飲食店や料理教室、グルメツアーなどを予約すると、途上国の子どもたちに学校給食が届けられる――。そんなアプリ、プラットフォームの開発・運営を手掛けるのが、株式会社テーブルクロスだ。
「すべての子どもたちが食料、教育、そして幸せを手に入れることができる、食のプラットフォームとなる」をビジョンに掲げている企業だ。従来の寄付やボランティアと異なったIT時代を象徴するようなサービスはどこから生まれたのか。大学3年生で起業した、代表取締役CEOの城宝 薫氏に聞いた。(※取材はリモートで実施)

「第1回:途上国の子どもたちに幸せを届ける『食』のプラットフォーム」
「第2回:経営者・城宝薫氏を産んだ2つの原体験」はこちら>
「第3回:“四方よし”のエコシステムを広げたい」はこちら>

「予約が寄付につながる」を文化に高めたい

飲食店予約ができる大手グルメアプリと同様の機能を持ちながら、それらとは一線を画すのが、社会貢献ができるグルメアプリ「テーブルクロス」だ。それは、このアプリを使って飲食店を予約すると、予約1人に対して10食分の給食が途上国の子どもたちに届けられる仕組みが実装されているから。ユーザー1人が予約をするたびに、飲食店から広告手数料が支払われ、そこから提携しているNPOに給食費が贈られる。

テーブルクロスの代表取締役CEOの城宝 薫氏は、ハキハキとした口調でこう切り出した。

「予約することが寄付につながるーーこれを私は日本の“文化”にしていきたいのです。寄付が一般化している欧米と比べて、日本では寄付への心理的ハードルが高いように感じます。でもテーブルクロスを使えば、飲食店予約をするだけで社会貢献ができ、ユーザーにかかる費用はゼロです。寄付金は飲食店にご負担いただく広告手数料から支払われます。これが弊社サービスの大きなポイントです」

給食支援は、子どもたちを学校に通わせる、重要な教育支援につながっている

世界の食卓を、国境を越えてつなぐ

「学校給食支援事業は“Food for Happiness Program”と呼んでいます。今はアフリカ大陸東南部の内陸国マラウイの子どもたちに給食を届けています。その理由は、子どもたちを学校に通わせるためでもあるのです。給食が届くようになると、それを目当てに学校に通ってきます。そこから『もう帰れないよ』と、みんなを着席させて、『今から文字の読み書き、社会の勉強をします』という流れを作る。つまり、教育に繋げる一つのフックとして給食を届けている支援事業なんです」と、城宝氏はその狙いを説明する。

テーブルクロスが運営するもう一つのグルメサイトが「byFood.com(バイフードドットコム)。英語版のみの展開で、日本の飲食店やグルメツアー、料理教室などの予約ができるもの。これも、1人の予約ごとに10食の学校給食を、「Food for HappinessProgram」を通じて途上国の子どもたちを支援。この2つのサービスを通じて、これまでに32万食弱の給食を世界の子どもたちに支援してきた。

「社名の由来は食卓を表すテーブルと、布のクロスではなく、つなぐを意味するCROSSを掛けたものです。食卓と食卓を、国境を越えてつなぐ、という意味です。日本で食べている食事が、世界中の誰かのためになっていく。食べる側も、支援が届く側も、どちらにも幸せが広がっていくような、そんなエコシステムの輪づくりをしたいという想いが込められています」(城宝氏)

byFoodが紹介する「日本の食動画」の再生数は7850万回以上

日本中の食文化を紹介する「byFood.com」のユニークさ

「byFood.com」は、地方自治体と協力し、YouTubeなどのメディアを活用して、日本全国47都道府県すべての食文化を紹介することで、局地観光に代表されるオーバーツーリズムの解消と地域活性化をめざしている。2021年11月現在、YouTubeチャンネル「Japan by Food」 の再生数は150万回に達し、byFoodのコラボレーション動画の再生数は7850万回を超えている。

「アジアや中国に強い企業は国内でも多くありますが、私たちはアメリカとヨーロッパに強い企業で、そこに優位性があると考えています。アプリの作り込みも欧米に特化していますし、SEOの組み方も徹底的にアメリカをターゲットにしています。なぜかというと、約5割の外国人旅行者は東京・大阪・京都などの有名主要都市を中心に回るだけ。言葉の壁があるので、旅行者は観光で訪れる街が限定されてしまっています。我々は、そのギャップを埋めて、知られざる地方の豊かな文化・食体験をより身近なものに感じてもらえるようにしたい。株式会社テーブルクロスはグルメメディアを運営する企業ですから、そのレストランを訪れるためだけにその街に行く価値があるとされる、ミシュラン1つ星クラスの体験を、多くの訪日客にしていただきたいのです」(城宝氏)

エンドユーザーのCXが何よりも大切

そうしたマインドセットの観光客は、比較的欧米人が多いことも英語版のみのグルメプラットフォームになっている要因だという。ただ、「byFood.com」には、ハラルやベジタリアン、ヴィーガン、コーシャといった食べ物のイベントも含まれている。あらゆる文化的背景を持った人が参加できる、ここにしかないオリジナルサービスが充実している。また、株式会社テーブルクロスは、サステナブルツーリズムを意識。観光客がその地域に訪れたことによる環境破壊を回避し、訪れた人の数だけ地域の経済が活性化し、貢献になる、そんな商品・サービスを提供している。例えば、三重県の古民家で、他の土地では食べられない部位の松阪牛を堪能できるコースや、秋田県で地元の方と会話を楽しみながら、きりたんぽを手作りして鍋で食べるなどの体験コンテンツが用意されている。

「欧米の、特にフランス・ドイツの人たちは意識が高いです。『自分たちがこの地域に訪れたことで、サステナブルな経済貢献ができ、さらに地域を応援できてよかった』という感想を寄せていただいています。我々が大切にしている、エンドユーザーの顧客体験(CX: Customer Experience)が少しだけでも実現できているかなと、嬉しくなりました」と、笑顔で語る城宝氏だった。(第2回へつづく)

「第2回:経営者・城宝薫氏を産んだ2つの原体験」はこちら>

城宝 薫(じょうほう かおる)
立教大学経済学部卒。高校時代の米国フロリダ州オーランドでの親善大使、大学時代のアルバイトなどを通じて、ビジネスと社会貢献を両立させる「CSV」への関心が高まり、大学3年生の6月に株式会社テーブルクロスを起業。モバイルアプリ「テーブルクロス」、グルメプラットフォーム「byFood.com」の運営を行う。食体験と、途上国の子どもたちへの給食支援をつなぐ事業、さらに地域創生へもアプローチするなど、精力的に活動している。