2020年12月3日(木)にZoomにて行われた公開取材、オンラインミーティング『楠木建の一問一答』の様子をお届けする最終回。キャリアの悩み、SNSや読書との向き合い方など、楠木建教授が自身の体験を織り交ぜながら参加者の疑問に答えていく。

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Q:戦略は大切、でも短期的な成果も大事。理想と現実のギャップを埋めるには?

――自動車の通信を扱う仕事をしています。コロナ禍によって、自分の仕事のプロセスが上司やほかの同僚からは見えないという状況が続いています。わたしは今38歳で中堅クラスということもあり、早く成果を上げたいという気持ちが強く、「今年は〇〇を達成しました」というようにだれもがわかりやすいアウトプットを出したいと考えています。

楠木先生はこれまでの著作の中で、競争戦略には「ストーリー」が大切だ、自分が勝てる「勝ち筋」が必要だと説いておられます。それはもっともなことだと思うのですが、わたし自身まだまだ経験が浅いこともあり、いざ仕事になるとどうしても取り組みやすい物事から手を着けてしまい、短期的でだれからも見えやすい成果ばかりを追ってしまいます。理想と現実のギャップをどうやって埋めていけば、自分の成長とキャリアアップにつながるのでしょうか。

楠木
成果において大切なことは、そこに価値があるかどうかです。その価値を届けるべき相手が、「これは価値があるな」と思える成果でないと意味がありません。目に見える成果とは数字や物だけではなく、お客さんの喜びだったり、同僚の「助かったぁ」という声だったりします。単純な指標としての成果ばかりを追求してしまうと、結局は評価に結びつかないと思います。当たり前のことですけれど。

――なるほど、わかりました。心がけるようにします。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。