早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄氏/株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長 髙本真樹
多くの企業が働き方改革を進める今、経営における人事の比重はますます大きくなっている。そこで今回登場するのは、著書『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』などのベストセラーで知られる気鋭の経営学者・入山章栄氏と、2018年に『第3回HRテクノロジー大賞』を受賞した日立の人財戦略をリードする髙本真樹。経営戦略の観点、そして世界のビジネスの潮流からみたとき、これからの人事と経営の関係はどうあるべきか。2月初旬に早稲田大学で行われた2人の対談の内容を、5回にわたって届ける。

生き残りのカギは、「人財タイプ」を変えること

髙本
入山先生、本日はよろしくお願いします。

入山
こちらこそ、わざわざお越しいただきましてありがとうございます。わたしが勤めているビジネススクールには御社の社員の方も結構いらっしゃいます。実は、昨年度のわたしのゼミ生にも1人いたのですよ。

髙本
そうでしたか! 当社の者が大変お世話になっております。

早速ですが、まずは当社の情報通信部門の人財戦略とその取り組みについてご紹介させてください。ご存知のように以前はハードウェアを中心にモノを作れば売れた時代でしたが、今やコモディティ化が進み、モノだけでは売れなくなった時代に我々は直面しています。さらに、2008年に起きたリーマンショックの影響で当社は経営の危機に陥りました。「社会イノベーション事業」を経営の柱に据えた戦略でなんとか業績のV字回復を果たしつつありますが、そういった経緯から我々は常に強い危機感を持っています。事業はもちろん、それに寄り添う人事部門も変革を起こさないと、もはや生き残っていけない時代だと。

変革を起こすにはどうすればよいか。我々は、まずは社員の人財タイプを変える必要があると考えました。そこで、ビッグデータ解析やAI(人工知能)といった当社が培ってきたITを人事の世界でもフルに活かし、いわゆるHRテック(*)の導入を進めてきました。

入山
今、HRテックを活用したサービスが国内のスタートアップ企業からどんどん出ていますが、日立さんは早くから取り組まれていたのですね。

髙本
とにかく走り始めないといつまで経っても会社が変わらない、そのくらいの危機感でした。

* HR(Human Resource)とTechnologyを掛け合わせた造語で、AIやビッグデータ分析、クラウドなど先端的なITを活用して、人財の採用・配置・育成・評価などの人事関連業務を効率的に行う手法のこと。

HRテックで「価値創造タイプ」の社員を増やす

入山
具体的には、どのようにHRテックを活用なさったのですか。

髙本
まず、社員の人財タイプをHRテックで分析してみました。すると当社では、お客さまのオーダーに応じて、高品質で早く安く“モノづくり”ができる「課題解決タイプ」の人財が大部分を占めていることが分かりました。しかしこれからは、自ら進んでお客さまのビジネスの価値を高め、新しい価値の創造に向けた提案ができる、つまり“コトづくり”に長けた「価値創造タイプ」を増やすことが重要と考え、このタイプの人財を厚くしていくことを決めました。

そこで、試みに2016年卒の新卒採用内定者の人財タイプを4つに分類し、可視化しました。すると、やはり課題解決タイプの人財が圧倒的多数を占めていることが分かりました。しかも、面接官の人財タイプも調べたところ、ほぼ同じ割合でした。要するに、面接官が自身と似たような人財を評価していたのです。会社としては価値創造タイプの人財を必要としているのに、採用活動は逆行していたわけです。

入山
なるほど。HRテックを、社員のタイプ分析から採用活動に活かしていったわけですね。

髙本
はい。2017年卒の技術系の新卒採用から選考方針を一新しました。まず、それまで全社員の5%程度しかいなかった価値創造タイプの人財を、内定者の15%確保するという目標を設定しました。面接官には事前ワークショップで採用の考え方を徹底し、面接では価値創造タイプの人財かどうかを判定する質問に絞りました。

その結果、内定者の人財タイプのウェイトが、ガラッと変わったのです。

入山
狙いどおりの採用ができたというわけですね。実際に成果が出ているのが素晴らしいです。

髙本
ありがとうございます。こうして採用に手応えを感じた我々は、他の人事業務にもHRテックを活用することにしました。

採用という入り口の整理は進んだわけですが、次の課題は、人事としてどうすれば在籍社員一人ひとりの能力をより引き出すことができるのか? となりました。それを突き詰めた結果、従来のようなマスマネジメントではなく、個に寄り添ったマネジメントにより、社員一人ひとりを活き活きと輝かせられないと人事の意味がないと考えたのです。それが2016年のことでした。

入山章栄(いりやまあきえ)
1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。株式会社三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を務め、2013年から早稲田大学ビジネススクール准教授。経営戦略論および国際経営論を専門とし、Strategic Management Journalをはじめ国際的な主要経営学術誌に論文を数多く発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版,2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社,2015年)。

髙本真樹(たかもとまさき)
1986年、株式会社日立製作所に入社。大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長などを経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長を務め、ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ長を兼任。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共

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