新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会、ビジネスの様相は大きく変わった。そのインパクトはコンテンツマーケティングの世界にも押し寄せている。先が読みにくい時代、小川氏は今後の展開をどう予想しているのか。経営者としての戦略立案の方針や、ポストコロナ時代のコンテンツマーケティングのポイントについて聞いた。

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“水たまり”を独占しても意味がない

――経営者として、会社や新規ビジネスを立ち上げる際、どのようなプロセスで戦略を検討するのですか。

小川
まず、参入する市場が、手間やお金などのリソースをかけて入るだけの大きさがあるものかどうかは調べます。市場を独占できるかどうかは大事ですが、その市場の大きさが十分に大きいかどうかを知ることも非常に重要です。“水たまり”を独占しても意味がないですよね。“海”なら最高、最低でも“湖”くらいは欲しいとか、そういったことを精査します。

同時に、そもそも自分のアイデアが、市場で「勝てる」ものなのかも大事です。「勝てない」、あるいは「小さくしか勝てない」のでは意味がありません。十分な市場の大きさがあり、勝てるアイデアがあれば、断固とした覚悟を持って挑むべきでしょう。

また、今、成功している会社の多くは、時代の変化に合わせて方向転換(ピボット)しています。当初はソーシャルメディアをやっていたけど、今はゲームをやっているとか。このように、潮目を読んで、盛り上がる波が来たら乗り換えるといった柔軟さも、成功するための1つの要素だと思います。その点、リボルバーは、創業以来一貫してコンテンツマーケティング支援サービスという同じことをやっている。ある意味、ちょっと不器用な会社といえるのかもしれません。

株式会社リボルバー 代表取締役CEOの小川 浩氏(※取材はリモートで実施)

コンテンツ自体の再利用性も重要なポイント

――ただ、コンテンツマーケティングを軸としながらも、時流に沿ってそのポイントは変化させてこられています。あらためて、オウンドメディアを使うコンテンツマーケティングで重要な考え方について教えてください。

小川
マス広告が、一発で大きな効果を狙う大砲なら、オウンドメディアを使ったコンテンツマーケティングは小さな拳銃のようなものです。繰り返しになりますが、“雨だれ石を穿つ”です。時間をかけてじっくりやっていく心構えを持つことが大切だと思います。

これは聞いた話ですが、コンテンツがターゲットとする対象者に読んでもらえる確率は0.2%を切るそうです。少し前の話なので、情報過多が加速する現在はもっと下がっているかもしれません。人々が情報を摂取するスタイルも多様化している今、1つのコンテンツが“バズった”からといって、見せたい人に届いているとは限らないのです。

仮に0.2%とすると、コンテンツを500個作ってようやく1つ届く計算です。だからこそ、継続的に“穿つ”ことが大切なのです。とにかくたくさんコンテンツを作り、ターゲットに届き、効果が出るまでコツコツと地道に続ける。そのためにはdinoのように、簡単に、かつ楽しみながら続けられる仕組みが不可欠だと考えています。

多くのコンテンツをつくり、継続的に“穿つ”ことがコンテンツマーケティングのカギになる

――よいコンテンツのつくり方についても、アドバイスをお願いできますか。

小川
オウンドメディアは、制作したコンテンツのアーカイブを自社で管理できるところが特徴です。これを生かすには、「再放送できるコンテンツづくり」が1つのポイントになるでしょう。例えば、記事を書く際の時間軸は、「今年」「昨年」ではなく明確に「2021年4月」のようにする。そうすることで、あとで読んだ人がいつの情報なのかわかるようにします。同じコンテンツが公開時期とは異なる数年先に再利用されるかもしれないと考えれば、タイムスタンプを明確にしておくことがとても重要です。

また、「一見さんを大事にする」こともポイントです。例えば、PVではなく、継続的に読んでもらうのが目的なら、過度に扇情的な表現は避け、読みやすくわかりやすいコンテンツづくりを心がけるべきです。フォーマット自体も、誰が、いつ、どのページから来訪しても楽しめるものになっているかどうか、を考えるべきだと思います。もちろん、PVを上げ、広告やECでマネタイズするメディアであれば、この点は変わってきますが、目的によってコンテンツ自体のつくり方を変えることが大切です。

ファーストスクリーンの多様化に対応する

――また、2020年からのコロナ禍で、社会やビジネスの様相は大きく変わりました。オウンドメディアを使うコンテンツマーケティングのあり方はどう変わるのでしょうか。

小川
全世代が共通して使っているデバイスはスマートフォンなので、引き続きスマホでの閲覧を中心に考えるべきなのは変わらないと思います。もちろん、新しい流れも生まれています。オフィスのPCで趣味系、エンタメ系のコンテンツは見ないと思いますが、在宅勤務環境ならどうでしょうか。休憩中に、個人のPCやタブレットで好きなコンテンツを見ている人は多いはずです。

つまり、情報にアクセスする際の「ファーストスクリーン」は、基本的にはPCからモバイルへとシフトしつつあるとはいえ、自粛生活の中で多様化しているわけです。となると、オウンドメディアのコンテンツも、スマホに加えてPC、タブレット、スマートウォッチなど、さまざまなデバイスに最適化する必要があります。従って、デバイスによる見え方の違い、壁をなくし、見たい時に、見たいデバイスで、快適に見られるようにすることが、コンテンツを見る人の満足度向上につながると思います。

――最後に、dinoの機能強化の予定などを含め、リボルバーがこれからめざすものをお聞かせください。

小川
今の話とは相反するようですが、コロナ禍が終息すれば、ふたたびスマホ中心のスタイルに戻っていくと私は考えています。そこまで踏まえて、今考えておくべきは、コンテンツを各デバイスに個別最適化するのではなく、あらゆるデバイスに対して「普遍性」を持たせること。dinoも、基本はこの「普遍性」を高める方向で、機能強化を進めていきます。

また企業経営者としては、コロナ禍も踏まえ、変化するマーケティング市場で少しでも多くのシェアを獲得し、ブランド知名度を高めていければと思います。

小川 浩

商社勤務で東南アジアに駐在したのち、マレーシアでネットベンチャーを立ち上げる。帰国後、2001年5月から日立製作所、2005年4月からサイボウズに勤務。2008年、EIR(客員起業家制度)を利用してMODIPHI(モディファイ)を設立。2012年7月にリボルバーを設立し現在に至る。パブリッシングプラットフォーム「dino」を主力サービスとして、オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティング支援を行う。