世界に冠たるファッション大国の一つである日本。だが、生産拠点を海外に依存するアパレルブランドも増え、縫製工場を始めとする国内のアパレル産地はその数を減らし続けている。そうした状況を打破しようと立ち上がったのが、シタテル株式会社。アナログ的で複雑な仕組みに縛られ、分断されていたサプライヤーを訪ね歩き、誰もが簡単に衣服・ライフスタイル製品を生産できるプラットフォームを作り上げたのだ。代表取締役CEOの河野秀和氏に、現在の状況を聞いてみた。

「第1回:古い商慣習に分断された衣服の生産を誰もが使えるクラウドサービスに」
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誰もが自由に衣服を生産できるプラットフォームを提供

ファッション業界は、人間の日々の暮らしに欠かせない「衣」の分野を担っているが、近年その先行きは不透明だ。かつては、大量生産・大量消費によって「流行」「トレンド」を作り上げ、多くの商品をさばいてきたアパレル産業は、大きな岐路に立っている。そんな業界において、ITを駆使して、川上から川下まですべての領域を“ネットワーク化”し、全体最適のシステムを作り上げたのが「シタテル」だ。「サプライチェーンを革新し、想像力を解き放つ」をミッションに掲げる、同社代表取締役CEOの河野秀和氏に話を聞いた。

「シタテルは誰でも自由に、スマートに衣服・ライフスタイル製品を生産できるプラットフォームを提供する企業です。何かを作るという行為は、特別な才能を持った人だけのものではないと思っています。ひとが持つイマジネーションの力を引き出して、より豊かな未来をめざして“知的想像”と“創造的想像”を調和させて、新しいモノやコトが生み出されていくインフラを作っていきたい。そうした想いから、弊社のビジョンとして“IMAGINATION”を掲げています」

落ち着いた口調で、河野氏は切り出した。

長い年月顧みられることのほとんどなかった、アパレル産業の構造的問題に対するソリューションをシタテルは提供しているのだ。

「急速に衣服のライフスタイルに変化が起きていると感じています。2000年台初頭には、ユニクロのフリースが数千万枚以上も売れた時代がありましたが、いまは一つのアイテムがたくさん売れる時代ではありません。生活様式も変わり、趣味趣向、ニーズが細分化しており、そうした時代になったからこそ、私どものサービスが受け入れられる余地があるのだと思っています」

アパレル業界の三つのボトルネック解消してDX化を促進

問題点の最たるものは、バリューチェーン上において、企画~販売の過程で数多くのプレイヤーが存在することだ、と河野氏は指摘する。

「資材や原材料(糸・生地)を扱うメーカーに始まり、縫製工場、加工工場、ブランド事業者、物流企業、デザイナー、繊維商社など、多くの企業によって1着の洋服は作られていますが、川上・川中・川下の多重構造による縦の分断が起きています。さらにそれぞれの企業ごとに独自のバリューチェーンを構築しているので、そこで横の分断が起きています。結果としておのおのが閉鎖的なリソース環境に陥っています」

縦と横の両面で企業ごとの分断が起こっている

さらに河野氏は、アパレル業界には三つのボトルネックがあると続ける。

「一つは見込みで大量生産を行う商習慣と、長いリードタイム。先に説明した分断と関わりがありますが、二つ目が断絶されたアナログかつ属人化されたサプライチェーン。そして、三つ目は硬直的な取引関係です。こうした業界構造により大量生産・大量廃棄・在庫問題などの悩みをずっと抱えていましたし、なにより透明化や効率化が果たされていませんでした」

クラウド上で、生産から販売まで一気通貫で完結できるサービスだ

そんな現状においてシタテルが提供しているサービスが、「sitateru CLOUD」だ。

「このサービスは、2015年にローンチした衣服生産プラットフォームの『sitateru』を発展させたSaaS(Software as a Service)です。2020年にスタートしましたが、衣服・ライフスタイル製品生産における情報管理や共有、各サプライヤーとのコミュニケーションも含めてデジタル化したサービスです。生産管理だけではなく、衣服を含めたライフスタイル製品の生産・販売・配送までをクラウド上で完結できる機能もあります。注文数のみ生産・販売を行うので、理論上の在庫はゼロになります。弊社のサービスを利用することでを納期を短縮でき、適量生産が可能になりました」(河野氏)

顧客満足度など、多くの指標でNo.1評価を得る

2022年3月現在、「sitateru」の登録ユーザーは22,000社、国内外の縫製工場などのサプライヤーは1,700社を数えるまでになった。イメージしているのは、アパレル生産におけるAWS(Amazon Web Services)だというが、ただ、効率化だけを追求するサービスではないことを強調する。

「衣服の生産管理をアプリ上で完結させることが理想だとは思っていますが、この業界はデジタル化、IT化への取り組みが遅れていたこともあって、取り入れていただいている事業者のITスキルやアパレルに関する知識もまちまちです。ですから、弊社の<カスタマーサクセス>と言われる伴走型の担当部署が、直接、あるいはチャットなどを通じて使い方や、効率的な運用に関するサポートを適切に行うようにしています」

そうしたきめ細かな対応も相まって、顧客満足度も高く、チャーン(解約)率も3%と、低い水準に抑えられているという。アパレルクラウドサービスにおける導入クライアント数(累計)No.1(※1)であり、サービス満足度、使いやすさといった指標でもNo.1(※2)評価を獲得している。縮小傾向にある日本のアパレル業界を救うシステムを提供しているシタテルは、「作り手」である工場などのサプライヤー側の多様なニーズにも対応、服を販売する「ブランド」の負荷を減らし、「買い手」にも、効率的に商品を届ける三方よしのビジネスモデルを構築したのである。

(※1)日本マーケティングリサーチ機構調べ 調査概要:2022年2月期_指定領域における市場調査(日本国内における検証調査)
(※2)日本マーケティングリサーチ機構調べ 調査概要:2021年1月期_ブランドイメージ調査

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河野 秀和(かわの ひでかず)
メーカー、金融機関を経て独立。経営支援事業や衣服のカスタマイズ事業を行い、VC主催のアクセラレーションプログラムにより、サンフランシスコ/シリコンバレーでITビジネス、スタートアップ企業の経営戦略、グローバル戦略、ファイナンス戦略等見識を深める。2014年シタテル株式会社を創業。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員やISS(国際宇宙ステーション)船内着のゼネラルディレクター、熊本大学非常勤講師など熊本と東京を拠点に活動。