世界をリードする疲労研究の成果を、先進のITが形にした疲労・ストレス測定システム。その発明は、疲労の現場にどう貢献しているのか。第4回では、実際に疲労を測ることによって見えてきた社会の現実について、健康支援に関するコンサルティング事業を展開している仙台の企業、健生株式会社の代表取締役社長・成澤功氏と健康支援部長・野田隆行氏に話を聞いた。

プロフィール
健生(けんせい)株式会社

医療関連団体への人材派遣や医療機器などの販売を専業として、2001年に仙台市内にて創業。現在は疾病予防支援と介護予防支援を柱として、宮城県内の自治体や東北・首都圏の企業を中心に、健康支援に関するコンサルティング事業などを展開する。

画像: 写真右:代表取締役社長 成澤功(なりさわいさお)氏 写真左:健康支援部長 野田隆行(のだたかゆき)氏

写真右:代表取締役社長
成澤功(なりさわいさお)氏
写真左:健康支援部長
野田隆行(のだたかゆき)氏

ベンチマーク・ニッポンvol.2 「疲労の国が医療を変える」第1回 >


人々の健康を支援する

仙台市内に拠点を置く、健生株式会社。2001年に創業した同社は、現在、自治体や企業などに対して健康支援に関するコンサルティングを行っている。4代目の代表取締役社長を務める成澤功氏は、同社のミッションをこう説明する。

「"健康で明るく生き生きと毎日を過ごしていきたい"と考えている人たちに対して、そういった生活が送れるようサポートさせていただくのが、弊社の役目です。そのために、病気を未然に防ぐことを目的とした疾病予防支援と、シニア世代の方々が介護サービスを受けなくても生活できるようサポートさせていただく介護予防支援の2つの事業を柱としています。――予防というのは、効果を実感されにくいので、世の中にその大切さをわかってもらうのはなかなか難しい。この2つの事業を通して、より多くの人たちにそれを伝えていきたいと考えています」。

画像: 健生株式会社 代表取締役社長 成澤功氏

健生株式会社 代表取締役社長 成澤功氏

疾病予防支援では、企業などに対して、社員の健康状態の改善策をアドバイスするために、生活習慣病やストレスの問題に関するセミナーを開催。また、自治体が主催する健康診断で得られたデータを、受診した住民に詳しく解説し、一人ひとりへの保健指導をするといったサービスも行っている。介護予防支援では、主に宮城県内の自治体において、住民を対象に歯や栄養、認知症に関する教室を企画したり、高齢者を支える介護予防サポーターを養成したりしている。

同社はもともと、医療関連団体への人材派遣や医療機器の販売に特化した会社だった。健康支援事業は、当時まだ社長になる前の成澤氏が、社内で新たに立ち上げた事業だった。
「2000年代に入って、高齢化の進行にともなう介護保険費用の増大が問題になりました。これを受けて2006年に介護保険法が改正され、それまで保険の給付対象だった介護保険施設の利用費の一部が、給付対象から除外されました。それと同時に、介護予防という概念が広まっていったんです。そこでわたしが考えたのは、人々が介護や医療を受ける前に、なんとかできないかということでした。だれもが医療費をかけずに健康でいられるよう、手助けする。そんな社会貢献が求められているんじゃないか…。そこで、わたしが部長となって、健康支援事業のセクションを立ち上げたんです」。

成澤氏は、保健師や健康運動指導士、管理栄養士、理学療法士など、健康に関する専門資格を持った意欲的なスタッフをかき集め、健康支援部をスタート。今ではそれが、同社の看板事業となっている。

疲労・ストレス測定システムとの出会い

やがて同社は、疾病予防支援のツールとして疲労・ストレス測定システムを導入。システムを知ったきっかけについて、疾病予防支援の現場に携わっている現在の健康支援部長・野田隆行氏は、こう振り返る。

「東日本大震災があった2011年の年末に、仙台市の経済産業局からお電話をいただいたんです。"大阪のあるベンチャー企業から、宮城県内の企業とのコラボレーションで復興支援事業をしたいと問い合わせが来たので、御社を紹介したい"という話でした。そのベンチャー企業が、疲労・ストレス測定システムの機器に搭載したセンサーを開発した会社だったんです。それで、システムの存在を知りました。わたしは心理相談員の資格を持っているので、ストレスに悩む会社員の方々と接する仕事が多いんですが、まさか自律神経の状態を測ることができるとは思ってもみませんでした。まず、それが驚きでした」。

