“Inside-Out”だけでなく“Outside-In”のアプローチが必須だと説く、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(以下、GCNJ)代表理事の有馬利男氏。すなわち、経営の軸足を社会課題に置き、そこから新たな事業を生み出していくことが重要だと言う。そのためにはSDGsへの取り組みを単なる社会貢献ではなく、ビジネスチャンスと捉えて、積極的に関わっていくことが必要になる。しかし、具体的にどのように進めていけばいいのだろうか。ヒントとなる枠組みや事例、課題について、有馬氏に聞いた。

「第1回:なぜいま、SDGsへの取り組みが必要か」はこちら >

“Outside—In”のアプローチが有効な理由

第一回ではSDGsが設定された背景と、日本企業の取り組み状況について伺いました。その中で、社会課題に軸足を置き、そこから新たな事業を見出していく“Outside-In”のアプローチが重要である、というお話がありました。それはなぜでしょうか?

有馬
その理由は、社会課題の中にこそ大きなビジネスチャンスがあると考えられるからです。

たとえば、SDG 4「質の高い教育をみんなに」で言えば、2025年には24兆円規模の事業創出が予測されています(出典 P&S Report)。うち、MOOC(Massive Open Online Course)と呼ばれるインターネットを活用した公開ネットワーク講座が4.6兆円、社会人も含めたパーソナルラーニングで4.6兆円、さらに、デジタル・スクール・サービスでは14.9兆円規模の市場創出が見込まれています。サムスンやGoogleなど、世界のIT企業がデジタルラーニングに注力し始めているのは、そういった背景があると思います。

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そのほかにも、SDG 5「ジェンダー平等を実現しよう」で3,561兆円、SDG 7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」で133兆円、SDG 11「住み続けられるまちづくりを」で6,076兆円と算出されていて、非常に大きなビジネスチャンスが見込まれます。数値はあくまでも推定でしかありませんが、SDGsが新たな事業機会の創出に結びつき、大きな市場が広がっていることは間違いないでしょう。

ただそうした中、今年7月に開催された国連の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)の一環として開催されたSDGビジネスフォーラムでは、残念ながら日本企業の参加はほとんどなかったように記憶しています。予想の倍の千人規模の参加者が来場し、急遽、場所を総会議場に変更したほどだったのですが。日本ではトップのSDGsの認知度が低いこともあり、SDGsがビジネスチャンスにつながるという意識がまだ低いと言わざるを得ません。

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モノづくりときめ細やかな対応力を、日本の強みとしてSDGsに生かすべき

日本企業はこれまでも、省エネなどの環境技術やフィランソロピー的な社会活動でさまざまに社会課題解決に貢献してきたと思うのですが、今後はビジネスにおいて、どのような分野、もしくはやり方で存在価値を示していくべきだと思われますか?

有馬
いろいろな考え方がありますが、私はやはり日本が従来から得意としてきたモノづくりが、今後も重要な要素であり続けると思います。もちろんこれからは、単にモノをつくるだけでなく、お客さまの仕事のプロセスを改善し、生産性を上げ、イノベーティブな価値を創出するためのソリューション・サービスに向かう必要はあります。

しかしながら、だからといってモノが不要になるわけではありません。ソリューション・サービスだけで日本企業が有利な立ち位置を築くのは難しい。むしろ、モノづくりの強みに立脚したソリューション・サービスを展開することが差別化につながるのではないかと思っています。

もう一つは、日本企業が持つきめ細かな課題解決力に期待しています。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)により、世の中の多種多様な情報をリアルタイムに取得できるようになり、上流から下流までサプライチェーン全体で情報が共有できるようになると、これまで以上に、お客さまのニーズに寄り添うことができるようになるはずです。その際、日本企業の持つ、お客さまとの心と心のつながり、そして、それを踏まえたきめ細かな対応が大きな強みになると思います。

ご存知のように、日本にはもともと「三方良し」という言葉があり、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」という三つの「良し」を実践することが、良い商売であるとされてきました。また、渋沢栄一の『論語と算盤』の中で語られているように、倫理と利益の両立を旨とする考えが受け継がれてきた歴史があります。

1973年には経済同友会が「社会と企業の相互信頼の確立を求めて」という報告書を出して、ステークホルダーに対する責任、社会との対話の重要性を唱えています。日本に継承されてきたこうした考え方は、現在のCSR、さらにはSDGsにつながるものであり、日本企業がSDGsの中で大きな役割を担い、存在感を示してくれるものと期待しています。

官民の連携や業界全体での取り組みがSDGsを推進していく

今後、日本の企業がSDGsへの取り組みを推進していくためには、どのようなしくみが必要だとお考えでしょうか。

有馬
現在、欧米を中心にソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)という官民契約による成果連動型社会事業開発が広まっています。これは、民間投資家の資金を優れた社会事業に投資し、社会課題の解決と行政コストの削減を同時にめざす取り組みです。成果が達成された場合、行政が投資家へ成功報酬を支払うしくみで、すでにヨーロッパで45件、アメリカで11件、アジアで2件、合計約60件が動いています。残念ながら、日本ではまだこうした取り組みはありませんが、今後は、SIBのようなしくみも活用していくべきだと思います。

