学側はどうやって学生を巻き込んでいくのか?そうした課題を解決するためのプログラムを開発中だ。学生がどのような立場、組織で参加してもらうかは今後の検討課題だそうだが、すでに、東京大学や早稲田大学とのミーティングもはじまっている。

「経営者の方にアピールをしたい理由はもう1つあります。Z世代は日本の人口の22%を占めていますが、お話したようにESD教育をきちんと受けています。ゆえに社会に貢献していない企業に対しては、厳しい目を持っています。95.9%のZ世代が就活の時点で、SDGsの17ゴールの中身を知っています。その上の世代も単語や意味を知っている人は増えてはいますが、まだまだ“自分ごと”になっていません。いまの学生たちは就職先を決めるにあたって、社会にどれだけ貢献している企業であるかを、最も高い指標にしていることをご存知でしょうか?」

就活生は企業のウェブサイトやCSRレポートなどでしか、サステナブル活動の内容を知る術がない。そうして調べた情報や計画を信じて就職してみたものの、実際の企業活動は、想像していたほど進んでおらず、失望してしまう若手社員が多いのだという。

SHIBUYA QWS内でも、サステナ部と名付けた啓発活動を定期的に開催

優秀な若手の獲得競争が激化する

「やりたいと思っていた仕事ができない、取り組みたかった社会貢献につながる仕事ができないと、転職してしまう人が増えています。終身雇用の時代が終わっている現状では、優秀な人材の奪い合いになってきています。これから少子化がますます進みますから、若い世代の獲得競争はさらに激しくなるでしょう。日本に理想とする勤め先がないのであれば、海外というオプションだってそれほど困難な時代ではありません。志ある若者を日本に留めるためにも、経営者の方たちにはもっと若者の声に耳を傾け、彼らの活躍できる場を設けてほしいのです」

そのようなギャップを解決するために、環境問題に関する“言語”を共有できるようなアプリ開発も視野に入れている。

「国連環境計画(UNEP)が若者世代に向けたサステナブルマニュアルを作りましたが、240ページもあって、誰も読みたくないものになっています。学生には読み込む時間もありませんし……。そこで、その中身をクイズにして楽しみながら解いていくような形にできないだろうかと。共通の話題になるものを、若者サイドも経営者を始めとする企業サイドの人たちにも、あらかじめアプリを通じて取り組んでおいてもらう。そうすることで、お互いにサステナブルや、循環型の社会についてのキーワードを理解した上で、実際に対話をはじめてもらえるのではないかと考えています」

サステナブルはオプションではない

ただ、そうした共通言語を増やすことは、あくまでも気づきであり、入り口であり、土台に過ぎないのだと佐座さんは強調する。

「若者世代と企業が対話することによって、企業は『なんだ、こういうことだったのか。だったらすぐに取り組めるよ』となることも多いのではないかと予想しています。また、『若者世代は何を考えているかわからない』という、不必要な恐れを取り除けるのではないかとも思っています。若者たちはもうとっくに気づいているんです。『サステナブルってオプションの1つでしょ』と思っている経営者が多いことを。ですから、サステナブルアンバサダー育成も、企業と大学とのマッチングも、『社長、その考え方は古いです』と言える若手社員を増やしていくことにつながっていくと思っています。そこから、実際に行動を起こす人を増やしていければと考えています」

佐座さんは複合的な視点から、気候危機を克服し、循環型社会に到達する最短のルートを見据えているようだ。(第3回へつづく)

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佐座槙苗(さざ・まな)
幼少期を福岡県で過ごし、インターナショナルスクールを経て、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学にて人文地理学を学ぶ。2019年ロンドン大学大学院 サステナブルディベロプメントコースに進学。コロナ禍でいったん日本に帰国。140カ国の若者が気候変動について議論する「Mock COP26」の立ち上げに参加した後、2021年1月一般社団法人SWiTCHを設立し代表理事に就任。