仕事で培った経験とスキルを活かして社会に貢献するボランティア活動、プロボノ。2005年から個人登録のプロボノワーカーによるプロボノ支援を行ってきた認定NPO法人サービスグラントは、2010年、企業と連携したプロボノプロジェクトをスタートした。敢えて企業と組むねらいとは何か。プロボノが企業、そして社員にもたらすものとは。サービスグラントを率いる嵯峨生馬氏に話を伺った。

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NPOが活動を続けるために必要なこと

2005年に、プロボノワーカーと、支援を求めているNPOなどの団体とをマッチングする活動を始めた嵯峨生馬氏は、2009年に活動母体「サービスグラント」をNPO法人化した。

「活動を始めた最初の4年間はあまり事業性を考えず、半分わたしの趣味のような感じで試行錯誤を重ねていました。ところが活動を続けていくうちに、プロボノワーカーや支援先のNPOからいい反応をいただけるようになったんです。試行錯誤で終わらせてはいけない、もっと本格的な活動にしていきたいと考え、法人化を決意しました」

法人化したからには、当初重視していなかった事業性にも目を向けざるをえなくなった嵯峨氏。しかし、NPOならではのジレンマが立ちはだかった。

「それまでのサービスグラントは、プロボノワーカーの皆さんに個人で登録していただく、そして支援先であるNPOなどの団体に成果物を提供するという活動でした。これというのは、どこからもお金が入ってこない事業モデルなんです。例えば個人の方に『1人5万円払ってボランティアに参加してください』と言っても、だれも来ないですよね。一方で、支援先のNPOに「今回のWeb制作費用は30万円です」と言ってお金をいただくのも難しい。わたしもNPOを運営しているからわかりますが、NPOにとって30万円ってすごく大きいんです。では、何がNPOの収入源かと言うと、個人からの寄付ですとか、財団からの助成金、あとは、行政や企業との協働事業です」

活動を継続するために嵯峨氏が活路を見出したのが、「企業との連携」だった。

企業の魅力を増し、社員を鍛えるプロボノ

「初めは、アメリカでプロボノを運営しているNPO『タップルートファウンデーション』に外資系企業の日本法人をいくつか紹介してもらい、プレゼンして回ったのですが、結局どことも話が進みませんでした。そんな状況がしばらく続いたのですが、あるときスタッフが参加した企業交流会で、某大手企業のCSR担当者に出会ったんです。その企業はCSRの一環として社会起業家を支援していたので、サービスグラントの活動を紹介したところ非常に関心を持ってくださったそうです。それがきっかけとなって、社内募集に応じた社員によるプロボノを始めました。法人化の翌年、2010年のことでした」

大企業と連携したプロボノ。それは、さらなるプロボノ普及に向けた大きなチャネルとなった。

「サービスグラントでは平日夜や土日に個人向けの説明会を開いていますが、個人が会社の外に飛び出して、わざわざオフの時間にそうした場に足を運ぶのはやっぱり敷居が高い。でも企業の中でプロボノワーカーを募集すると、社員の方が説明会に気軽に参加してくださるのでたくさんの希望者が集まります。世の中に対するプロボノの間口が一気に広くなりました」

その後、企業と連携したプロボノプロジェクトは徐々に増加。これまでに12社と連携し、延べ700人がプロボノを経験した。広がりの背景には、「CSRと人事それぞれの面で、企業がプロボノを採り入れるメリットがある」と嵯峨氏は言う。

「まずCSRの面から言うと、今や企業が社会貢献をするのは当たり前。それよりもいかに社員を巻き込むか、どんな団体を支援してどんなインパクトを生み出しているのかが、株主や就職活動中の学生から重視されるようになりました。そうしたなかで企業がプロボノを行うことは、企業のコアコンピタンスを活かした社会貢献と言えますし、そういう活動に参加できる会社だという事実が、現役で働く社員ばかりでなく未来の社員である学生にとっても魅力的に映るというメリットがあります。

企業のCSR部門の方からよく聞くのですが、例えば地域の清掃活動とか森林保全活動と言った一般的なボランティアの参加者を社内で募っても、なかなか振り向いてくれないそうなんです。それに対して、普段の仕事のスキルが求められるプロボノは、活動内容がハイスペックな分、社員がやりがいを感じられる点が魅力です。『プロボノワーカーを社内で募集したら、それまでボランティアに参加しなかった社員が積極的に手を挙げるようになった』という喜びの声をよく聞きます。プロボノは、社員を巻き込めるCSR活動なんです」

