グローバル資本主義の見直しが必要であると説く水野氏。新たな価値の軸としてSDGs、ESGを経営戦略に取り入れる潮流や、第四次産業革命については、それらを利益追求の言い訳にせず、本当の意味で人を豊かにすることをめざすべきだと指摘する。

「第1回:変容を迫られるグローバル資本主義」はこちら>

「より近く」、「よりゆっくり」な社会へ

――米中対立をはじめ、今回のパンデミックは社会のさまざまな領域で起きつつあった変化を加速させるきっかけになっているように思われます。グローバル資本主義の見直しは、これから進んでいくのでしょうか。

水野
アメリカの自国第一主義やイギリスのEU離脱(ブレグジット)などに象徴されるように、反グローバリズムの内向き志向が強まりつつあるということは、私も以前から指摘してきました。富の集中と格差の拡大や移民に対する反発など、グローバル資本主義に対する問題意識が広がっているのだと思います。一方で、ブレグジットでイギリスの世論が二分されたように、国を閉じていくことへの反発も根強くあります。このコロナ禍が反グローバリズムを勢いづかせるのかどうか、今の段階では明言できません。

また、リーマンショック以来続いてきた金融緩和によるバブルが懸念されていたところへ拍車をかけるように、各国の経済政策ではコロナ禍に対抗するためのゼロ金利や量的緩和を余儀なくされています。それによって余ったマネーが高リスク資産に流れ、バブルとその崩壊が起きる可能性が再び高まっているわけです。そうしたことが起きるのは、経済成長と景気拡大だけを無理に追い求めているからでしょう。そろそろ過去に学んで金融政策を改めなければならないと思います。

――2015年に出された国連のSDGs(持続可能な開発目標)や、ESG(Environment, Social, Governance)などがビジネスにおける価値の軸となり、それらを踏まえたうえでグローバルな社会課題の克服に貢献することを事業の目的とする企業が増えています。これは、経済成長だけを追い求めるのとは異なる、新たな潮流と言えるのではないでしょうか。

水野
大切なのは、SDGsをエクスキューズ(言い訳、弁明)にしないことですね。持続可能な成長と言いますが、成長してきた結果として地球環境が限界に達しているのですから、そもそも「成長」ということ自体を見直す必要があります。「より遠く」、「より速く」を追い求めてきたグローバル資本主義社会から、「より近く」、「よりゆっくり」な社会へと転換できるのかが問われています。「成長」から「成熟」への転換と言い換えることもできるでしょう。

モノはもう満ち足りている

水野
そのことは日本とドイツが最初に言い出すべきだと私は思っています。なぜなら日本とドイツは10年国債の利回りが限りなく低い「ゼロ金利」ないし「マイナス金利」の国だからです。ゼロ金利の下では、企業が設備投資をしても、十分な利潤を生み出さない過剰な設備になってしまい、拡大再生産ができなくなります。言い換えれば、必要な資本はすべて行き渡っているということですね。空き家増加問題は住宅の供給が過剰だから起きています。食品も余っていてロスが問題となっています。そうした中で、モノやサービスが不足していることを前提とした従来型の経済成長が成り立つのかどうか。「もう成長はめざさない」と言うぐらいの覚悟がなければ、地球の持続可能性の問題を根本的に解決することはできないのではないでしょうか。

――IoT(Internet of Things)、ロボティクス、AI(Artificial Intelligence)などを活用した第四次産業革命によって、エネルギーや資源の消費を抑えながら新たな市場を創出することができ、成長を持続できるという見方もあります。

水野
アメリカの経済学者、ロバート・J・ゴードンは、『アメリカ経済 成長の終焉』の中で、1870年からの1世紀は自動車、電灯や家電の普及、インフラ整備などが一気に進み生活の大変化があったが、それに比べて1970年代以降に進んだコンピュータによる情報化は生活を変える力が小さいと指摘しています。確かにそのとおりで、私の授業でも「エアコンのない生活とスマホのない生活のどちらを選ぶか」と聞くと、99%はスマホを諦めると言います。そう考えると、ITがわれわれの生活にもたらしたものは何なのか。冷蔵庫や洗濯機のように生活を楽にしたのか。携帯電話やパソコンでいつでもどこでも仕事ができるようになったことで、むしろ生活のゆとりが奪われたのではないかとさえ思えます。

さらに資本であるITやAIの所有者は誰かを考える必要があります。ITは競争が激しいので陳腐化するのが速く、AIはより少数の所有者へと集中が進みます。その反対側で中産階級が没落し、社会の分断が進むことが予想されます。

歴史を振り返ると、これまでのイノベーションは、「結合」をより密にすることをめざしてきたものと言えるかもしれません。より遠くの人や場所を、より速く結ぶということです。ところが、それによって「ゆとり」は減少しています。ITを次の社会の切り札としていくには、それが本当の意味で豊かな生活を可能にするのかという視点を持つことが重要です。モノはもう満ち足りているのですから、次は人間を真に豊かに、幸せにするための技術と資本の活用が求められています。

水野 和夫(みずの・かずお)

1953年、愛知県生まれ。埼玉大学大学院経済学科研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著作に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(以上、日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(以上、集英社)など。

「第3回:資本主義をめぐる議論の変遷」はこちら>