2020年12月3日(木)にZoomにて行われた公開取材、オンラインミーティング『楠木建の一問一答』の様子をお届けする最終回。キャリアの悩み、SNSや読書との向き合い方など、楠木建教授が自身の体験を織り交ぜながら参加者の疑問に答えていく。

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Q:楠木先生が人生で常に意識してきたことは?

――商社に勤務しております。大手電機メーカーの特約店として製品を販売するお仕事をさせていただいております。今29歳で、これからいろいろ勉強して、新しいビジネスを創っていきたいなと考えております。

楠木
わたしが29歳のときはイチゴミルクを飲むことしか考えていませんでしたから、これからです。

――ありがとうございます(笑)。楠木先生がこれまで生きてこられた中で、常に意識しておられること、あるいは座右の銘やご経験など、何か人生のきっかけになったことがありましたらお聞かせ願えればと思います。

楠木
何回か書いたことがある話なのですけれども、「世の中は絶対に自分の思いどおりにならない」。これを意識しています。「絶対悲観主義」と呼んでいますけれども、もう自分には1個もいいことなんてないと思うわけです。

――それはある意味、達観というか諦めのようなものでしょうか。

楠木
いえ、それとは違います。仕事は手を抜かずにやるんです。でも、結果を期待しないということです。これだけいろいろな人が生きていて、それなりに利害を持って動いている。そんな世の中で自分の思いどおりになることって本当に少ないと思うのです。なぜそう考えるようになったのかというと、本当にいいことがなかったからで、今まで。特に若い頃は本当に、いいことなんてなかったですね。

宇多田ヒカルのお母さまで、藤圭子という歌手がいました。その人が「十五、十六、十七と私の人生暗かった」(※)と歌っているのですが、まったくわたしの人生もそうでございまして。このように、いいことは自分にはない、どうせうまくいかないと思っていると何がいいかというと、失敗しても全然悲しくないんです。初めからそんなものだと思っているので。ですから、たまにうまくいくと、ものすごく幸せな感じがします。わたしは今でも、絶対に自分の思いどおりにならないというふうに思っています。この絶対悲観主義、おすすめです。

※ 藤圭子『圭子の夢は夜ひらく』より引用。

――わかりました。

楠木
ぜひお試しください。ものすごく気が楽になりますから。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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ご参加をお待ちしております。