2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われた。今回はその中から、楠木建教授自身の執筆のルーティンやおすすめの本、新規事業開発のアドバイスなど、センスと発想にまつわる内容をお届けする。

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Q:経営で重要なのは、「アート」ではなく「サイエンス」?

――旅行関係の仕事をしています。楠木先生がよくお話しになっている「センスとスキル」に似たニュアンスで、「アートとサイエンス」という議論もあるかと思います。

星野リゾートの星野代表が以前テレビ番組で、「アートの部分が重要だと認めてしまった瞬間に、会社の競争力というものは経営者の優秀さとか、アーティスティックなよくわからない部分に依存せざるを得なくなる。サイエンスを追究してアートに対するサイエンスの比率を大きくすれば、その会社は長期的に維持可能な競争力を身につけられると信じています」と述べられていました。

アートとサイエンスのどちらが正しいかということではないのですけれども、星野さんのこのご発言に対する先生の見解をお聞かせいただけたらうれしいです。

楠木
わたしは個人的に星野さんとも話をするのですが、星野さんがそういうふうにお話しされるときの「アート対サイエンス」は、わたしが言う「センス対スキル」とは論点がちょっと違います。星野さんが「アート」とおっしゃるのは、「人に対して言語で説明できないもの」です。経営というのはロジカルであるべきだと思いますし、星野さんご自身はものすごくロジカルな方です。そんな彼でも言葉で説明できないようなことですと、人と共有できないというわけです。

旅行業界にはときどき、本当にアーティスティックな方っているでしょう?

――ええ、います。

楠木
星野さんがおっしゃるアートとは、「俺の目を見ろ、何にも言うな」という経営スタイルでしょう。これでは経営はできない。ただ、星野さんご自身はすごくロジカルな人ですけれども、わたしから言わせると、スキルじゃなくてセンスの人ですから。彼なりのセンスをもってある問題を特定し、それを論理的に展開する力がある。そういう意味では、わたしが言う「センスとスキル」の考え方とそんなに変わりません。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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