インターネットにアクセスする際、私たちは無意識に無数の「コンテンツ」に触れている。文章や画像、動画など、コンテンツの種類や内容は多種多様だが、そこから得られる情報が暮らしに欠かせないものになりつつあることは間違いないだろう。リボルバーは、コンテンツを簡単・迅速に公開するための仕組みを提供することで、企業・組織の「コンテンツマーケティング」を支援する企業である。事業の狙いや同社のミッションについて、代表・小川 浩氏に聞いた。

業界でも珍しい「ファストマーテク企業」というポジション

――初めに、御社の事業概要や、サービスについて教えてください。

小川
パブリッシングプラットフォーム「dino」の開発・提供をベースとした、コンテンツマーケティング支援を行っています。dinoはいわゆるSaaS(Software as a Service)ですがクラウド型のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)と呼んだ方がわかりやすいかもしれません。

コンテンツマーケティング支援を行う会社は、大抵の場合コンテンツ制作やメディア運営、SEO対策などを請け負うことが多いのですが、当社はコンテンツ制作やメディア運営を行うためのテクノロジーそのものを提供します。この点がユニークポイントだと考えます。dinoを使うことで、自社でオウンドメディアの構築・運営、ネイティブアドの配信、定期購読(サブスクリプション)型の会員登録サービスの運営などが行えます。

株式会社リボルバー 代表取締役CEOの小川 浩氏(※取材はリモートで実施)

――企業は、作成したさまざまなコンテンツをWeb上で公開して、新しい顧客にリーチしたり、既存顧客のロイヤルティを高めたりできる。コンテンツマーケティングの実践につなげられるわけですね。使おうと思ったら、すぐに利用できるものなのでしょうか。

小川
はい。dinoはSaaS型で提供しているため、サーバーなどのITインフラが不要で、コストを抑えつつ誰でもすぐに利用開始できます。この点も、サービスの特長といえるでしょう。

当社が掲げているのは、「ファストマーテク企業」というコンセプトです。流行を取り入れつつもコストを抑えたファスト(Fast)なマーケティングテクノロジー(=MarTech)を、短いサイクルで開発して提供する。そんな会社でありたいと考えているのです。

もともと我々は、インターネット上に置いていなかった、紙媒体などにのみ存在する良質なコンテンツを、ネット化する必要性を訴えてきました。オフラインからオンライン、アナログからデジタルにコンテンツを迅速に置き換えること、いわば『ファストWeb』の必要性です。そのために必要なテクノロジーのうち、とりわけマーケティングに必要なものをマーテクと呼び、ファストWebの考え方に即してマーテクを開発し、提供することをファストマーテク、と呼ぶのです。

ファストマーテクについては、ファッションを例に挙げるとわかりやすいと思います。ランウェイで発表された最新のファッショントレンドをラグジュアリーブランドが商品化するには、何カ月もかかります。しかし、トレンドのエッセンスを取り入れたそれなりの質と価格の商品を、流行が始まると同時にすぐに販売することができたらどうでしょう。ラグジュアリーブランドには手が出せない人にも、最新のトレンドの洋服を届けられるようになりますよね。ファストビジネスとは、この“スピード”と“低コスト”を両立するための仕組みを考え出すことによって生まれます。ファストマーテク、および「ファストWeb」というコンセプトは、このファストファッションのビジネスモデルと同義なものです。

メディアを即日立ち上げることも可能に

小川
Web上でコンテンツマーケティングを始める際、自社でオウンドメディアをつくろうとすると、HTMLやCSS、ネットワークなどの知識やスキルが必要になります。ですが、それらの知識・スキルを備えた人(技術者)と、コンテンツ制作ができる人(記者または編集者)は、案外一致しないのです。かといって、外注するには多くの時間とお金が必要になります。

そんな時、dinoを使えば、最先端のテクノロジーとトレンドにキャッチアップしたメディアをつくって、短期間で公開することも可能になります。メディア構築のための深い知識や高いスキルは不要、エンジニアやデザイナーなどの技術者を抱えるための時間やお金を省いて、「コンテンツを公開する」というメディア運営のキモの部分にフォーカスすることができます。これが我々がdinoを通じてお客様に提供したい"価値"ということになります。

高度なIT知識がなくても直感的に扱えるSaaS型パブリッシングプラットフォーム「dino」

オウンドメディアへのニーズの変化を捉えた

――この発想が生まれたのには、何かきっかけがあったのでしょうか。

小川
リボルバーを起業した2012年7月当時、オウンドメディアは既存顧客のロイヤルティを高める目的で、クローズドメディア、いわばコミュニティ型のメディアとして運用されるのが一般的でした。特定の読者を対象として「読者=ファン」を囲い込む、芸能事務所による所属タレントのファンサイトなどがその例です。

その後、すべてのクライアントがすでに多くのファンを持っているわけではないので、これから新規顧客の獲得に役立てたいという、ある意味当然のニーズが生まれました。その中で、クライアントが求めるメディアの形が、徐々にクローズドからオープンなスタイルに変わっていきました。そこで当社のプロダクトも、クローズドメディアの構築・運営から、既にいるファンを囲い込むのではなく、より多くの人にコンテンツを届けて、新しいファンを作ることを目的としたオープンなメディアを構築・運営するという仕様に変化してきたのです。これがdinoが生まれた直接的なきっかけとなりました。

また、元々自社のことを知らない新規顧客に対して自社ブランドを認知・浸透させるには、絶えずリーチし続けなければいけません。例えてみると、岩に落ちる水滴が時間をかけて岩を削って「穿(うが)つ」ように、顧客へのリーチを継続することがとても大切なのです。

通常、大量のコンテンツを制作し、根気よく配信し続けていくという取り組みに大金を投じられるのは一部の大企業に限られるでしょう。しかし、今の日本の会社の99%以上は中小企業です。それなら、大きなコストをかけずにすぐ始められて、継続できる仕組みが必要になるのでは――。そこで、dinoではメディアを構築することよりも、運営しやすい、つまりコンテンツを作り続けやすいサービスであることをめざすことにしたのです。

リーチしたい顧客に対してスピーディに良質なコンテンツをお届けし、「穿ち続ける」には、自社の情報システム部門にコンテンツの更新を依頼するのではなく、マーケティング担当者が自らdinoを使うことが理想だと思います。どの会社も情報システム部門はとても忙しいので、そこを経由するとどうしても機に応じた情報を発信するまでに時間がかかり、情報の鮮度が落ちてしまいがちだからです。インターネットの世界は変化のスピードが速く、コンテンツ制作に時間をかけているとあっという間に、旬を逃してしまいます。そのため、高度なIT知識を持たないマーケティング担当者でも扱えるdinoを利用することで、顧客へスピーディに良質なコンテンツを届けられる点が大きなメリットになります。

――現在までのdinoの導入実績や、利用者の反応などを教えてください。

小川
約80のメディアでご利用いただいています。技術的なことを気にせず、お客さまはより良いコンテンツの制作に専念すればいいといったところを高く評価いただけているようですね。最新テクノロジーへの対応も、当社側で随時行うため不要です。また、自社にエンジニア、デザイナーを抱える必要がなく、その分のコスト削減が図れる点もメリットといえると思います。

小川 浩

商社勤務で東南アジアに駐在したのち、マレーシアでネットベンチャーを立ち上げる。帰国後、2001年5月から日立製作所、2005年4月からサイボウズに勤務。2008年、EIR(客員起業家制度)を利用してMODIPHI(モディファイ)を設立。2012年7月にリボルバーを設立し現在に至る。パブリッシングプラットフォーム「dino」を主力サービスとして、オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティング支援を行う。

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