2020年12月3日(木)にZoomにて行われた公開取材、オンラインミーティング『楠木建の一問一答』の様子をお届けする最終回。キャリアの悩み、SNSや読書との向き合い方など、楠木建教授が自身の体験を織り交ぜながら参加者の疑問に答えていく。

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Q:仕事にやりがいはあるが、今後も残る職種か不安。転職を検討すべき?

――保険会社で代理店営業をしています。代理店に自社の商品を選んで販売していただく業務と、代理店を新設する業務を担当しています。新卒で入社して現在6年目、28歳です。

よく楠木先生は、「人の役に立っている」「代わりが利かない」という感覚が仕事では大切だとおっしゃっています。今、自分としては営業という仕事にやりがいを感じていますし、ありがたいことに人事考課でも高い評価をいただいているのですが、この代理店営業という職種が今後も残っていくのか不安を感じています。

今の仕事が人の役に立っている、自分に向いているといった感覚と、その仕事に果たして市場価値があるのかどうかという不安。このバランスについて先生はどのようにお考えでしょうか。わたしは今コンサルやSIer業界に興味があるのですが、30歳以降で未経験で転職するのは厳しいので、まだ20代の今のうちに転職について考え始めています。「好きなようにしてください」と言われそうな質問で恐縮なのですが……。

楠木
ええ、好きなようにしていただきたいと思います。それがなぜかというと、まず、今挙がったコンサルにしてもSIerにしても、すでに具体的な業種にご興味をお持ちだからです。なにゆえその業界に興味があるのですか。

――保険業界からコンサルに転職している人が多いので興味を持ったのと、今勤めている会社でITシステムを導入するという仕事を経験し、いろいろな人と関わり合いながら仕事を進められるのが自分の強みでもあるのかなと感じたからです。

楠木
ということは、具体的な業種や部門が好きなのではなく、今おっしゃった、人と関わり合って働くのが好きだし、得意だと。

――ええ、そうですね。

楠木
そのツボみたいなものが大切だと思います。今のお仕事にやりがいがあって、評価も高い。全然問題ない。仮に、今の仕事が必ずしも自分のツボにはまっていないのに、「これから労働市場で価値が上がりそうだな」と思って転職するのでしたら、あまり意味はないとわたしは思います。

ただ、自分が労働市場で必要とされるかどうかは、市場に出てみないとわかりません。しかも1回ではなく、何回も出てみて初めてわかる面がある。市場に出てみる価値はあると思います。でもそれは、今の仕事が嫌になってからでいいのではないでしょうか。

わたしが28歳のときなんか、焼きそばパンを食べることしか考えていませんでした。そんなに考え詰めなくてもいいんじゃないかなと思います。

――はい(笑)。ありがとうございます。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

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「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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