株式会社 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ ビジョンデザインプロジェクト主任デザイナー 柴田吉隆 / 株式会社 studio-L 代表取締役 山崎亮氏
(株)studio-Lの代表山崎亮氏と、日立のビジョンデザインチームのリーダー柴田吉隆の対談、最終回。コミュニティデザインは、結論ありきでスタートしても決してうまくはいかない。そして、世界共通の一般解よりも、地域ごとにカスタマイズできる個別解に次の社会のヒントはある。地域での無数の対話を繰り返してきた山崎氏の言葉は、圧倒的にリアルで、示唆に富んでいた。

「第1回:企業の変化、地域の本音。」はこちら>
「第2回:『コミュニティデザイン』という仕事。」はこちら>

ニュートラルであること

柴田
例えばstudio-Lさんに行政から仕事の依頼が来たとします。そこに、風力発電を入れたいというような話が前提として入っているケースはないのですか?

山崎
ありますね。行政からの依頼の場合、風力発電に限らず、装置なり施設なり新しい何かを地域に導入したいという前提があるケースがほとんどです。その場合、プロジェクトを引き受ける前に、風力発電が本当にその地域に必要なのかを議論します。役所の職員の方々に、それが本当に正しいのかを問うのです。風力発電を入れることについて、地域を説得するためにコミュニティデザイナーを呼んでいるのであれば、僕たちはその仕事はできない。「市長は入れたいと言っています」と言われれば、「それはそうかもしれません。でも市長は4年ごとに変わる可能性があります。風力発電を入れることありきではできません」という話を何度も何度も繰り返し、理解していただけたときに「契約しましょう」となって、プロジェクトが始まります。

風力発電は、地域でも賛成する人がいれば反対の人もいるはずです。そこへ入る僕たちは、「どっちでもいい」というニュートラルな状態でないといけません。父親や母親世代とも対話するわけですから、簡単に見透かされます。「あなたたち、結局は行政側だろ」と問い詰められます。そのときに、「僕たちはどっちでもいいんです」と言えるのは、20人の個人事業主という弱小チームの強みです。純粋に地域の人たちの話を聞き、発電や電力事業、パッシブエネルギーの知識をみんなで学びながら、着地点を見つける。それが僕たちの仕事です。

柴田
きちんとしたプロセスの中で結論が出ることが大切であって、結論はどっちでもいいということですね。

山崎
そのとおりで、本当にどちらでもいいのです。僕らはその地域の住民ではないという、ある種の冷たい心を常にどこかで持っておく必要があります。感情移入し過ぎて、地元にどっぷり入り、例えば反対運動を起こしているように見られるのは、おかしいのです。

柴田
それはそうですね。

まちづくりをもう一度「自分ごと」にする

山崎
もしかすると僕たちは、プロフェッショナルというものを勘違いしていたのかもしれません。プロは何か的確な解決策をつくり、それを地域の人たちに提供するものと思っていたのですが、それは地域の人たち自身の課題解決力をどんどん奪っていたのかもしれません。とてもいい解決策を出していたつもりだったのに、戦後70年、プロが頑張れば頑張るほど、地域の人たちはまちのことは専門家がやってくれる、と思ってしまう。行政が税金から発注してくれて、いつも専門家を呼んでくれて、その人が解決してくれる。もしその人がうまく解決できなかった場合は、その人のせいであり、もっとしっかりした専門家を呼ぶべきだろうと行政に文句を言えばいい。

でも、本当は自分たちの地域は自分たちで何とかしなければいけなかったのに、全部外注化して、「私たちは悪くないのに地域は駄目になって、呼んだ専門家が悪かったから今回もまた失敗した」と言う人たちが増えていく、という70年間でした。

それができたのは、人口が増えて経済が成長していたからです。それにともなって税収が増えていたので、何回でも予算を組んで、新しい専門家を呼び続けることができました。これから人口が減り、税収が減っていくのであれば、その方法はもう通用しません。例えば昔は“道普請”といって、自分たちで道路を直していたわけですよね。本来、まちというのはみんなでつくっていました。そのときの英知やつながり、信頼などを違った形で、スマホの時代に取り戻していく方法をつくっておく必要があります。