一方、人事の面で企業にもたらすメリットも見逃せない。

「今、企業が必要としているのは、社内だけでなく社外でも通用するリーダーシップや課題解決能力を持った人だと思います。プロボノの支援先となるNPOは、大企業が取り引きしているクライアントとは組織の規模が全然違うし、組織体制もフラットで、組織の枠の内と外などがわかりづらいです。大企業からするとつかみどころのない組織に社員が身を置いて、社会課題という奥深いものに触れることで、自分がどんな力を発揮すれば世の中の役に立つのかをすごく考えさせられると思うんです。そういったトレーニングの場、いわゆる越境学習や他流試合の場として、プロボノは打ってつけだと思います。

社内にいるとそういう経験ってなかなかできないですよね。会議室に集まって『さあみんなで社会課題について考えよう』と言っても、リアリティのある議論にはなりにくい。それよりも、社会課題の最前線にいるNPOの人たちと直に接したほうが、はるかに大きな学びを得られると思います」

「なぜプロボノをやるのか」というストーリー

主に東京と関西のNPOにプロボノ支援を行っているサービスグラントには、現在4,500人を超えるプロボノワーカーが登録している。それだけの人数がいると、いくら本人の社会貢献のモチベーションが高くてもスキルに個人差が生じてしまうはずだ。そのギャップを、プロボノの運営事務局であるサービスグラントはどう吸収しているのか。

「本人が登録したスキルや業務実績が具体的でない場合や、スキルが不足していると事務局が判断した方には、プロジェクトをご案内しないこともあります。そうしないと、NPOを守れないからです。NPOの先にいる、社会課題に直面している人たちをより多く救いたい。そのためにNPOをサポートするのが、わたしたちサービスグラントの使命だからです。

ただ、大企業が行うプロボノの場合、もともと粒ぞろいのスキルを持った社員の方が多いですし、社内のプロボノプロジェクト担当の方も内容を確認されるので、スキル不足の心配をしたことはほとんどありません。それよりも大事なのは、なぜその企業がプロボノをやるのかという『一貫性』です。

例えば、『それまでやってきたCSR活動をバージョンアップするためにプロボノを採り入れたい』とか、『会社の方針として社会課題の解決を掲げているから、社員がソーシャルのことをもっと知るためにプロボノを活用しよう』といった一貫したストーリーが不可欠です。それがないと、企業としてはボランティア活動としてやっているけど、社員個人としては『やらされている』と感じてしまい、仕事なのかボランティアなのか、どっちつかずの活動になってしまいます。そうなるとプロボノワーカーが高いモチベーションを保てませんから、支援先にも迷惑がかかってしまいます」

一方で、プロボノの支援先であるNPOを選ぶ際の視点を、嵯峨氏はこう語った。

「一番重視するのは、プロボノ支援によってその団体がどんな成果をめざしているか。支援を希望するNPOにはあらかじめサービスグラントのWebサイトに団体情報を登録してもらうのですが、『今ちょっと人手が足りないから』とか『Webサイトをリニューアルしたいから』というだけの理由なら、支援しません。

大切なのは、例えばWebサイトを改善することでもっと多くのボランティアスタッフや寄付が集まるようになって、現状では1つの地域でしかできていない活動を3つの地域に拡大できるとか、NPOの活動の受益者が100人しかいなかったのが2倍、3倍に増やせるといった社会的な成果です。NPO内部の小さな困りごとを解決するのではなく、NPOの活動が大きく成長していくのをプロボノで後押しできるかどうか。そういう視点で支援先を選んでいます」

嵯峨生馬(さがいくま)
1974年、神奈川県横浜市生まれ。1998年、東京大学教養学部を卒業し株式会社日本総合研究所に入社。研究員として官公庁・民間企業とともにIT活用、決済事業、地域づくり・NPOなどに関する調査研究業務に従事した。2001年に渋谷を拠点とする地域通貨「アースデイマネー」の運営を開始し、2003年からNPO法人アースデイマネー・アソシエーション代表理事。2005年に日本総研を退職し、サービスグラントの活動を開始。2009年にNPO法人化し、代表理事に就任。著書に『地域通貨』(NHK生活人新書,2004年)、『プロボノ〜新しい社会貢献 新しい働き方〜』(勁草書房,2011年)など。

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