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一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
無類の読書家であり、「読み終わった本は処分する」を原則としている楠木氏でも、捨てられない本があるという。まずは、読み始めてから処分するに至るまでのルーティンを語っていただく。

「第1回:読書のルーティン。」
「第2回:『岩田さん』。」はこちら>
「第3回:『会社という迷宮』。」はこちら>
「第4回:『ふつう』。」はこちら>

※本記事は、2023年2月3日時点で書かれた内容となっています。

僕は読書が趣味です。読み終わった本は、原則的に処分します。

なぜそういうルーティンが定着したのか。家人も読書が趣味ですが、本を捨てないタイプです。夫婦でそれだと果てしなくスペースを取ることになるので、読み終わった本は処分したほうがいいんじゃないか――そう提案したところ、「とんでもない。自分の信条に反する」。断固拒否されました。いよいよ僕は読み終わった本の処分に拍車をかけることになります。

本を読み終える。「ああ、面白かった。これは最高の本だ」。で、躊躇なく処分。これを繰り返していく。昔はまめに神保町の古本屋に持って行きました。これが面倒になり、20年ほど前からまとめてブックオフに持ち込むというやり方に変えました。売値は二束三文ですが、僕が読み終わった本はだいたい線が引いてあったり書き込みがしてあったり、汚れているのでどのみち大した値段では売れません。ブックオフはどれだけ大量に持って行ってもサッと査定して引き取ってくれるので助かっています。

数年前からは、以前紹介した神保町すずらん通りにある書店、PASSAGE(パサージュ※)にも本を持ち込むようになりました。読み終わった本の中でも「これは」と思えるものは、PASSAGEにある「楠木建の本棚」に置かせてもらっています。値付けは棚主が自由に設定できる。僕はシンプルに、どんな本でも定価の半額にしています。これまで累計で数百冊は売れていると思います。もしお近くに行く機会があったら、PASSAGEの僕の棚をのぞいてみてください。

※ フランス文学者・書評家の鹿島茂氏が主宰するマルチ・セレクトブックショップ。約100に及ぶ書評家や作家、出版社などがそれぞれ書棚を持ち、自身でセレクトした本を販売している。

読んだ本については、わりと詳細なメモを取るようにしています。重要だと感じた箇所の要約と自分の意見を、文字の色を変えてパソコンのソフトウェア(Evernoteというのを使っている)に入力する。で、一通りメモと感想を書き終えると、処分する本の箱に投げ込んでおきます。30冊ぐらいで箱が一杯になる。そのタイミングでブックオフやPASSAGEに持ち込むというフローです。

僕が副業でやっている書評の仕事のためにメモを残しておくという意味合いもあるのですが、最大の目的は、自分がその本を読んで考えたこと、学んだことを、メモすることによって頭の中に定着させることにあります。読んで、ちょっと思うところがあった本は必ずメモを取るようにしています。

本を読むときは必ず赤ペンを持っています。で、コメントを書き込んだり、印象に残った部分に線を引いたりする。以前はいちいち蛍光マーカーで気になった文章を縦になぞっていたのですが、まどろっこしいので、今は該当する行の上部に赤ペンで横線を引くだけです。読み終わったあとパーッと本をめくったときに、メモするべき箇所を押さえておくためです。赤線部分を中心にパソコンで要約メモを取り、自分の考えを書き留める。これが僕の読書における一連の作業です。

付箋を付けるのも面倒なので、僕は使いません。とにかく効率第一です。読み終わった頃には赤ペンでガンガン書き込まれている。当然ですが、ブックオフに持っていくと基本的に買い取り価格0円。逆に、あまり面白くなかった本には書き込みがないので、ブックオフでは値段が付く。僕にとってブックオフへの持ち込みは、買い取ってもらうためではなく、シンプルに処分してもらうためです。それで十分ありがたい。

片や、僕がPASSAGEに置いてもらっている本には、僕がどういうところを面白がったのかがわかる痕跡が残っている。それをちょっと見てみようと思って購入される方もいらっしゃるかもしれません。PASSAGEは僕にとってとてもありがたい販売チャネルです。

よく言われるのが、「スペースを取りたくないなら電子書籍でいいじゃないの?」――何回かトライしたんですが、駄目でした。電子書籍が読書の質を下げることはない、と思うのですが、身体がついていかない。結局、習慣の問題なのだと思います。紙の本を読んでは処分する。このルーティンを死ぬまで続けるんじゃないか――そんな予感がしています。

先ほど申し上げたように、僕は感動した名著でもほとんど即時処分します。自宅の本棚に残っている本は、これまで読んだ本のうち、おそらく5%もない。

それでも、捨てられない本というのがやっぱりある。例えば、この連載で散々お話ししてきた高峰秀子さんに関連する本。これはもはやコレクションなので無条件で残しています。『古川ロッパ昭和日記』『日本の喜劇人』など、僕にディープインパクトを与えてくれた本ももちろん本棚にあります。イヤな気持ちになりたいときに読む特殊読書用の本も、厳選して残してあります。今回はこれまで触れることがなかった捨てられない本を、「捨てられない理由」のタイプ別に3冊、紹介していきたいと思います。(第2回へつづく)

「第2回:『岩田さん』。」はこちら>

画像: 僕が処分しなかった本―その1
読書のルーティン。

楠木 建
一橋ビジネススクール特任教授(PDS寄付講座・競争戦略)。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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