一橋ビジネススクール教授 楠木 建氏

「第1回:組織の力とチームの力。」はこちら>
「第2回:横隊編成と縦隊編成。」はこちら>
「第3回:理想のチームは『大脱走』。」はこちら>
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会社のことを嘆いたり、何かうちの会社駄目だよねとか、組織の仕組みがまずいよねと言う前に、仕事というのはかならず「現場」があるもので、その現場こそがチームなので、組織がどうあろうとまず自分たちのチームを自分たちで良くすることはできるはずです。

組織全体が変わるにしても、その発端は往々にして特定のチームにある。

あるチームが、すごくいい動き方をして成果を出します。組織の中でもその成果は見えるので、組織全体をこう変えなきゃ駄目だなと制度設計が変更されるとか、そういう組織レベルの変化が触発される。組織全体のあり方というのは、一人ひとりにとって遠いもので、すぐにはどうにもならないですが、チームはもう自分の問題として明日から作っていけるし、変えていけます。

現状に問題を感じ、変革を起こしたい人は、問題を組織の構造や制度にすり替えない方がいい。新しい制度が敷かれるのを待たずに、まず自ら動くことが大切です。とりあえずは自分の影響の及ぶチームの範囲でよいのです。まず自ら新しい動きを起こし、「小さな成功例」をつくる。それを目に見える形で組織の他の人々に示す。賛同する人が出てくる。彼らが同じような動きを起こせば、その他大勢もそのうちについてくる。制度化やシステム化を考えるのはその後で十分だと思います。本当の構造変革をする人は、構造変革を待たないのです。

チームが現場にいっぱいあって、それの総合体が組織で、その組織のトップにいるのが経営者です。経営者から見ると、うまくいくチームといかないチームがあるというのは、経営を効率化していくうえでものすごく重要です。いったい何が違うのかなということを、比較して見ることができます。その比較による差の発見というのは、個別のチームの中ではできなくて、一段上から全体を見ている人だからできることです。こうしたらあのチームが伸びるんじゃないか、ということを見つけていくのは、経営者にとってすごく重要な仕事ですし、チームを動かせるリーダーをきちんと割り当てていくというのは、良いチーム作りの必要条件です。

組織のレベルになると、要員計画でこの部門は30人増員とか、あまり顔が見えないですよね。「俺は日立で働いたな」というのは単なる外形的ファクトで、人間の記憶に残るもの、リアリティーはやっぱりチームにあるのではないでしょうか。あまりチームで仕事をしたことがない僕がいうのもなんですが。

最初にも言いましたが、チームっていうのはお互いの相互依存関係が理解できる範囲なので、一人ひとりに顔があります。しかも、個人が非常に実効性の高いアクションをとることができる。

ただし、チームは、個の能力がない人の逃げ込む場所といった、問題のすり替えみたいなことにもなりがちです。仕事のチームは「仲良しクラブ」ではありません。和気藹々もいいのですが、それが目的になるとチームの力を弱めることにしかなりません。お互いに頼りにし合うのではなく、もたれ合うようになってしまう。

今回は映画を核に話をしましたが、今も昔も、組織の物語というのはあまりないと思うんです。チームの物語が多いのは、人間が出るからです。個のエッジが立っていることが優れたチームの一番重要な条件です。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。