画像: 健康支援部長 野田隆行氏

健康支援部長 野田隆行氏

画像: 疲労・ストレス測定システムの測定器

疲労・ストレス測定システムの測定器

疲労からの復興

野田氏が初めて疲労・ストレス測定システムを実際の事業に用いたのは、2013年9月のことだ。

「宮城県の松島町で、住民の方々を対象に測定をさせていただきました」。
太平洋に面する松島町は、東日本大震災で津波の被害を受けた。震災前に5,500戸ほどあった住宅のうち、全壊・半壊となったのは約1,800戸。3年経った今も、応急仮設住宅に暮らす人々がいる。

「震災によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病に苦しむ方に対して、町が"こころのケア相談コーナー"というスペースで面談を行ったり、みやぎ心のケアセンターという公益財団法人が自宅を訪問するなどして、対応に当たってきました。しかし、そのほかにも、潜在的にストレスが深刻化している方がいるのではないか。震災後に外を出歩かなくなってしまったり、自覚が無くても震災で疲れていたりといったことが起きているかもしれない。そんな方々を一人でも多く救いたいと考え、松島町とみやぎ心のケアセンターと共同で、疲労とストレス度の測定をさせていただくことになったんです」。
しかし、疲労を自覚していない人に、どうやって測定の場に来てもらうのか。

「松島町では、年に1回、住民を対象に総合健診を行っています。健診ならば、多くの住民の方が来てくれる。そこで、会場内に"お疲れ度チェック"と名づけた測定コーナーを設け、健診のついでに立ち寄ってもらえるようにしました」。

見えてきた、震災のストレス

松島町での"お疲れ度チェック"は10日間にわたって行われ、266人の住民が測定を体験。野田氏の予想どおり、潜在的に疲労やストレスが蓄積していた住民が多くいた。

画像: 測定結果の例

測定結果の例

「とても健康で心も疲れていないと自信を持っていた住民の方を測定したところ、"要注意"という最も悪い測定結果が出てしまった人がいました。その方にはすぐに、みやぎ心のケアセンターの臨床心理士によるカウンセリングを受けていただきました。見た目も明るく元気そうな方だったんですが、深く話を聞いていくと、実は、震災で精神的にも身体的にもいろいろな苦労があって、自分でも気づかないうちに頑張りすぎていたということがわかってきました。そのとき測定した皆さんの6割以上が、"要注意"または"注意"という結果だったんです。そのなかには、応急仮設住宅での生活がずっと続いている方もいました。やはり、目に見えない震災のストレスがあったんですね」。

画像: 2013 年9 月実施。資料提供:健生株式会社

2013 年9 月実施。資料提供:健生株式会社

3.11以降、たびたび報道されてきた、被災による心の傷。それは数字にも表れる客観的な事実だった。そして、表面化こそしていないものの、向き合わなければいけない多くの心の傷が、そこにはあった。野田氏は、要注意の結果が出た被験者をリスト化。その後、フォローが必要と思われる住民に対して、町とみやぎ心のケアセンターが定期的に面談や訪問を行っている。

松島町での結果を聞いた成澤氏は、疲労・ストレス測定システムの活用に、確かな手ごたえを持った。

「それまでは、イベント会場でシステムのデモンストレーションを行い、来場された方々に測定を体験していただいていました。しかし、松島町での測定によって、わたしたちはシステムの精度の高さを実感できました。無自覚のうちに疲労やストレスが蓄積している人たちを助けるために、このシステムを役立てたい。それから、試験的な運用だけでなく、本格的な実用化に乗り出したんです」。