柴田
本当にそう思います。僕たち企業の人間こそ、そういうやり方を作るための技術というものを考える必要がありますね。今までは、住民をもてなしていくということに技術は使われてきたと思うのです。いかに便利にするか、「あなたは何もしなくてもいい」と利便性の向上を企業で競い合ってきた。でもこれからは、「あなたがやりたいことをするために使える技術があります」という形に変わる必要がある。技術というのは楽にしてくれるものだという考えが社会全体にあるので、なかなかそこの切り替えは難しいですが、これからの企業のチャレンジだと思います。

山崎
いいですね。確かに技術は人々を楽にしてくれるものだという、社会の通念を一気に裏返すのは難しいと思います。なので少なくとも、共にワークショップで学び、一緒にその技術を開発するプロセスまで体感している、コアメンバーと呼ばれる100人くらいの人たちと共に、完成した技術を徹底的に使いこなしてみる。使い方も含めて、この人たちが自分たちの言葉で周りに伝えていくということを、何種類も何種類も色んなところでやっていくと、その中でいくつかは本当に地域に貢献する技術になるということが、育っていくのかもしれません。

逆に言うと、日本全体で役に立つ一般解をつくろうと思ったら、住民参加なんて必要ありません。人々を楽にさえすれば、それがお金に変わるという、ある意味では単純なことを、巨大に膨らませてきたのが近代だったと思います。しかし、近代を越えていこうと思ったとき、実は地域ごとに解決策は違っているということを理解する必要がある。そのときの技術というのは、本当はそれぞれの地域ごとにカスタマイズされてなければいけません。

国や企業などの中央が決めた方法、「この技術を使って、あなたたちの地域を何とかしなさい」ということは、もう無理のある話になっています。それぞれの地域ごとに、そこに住む人たちがカスタマイズしながら、然るべき目的に到達できるようにする技術とは一体どういったものなのかを、僕たちは近代を乗り越えるために考えなければなりません。

個別解の中に未来はある

柴田
そうですね。山崎さんとお話ししていると、すごく勇気が湧いてきます。日立は、企業に求められるモノを作る会社から、顧客協創という方向に仕事の方向を変えるのに10年かかりました。これからの10年は今はっきりと見えてはいませんし、難しいことは間違いありませんが、新しい役割が必ずあると僕は思っています。

山崎
僕は30万人もの人たちが働いている大きな企業のことはまったくわからないので、想像でしかないのですが、日立という会社ももともとは地域の職人さんや町工場から「これが欲しい」などの相談を受けながら、目の前の困っている人たちの要望に答えていたのだと思います。その技術や製品が、やがて日本全体に展開できるようになり、地球規模でグローバルに展開できるような事業規模になっていった。そういった会社ですよね。

「地域」、「日本」、「世界」、この3つのスケールを持っていて、Society 5.0では「世界」というスケールで環境にも配慮した新しい事業を見つけ出そうとしているのかもしれません。R&Dも世界規模になったから、もう「世界」しかやらないということかもしれません。しかし、3つのスケールを持ち続けるということも強みだと思うのです。顔が見える関係、目の前の人が本当に喜ぶというスケールでの個別解や、それを集めた地域解の中に、これからのヒントがあるかもしれません。

柴田
そうですね。その地域の個別解の価値を、大きな企業の中でどれだけ見いだせるか。今日はとても重要な学びをいただきました。長時間、熱いお話しをありがとうございました。

山崎
こちらこそ、大阪まで来ていただきありがとうございました。ぜひまた、お会いしましょう。

山崎氏の手描きの説明図

山崎亮(やまざき・りょう)

studio-L代表。コミュニティデザイナー。社会福祉士。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』、『地域ごはん日記(パイインターナショナル)』、『ケアするまちをデザインする(医学書院)』などがある。

柴田吉隆(しばた・よしたか)

株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ ビジョンデザインプロジェクト 主任デザイナー。1999年日立製作所入社。ATMなどのプロダクトデザインを担当ののち、デジタルサイネージや交通系ICカードを用いたサービスの開発を担当。2009年からは、顧客協創スタイルによる業務改革に従事。その後、サービスデザイン領域を立ち上げ、現在は、デザイン的アプローチで形成したビジョンによって社会イノベーションのあり方を考察する、ビジョンデザインプロジェクトのリーダーを務める。