毎週月曜日に配信されている、楠木建の「EFOビジネスレビュー」。その中で載せきれなかった話をご紹介する、アウトテイク。これが、めちゃめちゃ面白いです。

僕には明治生まれの祖母がおりまして、今年107歳でまだ健在です。明治、大正、昭和、平成、そして来年になれば5つの時代を生きることになります。

彼女と話していて結構説得力があるのは、一応リアルタイムでこの100年間のいろんな変化を、肌感覚で経験してるんですよ。2011年の東日本大震災のときは同居していたのですが、「大丈夫?」って聞いたら、「これは関東大震災よりも確実に大きいね」って言うんです。そうなんだろうな、リアルに両方経験した人が言うんだからよほどすごいんだろうなぁと。

祖母に「この百数年間の生活で一番インパクトがあったのはなに?」って聞いたことがありました。イノベーションってやっぱり人々の生活に直結するインパクトなので、それをちょっと聞いておこうと思いまして。

即答で返ってきたのが『電灯』でした。電灯のインパクトと比べると、インターネットやスマホなんて、あるんだかないんだかわかんないぐらいインパクトがないと。

約100年前の当時、子どもにとっての最初の家事労働は、朝のランプ掃除だったらしいんです。眠いときに、未就学児童ぐらいからやっていると思うんですけど、ランプ掃除がないっていうことは、朝そのぶん眠れる。これは重大ですよね。

あと、祖母のお母さんが、電灯のおかげで夜も作業ができるようになった。それまでは明るい昼間にぎゅーっと詰めてあらゆる作業をしなければならなかった。まき割りとかやってるわけです、お風呂沸かすのも。お洗濯なんて、もちろん洗濯板ですから。しかも、繕い物とか夜できるようになって、家庭にものすごいゆとりができたそうです。

昔の農家は、年休6日ですからね。日本の場合は、お正月3日間とお盆3日間。あとはフル労働ですから。今なんてこれだけ休めて、連休が多過ぎてちょっと調子狂っちゃうぐらいです。いまブラック企業で働いている人が、100年前の農家で働いたら、もっと漆黒の暗黒だぞと、そういう世界です。

電灯がインパクトを持った時代、100年前に比べると、私たちは明らかに豊かになりました。

この楽さ、暇さ、このペインレス(痛みのない)な生活。これは人間がそれを求めて、一生懸命頑張った結果得られた進歩であり、その進歩の果実なんです。人を殴ったりするような、ひどい職場もなくなりましたし。

ただ、その分「小人閑居して不善をなす」というロジックがむくむくと鎌首を持ち上げてくる。結局のところ、「衣食足りて礼節を知る」と「小人閑居して不善をなす」、この2つの対抗するロジックの綱引きの中で世の中の質が決まってくるということです。もちろん僕にしても両面あるのですが、日々不善を繰り返しつつも、少しでも「衣食足りて礼節を知る」の方向に向かって行きたいと思っています。

画像: 107歳の肌感覚。

楠木 建
一橋大学ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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