一橋ビジネススクール教授 楠木 建氏

※本記事は、2021年1月7日時点で書かれた内容となっています。

毎週月曜日に配信されている、楠木建の「EFOビジネスレビュー」。その中で載せきれなかった話をご紹介する、アウトテイク。これが、めちゃめちゃ面白いです。

ポーター賞の名前の由来は、競争戦略という分野を作ったマイケル・ポーター教授です。ポーター先生は、競争戦略の始祖。僕のように競争戦略という分野で仕事をしている人間にとっては恩人ですし、多大な影響を受けた先生でもあります。

実際にお会いして仕事をさせていただくようになって、ポーター先生の人となりに触れていると、あの戦略のロジックはまさにこの人から生まれたということを実感します。とにかく立ち居振る舞いがしゃきしゃきとしている。

打ち合わせをしても、何をやる何をやらないという判断は即断即決ですし、話が終わればスパッと会議を終了し、配られた書類はその場ですぐに破り捨てて、「はい、次」。飲んでいるのはいつもコカコーラ、食べているのはM&M’Sのチョコレート。すべてにフォーカスが効いている。ご自身の競争戦略論を体現している。

ポーター先生の研究に一貫しているのは、「インパクト」の追求です。自分の考えで世の中にインパクトを与える。研究の目的にぶれがありません。経営にとって本当に重要なことだけを考え、それを世の中の実戦に役立てたいという意志が仕事のすみずみまで行き渡っている。

最近では「経営者の時間の使い方」を研究していて、一見して競争戦略とは連続性がないように見えますが、多くの人が関心を持っている問題であり、インパクトという点で一貫しています。こういうテーマを見つけ出すセンス、躊躇なく取り組む行動力にはいつも感心させられます。

何より僕がポーター先生を好きなのは、言っていることがまったく変わらないということです。1983年の『競争の戦略』から40年近くの時間が経っても、まったく同じことを情熱を持って話す。ここに本物の凄みがあります。73歳になられたいまでも、基盤にあるロジックは40年前のポーター先生の論文や本にあるそれとまったく変わっていません。考え抜いた太いロジックというのは、そう簡単には変わらないものです。そう簡単には変わらない本質だからこそ、世の中にインパクトを与えられるのだと思います。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

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この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

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「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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