疲労から、働く人を救う

次に野田氏が疲労・ストレス測定システムを活用したのは、多忙な企業人の健康管理だ。
「あるIT企業から、社員の健康状態について相談を受けました。その会社では、毎日夜遅くまでの勤務が続き、うつ病で休職する社員の増加が問題になっていたんです」。
そこで、1日限定で社員を対象に疲労・ストレス度測定を行ったところ、驚くべき結果が出た。
「社員の半数以上が"要注意"でした。これは松島町での結果に近いのですが、松島の場合は被験者の大半が50代以上だったんです。しかし、この会社では、社員の多くがまだ20代や30代という若い世代でした。夜勤が多く、食事の時間も不規則で、運動不足の状態が続いていたため、自律神経の機能が低下していた方がとても多くいました。そのなかには、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまい、うつ状態になっている方もいました」。

画像: 疲労・ストレス度測定結果の説明を受ける被験者

疲労・ストレス度測定結果の説明を受ける被験者

"疲れ"は、だれもが感じるもの。しかし、心のケアを必要とする人がどれほどいるのか。IT企業での疲労度チェックは、それを明らかにした。うつ病は周囲からも気づかれにくく、専門医でも的確な診断は難しいと言われ、対処に悩む企業は多い。疲労・ストレス測定システムを用いたことで、このIT企業は社員一人ひとりの疲れの状態を知ることができ、うつ病対策の必要な社員がどれだけいるかを把握することができた。

社員の姿勢にも変化が見られた。それまでは、健康に関する社内セミナーを開催しても空席が目立っていたが、測定後は積極的に参加する社員が増えたのだ。それだけでなく、野田氏が予期しなかった場面にも効果が表れた。

「この企業には保健師が常駐して社員の健康管理に当たっているんですが、測定結果を材料として、健康状態について社員と具体的な会話ができるようになったと聞きました。普段、なかなか話をしてくれない社員に対しても、それを見ながら、仕事の状況や体調などについて聞き出せるようになったそうです。コミュニケーションのツールとしても、この測定結果は有効なんだと気づかされました」。

疲労・ストレス測定システムは、もっと使える

導入からはまだ日が浅いものの、野田氏はすでにいくつかの自治体、企業において疲労・ストレス測定システムを使った健康支援を実施してきた。実際の利用者の声はどうか。
「一度悪い結果が出ると、また測りたいとおっしゃる方が多いですね。いつでも測れるように、職場に欲しいという声もあります。なかには、良い結果が出ると怒りだす人もいますよ。"もっと疲れてるはずだ!"って(笑)」。

画像: インタビューを受ける成澤社長&野田氏

インタビューを受ける成澤社長&野田氏

現時点ではイベントなど限定された期間での利用がほとんどだが、使い方次第で、もっと健康管理に役立てられると野田氏は考えている。

「疲労やストレスに関しては、問診による診断が多く行われていますが、それだけでは不十分です。このシステムを使えば、自分では感じることのできない体調の変化を把握できる。自律神経の状態は日や時間帯によっても変動するので、定期的にモニタリングして、自分にとっての平常値を把握することが大切です。そういう使い方をすれば、いつもと違う測定結果が出たときに、休養をとるといった判断もできる。そんな役立て方もあると思います」。

人々の健康な生活をサポートするという使命を掲げ、そのツールとして疲労・ストレス測定システムを導入した成澤氏。社会への貢献の余地は、まだまだあると語る。

「血圧計のような感覚で、出勤前に毎朝、ご家庭で測ってほしいですね。その結果を見て、今日は早めに仕事をあがろうとか、気分転換に充てようとか、一日をどう過ごすか判断する材料に使ってほしい。また、現状では健康管理ツールとしての活用をしていますが、例えば、車を運転する前などに自分で疲労・ストレス度をチェックするという用途もあると思います。そんな使い方も、これからは社会に望まれるのではないでしょうか」。

過労死やうつ病という社会課題がありながら、医学の世界においてずっと手つかずの領域だった、疲労。そのメカニズムが解き明かされ、その状態を測ることが可能になるまで、実に20年以上の歳月がかかった。積み重ねられた知見は、最先端のITによって"疲労・ストレス測定システム"としてツール化され、だれもが疲労を測れる社会が、今や現実のものになろうとしている。4回にわたる取材を通じて、疲労・ストレス測定システムの開発と実運用に携わる各界の人々に出会った。彼らが目指すゴールは、奇しくも共通している。「病気になる前に、気づかせたい」。疲労から社会を救う彼らの挑戦は続いていく。


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