2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われた。今回はその中から、楠木建教授自身の執筆のルーティンやおすすめの本、新規事業開発のアドバイスなど、センスと発想にまつわる内容をお届けする。

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Q:楠木先生の執筆のテーマ選び、ルーティンは?

――社会インフラをつくる会社の新規事業推進部門で働いています。わたしが先生にお伺いしたいのは執筆に関してです。執筆のテーマをどのように見つけておられるのか、あるいはどんなタイミングでそのテーマを研究するに至ったのでしょうか。できれば、執筆におけるルーティンや気をつけておられることがあるのでしたらシェアいただければと思います。

楠木
わたしの場合は小説家のような創作ではないので、自分が考えていることをそのまま言語化するだけです。自分が何かを常時考えていて、その考えを言語化して本や文章にしてお伝えしている。ですから、体は1つ、手は2本しかないので、わたしが死ぬまでに書く本のテーマはもうだいたい決まっています。それ以外は書ききれないので、次に何書こうかなと迷うことはないですね。

仕事の中で考えごとをしてアイデアを思いつくパターンは本当にいろいろありますけれども、常に自分の考えを言語化しておくことが大切だと。それはわたしの仕事がそうだからでもあるのですが、何か考えついたらちょこちょこっと言語化してメモを取っておくとか、自分の頭の中でタグ付けをしておいてそれと関連するものを読むとか、本当に日常の仕事そのものですよね。ですから、小説家のようにアイデアが浮かばないとか筆が進まないとか、そういうことはありません。書くこと自体は本当に、わたしの仕事の場合は楽なことなんです。その前段階の、考えるところはちょっとエネルギーが要るわけですけれども。

執筆時に気をつけているのは、とにかくわかりやすく書くということです。自分の考えが極力、正確に言語で伝わるということを心がけています。もちろん、それでもロスは発生します。そのロス率がなるべく少ないのが、わたしの考えるいい文章です。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。