画像: 官民の連携や業界全体での取り組みがSDGsを推進していく

また、日立のようなグローバル企業には、大きな期待を寄せています。とくに日立は、エネルギーや都市など、社会のインフラを支える企業であり、こうした企業が先進的な事例をさまざまに創出していくことで大きな影響を与えることになるでしょう。

トヨタ自動車が2015年に「環境チャレンジ2050」を発表しましたが、トヨタ自動車のようにバリューチェーンの頂点に立つ企業が明確にビジョンを打ち出すことも、大きなインパクトをもたらします。

自動車業界というのは、ガソリン自動車から電気自動車への転換を図り、さらにこれからは自動運転へとシフトしようとしています。業界全体で脱化石燃料に取り組み、安全で安心なモビリティをつくろうという動きへ向かいつつあるわけですが、規模が大きい産業だけに、SDGsに立脚したビジネスの牽引役を担ってくれるのではないかと思っています。

世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートの取り組みにも注目しています。ウォルマートは、サステナビリティで先進的な取り組みを行っているサプライヤーを「サステナビリティ・インデックス」で評価したり、そこで高い評価を得たサプライヤーの商品だけを集めたオンラインショップ「サステナビリティ・リーダーズ」を始めたりして、デファクトスタンダードをつくろうとしているのです。

このように、グローバル企業には手本となる経営姿勢をさまざまに示していただき、業界全体を牽引していってほしいと願っています。

最近、日本では印刷業界を筆頭に、SDGsに関わる表彰制度、認証制度などを創設する動きも出てきています。中小企業を含め、企業の取り組みをエンカレッジするしくみをつくるなど、業界単位でさまざまなアクションを起こしていくことが、社会全体を変えていくことにつながると期待しています。

いまこそ、サステナビリティに関する情報発信を

そうしたさまざまな先進的な取り組みを、情報発信していくことも重要ですね。

有馬
非常に重要です。先日、国連グローバル・コンパクトの事務局長のリサ・キンゴ氏が来日され、企業のCEOの方々と朝食会を開いたのですが、その折、CEOの方々がそれぞれご自身のサステナビリティに関するストーリーをお話しされていて、大変感銘を受けました。このように、トップが情報を発信する場をもっとつくっていく必要があると感じました。

ぜひ、日本経済団体連合会(経団連)のように日本企業のトップが集まる場で、そうした機会を設けることができたらと考えています。

ESG投資への期待は大きいが、今は過渡期

ESG投資に関する関心の高まりはいかがでしょうか?

有馬
ESG投資に関しては、まだ受け取り方にばらつきがあります。最近では、IR(Investor Relations)、すなわち投資家と企業との懇談の場などでも、「四半期の業績など話題にならなくなった。いまやESGやCSR、さらにはCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)で持ちきりだ」とおっしゃる経営者もいます。

一方、ESGの話などみじんも出ないとおっしゃる方もいる。今はまだ、運用機関のアナリストたちも、ESGに関しては勉強中という感じで、関心は高まっているものの、過渡期にあると言っていいでしょう。

非財務価値の評価をより明確に示していく必要があるということでしょうか?

有馬
ESGのうち、G(ガバナンス)については以前から皆さん手がけていますが、E(環境)とS(社会)が、企業経営にどのように結びつくのか、何をどう判断すればよいのか、明確な指標がないことが問題です。

画像: ESG投資への期待は大きいが、今は過渡期

CO2削減への取り組み(投資)が、その企業全体にとってどのような価値を生み出すのか、コスト削減だけでなく、事業のサステナビリティやブランド価値の向上にどう結びつくのか、それをどのような指標で判断するのかというのが、これからの大きな課題になってくると思います。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

画像: 有馬利男氏 1967年国際基督教大学教養学部卒業、同年富士ゼロックス株式会社入社。同社常務取締役、Xerox International Partners社長兼CEOなどを経て、2002年富士ゼロックス株式会社代表取締役社長に就任、2007年から相談役。現在、国連グローバル・コンパクト ボードメンバー、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)代表理事、認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム 共同代表理事、富士ゼロックス株式会社 イグゼクティブ・アドバイザー。ほかに数社の社外取締役も務めている。

有馬利男氏
1967年国際基督教大学教養学部卒業、同年富士ゼロックス株式会社入社。同社常務取締役、Xerox International Partners社長兼CEOなどを経て、2002年富士ゼロックス株式会社代表取締役社長に就任、2007年から相談役。現在、国連グローバル・コンパクト ボードメンバー、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)代表理事、認定NPO法人ジャパン・プラットフォーム 共同代表理事、富士ゼロックス株式会社 イグゼクティブ・アドバイザー。ほかに数社の社外取締役も務めている。

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