一橋ビジネススクール教授 楠木 建氏

毎週月曜日に配信されている、楠木建の「EFOビジネスレビュー」。その中で載せきれなかった話をご紹介する、アウトテイク。これが、めちゃめちゃ面白いです。

『週刊現代』という雑誌で書評の連載をしていまして、その関係で毎週『週刊現代』を送っていただいています。届いた時に手に取ってぱらぱらと読んでいます。それまで僕はこうした週刊誌を読む習慣がなかったのですが、これが実に面白い。なぜかというと、ああいう紙の週刊誌のターゲットがはっきりと高齢者になっているからなんですね。記事に異様に偏りがある。完全に高齢者シフトを敷いています。往時の「王シフト」どころではない。センターから左側にはもう誰もいない状態になっています。

誌面を見ると、「死はある日突然やってくる」とか「人生、最後まで手放してはいけないもの」とか、高齢者の興味関心にフォーカスした記事(だけ)が並んでいます。「昔はよかった」という思い出話とか健康の話とかが次から次へと、毎号手を変え品を変え繰り出される。昔の流行歌を回想する記事のタイトルが「いつかこんな日が自分にも来ると思っていたあの頃」。で、最高だと思った記事タイトルが「不要不急、それは俺の人生そのものだった」。何とも言えないブルース感が横溢しています。もう徹底して高齢者にフォーカスした誌面作りになっていて、そこが爽快にして面白い。

僕も後期ド中年というか老年予備軍でありますから、毎号いくつか惹きつけられる記事があります。例えば、「なぜ男たちは崎陽軒のシウマイが死ぬほど好きなのか」。どうでもいいと言えばこれ以上どうでもいい話もないわけですが、こういうことになると『週刊現代』はものすごい取材力を発揮して、かなり鋭い分析と考察を繰り出します。僕も例に漏れず崎陽軒のシウマイ弁当が大スキなので、「あのアンズは要らない」とか「どういう順番で食べるのか」とか、微に入り細に入る考察を楽しみました。

1年ぐらい前の話ですが、崎陽軒の創業者が『シウマイ人生』というストレートなタイトルの回想録を出していることを知りました。1964年(僕が生まれた年)に出た本は入手困難だったのですが、シウマイ好きの僕としては、どうしても読みたくて送料込みで6500円を払って手に入れました。予想に違わず、創業者の野並茂吉は大変に面白い人物でした。

ひょんなことから始まったシウマイ弁当が、結果的にこれほどのロングセラーとして確立した最大の理由は、「崎陽軒はナショナルブランドを目指すのではなく、徹底して横浜のローカルブランドを目指す」という最初からの意思決定にあったというのが僕の見解です。シウマイの背後に戦略あり。この秀逸な戦略のおかげで、いまも変わらずあのシウマイ弁当が楽しめるわけです。地元民でもありますし、崎陽軒には感謝しています。

手前味噌ですが、『週刊現代』の書評欄の水準は高いと思います。「日本一の書評」というタイトルだけのことはあるボリュームと内容になっています。高齢者ではない方もぜひご一読ください。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。