ミドリムシビジネスを拡大し、バイオテクノロジーの最前線を走る株式会社ユーグレナの出雲充氏。大学発の研究開発型ベンチャー企業が世に貢献していくために、越えなければいけない壁とは何か。日本のベンチャーとそれを取り巻く環境に対する出雲氏の思い、そして同社が中心となって設立したベンチャー支援ファンド「リアルテックファンド」のねらいについて聞いた。

出雲充(いずもみつる)
1980年広島県生まれ、東京都育ち。東京大学農学部卒業。在学中、バングラデシュの子どもたちを栄養失調から救うため、ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を扱ったビジネスの起業を決意。株式会社東京三菱UFJ銀行での勤務を経て、2005年8月に株式会社ユーグレナを設立し代表取締役社長に就任。同年12月、石垣島で世界初のミドリムシ屋外大量培養に成功。2008年の伊藤忠商事株式会社からの出資をきっかけにビジネスを展開し、2014年に東証1部上場。著書に「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました」(ダイヤモンド社,2012年)。

前編:ミドリムシの力を社会に実装する >

オープンイノベーションが進まない理由はベンチャー側にあり

――前編では、起業のきっかけから大手企業とのバイオ燃料開発の共同研究についてお聞きしました。大学発ベンチャーが大手企業と手を組む際に、難しいことはなんですか。

出雲
難しいことなんて、無いと思います。大きな企業から声をかけていただけるだけでありがたい。ところが実際には、大手企業が大学発ベンチャーを活用したオープンイノベーションは、日本ではあまり進んでいないですよね。わたしは、その大きな原因はベンチャー側に2つあると考えています。

1つめの原因は、大学発ベンチャー企業の多くが、他のベンチャーやフットワークの軽い中小企業と提携して開発を進めようとすることです。異業種の大手企業とオープンイノベーションのプラットフォームを作って推進していくには、どうしても時間がかかります。だからと言って、資金力に乏しいベンチャーや中小企業が5社や10社集まってオープンイノベーションを貫徹しようとすると、どこか1社でも経営状況が悪くなった途端にプラットフォームが瓦解してしまうんです。

大学発ベンチャーこそ、大手企業と手を組む必要があると思います。小さな企業と小規模で共同研究をしても、より大規模な実証研究にステップアップする際に研究成果としてカウントされませんから。どこか大手の企業にプロトタイプを買っていただけるまで頑張らなくてはいけないし、そのレベルまで自社の技術を磨き上げなくてはいけません。

2つめの原因は、ベンチャーがすぐ自社で技術を抱え込もうとすることです。大手企業と提携すると、肝心なところでよいところだけ持っていかれるんじゃないかと、警戒し過ぎなんですよね。でも、ベンチャーがある程度情報を提携企業に開示しないことには、オープンイノベーションのチャンスは広がらない。ベンチャーが大手企業と組む場合、自社が持っている技術の中でどこまでをノウハウとして守り、どこからはシェアするべきか、きちんと峻別する必要があります。

画像: ミドリムシの粉末が入ったドリンク『緑汁』。社員はオフィスに設置されたドリンクサーバーでいつでも飲める。

ミドリムシの粉末が入ったドリンク『緑汁』。社員はオフィスに設置されたドリンクサーバーでいつでも飲める。

研究からビジネスへの橋渡し、「リアルテックファンド」

――2014年にユーグレナ社が中心となって、大学発ベンチャーを対象としたファンド「リアルテックファンド」が発足しました。設立の意図を教えてください。

出雲
ベンチャー企業が市場に飛び込んでいくためには、2度大きなチャレンジをしなければなりません。1度目は、基礎的な研究から製品化の段階に進み、商品のプロトタイプを作って、出資してくれる企業の評価を得ること。2度目は、それをビジネスにするために量産体制を整えることです。大学の研究室の設備では大量生産なんて不可能ですから、どうしても数億円の投資が要ります。ところが日本には、大学発のベンチャーに出資してくれるファンドが少ないんです。そこで、ユーグレナが中心となって設立したのがリアルテックファンドです。ファンドの出資者には、ヘルスケアやインフラ、素材メーカーのほか、金融や製品販売、ブランディングなどを得意とする大企業が名を連ねています。

――「リアルテック」が意味するものは何ですか。

出雲
わたしたちが支援対象とする大学発ベンチャーは、農業やバイオ、ロボット工学などという分野です。インフォメーションテクノロジーとは違うという意味を込めて、リアルテックファンドという名称をつけました。

ITの分野には、ベンチャーキャピタルがすでにたくさん存在しているんです。ITベンチャーが作る商品はゲームアプリをはじめとするソフトウェアなので、収益率が高く、失敗しても損失が小さいからです。ところがリアルテックの分野で作られるのは、ハードウェアや食品、医薬品といった商品です。そのため、プロトタイプを作るところまではうまく行ったけれども、いざ量産となるとリスクが高まるので手を挙げてくれる投資家が見付からず、そこで頓挫してしまう大学発ベンチャーがとても多いんです。

画像: 研究からビジネスへの橋渡し、「リアルテックファンド」

例えば、九州大学発の株式会社Kyulux(キューラックス)というベンチャー企業があります。発光効率100%の有機EL*という、ものすごく省電力に優れた革命的な発明をした会社なんですが、出資企業がないためにそこから先の量産段階に進めずにいました。その話をわたしたちが聞いてプロトタイプを見させてもらい、ファンドの出資者である大手企業に紹介し、量産までの橋渡しをしました。キューラックスのように素晴らしいテクノロジーを持っていて、しかも論文止まりではなく、プロトタイプまで作っている大学発ベンチャーは日本中に山ほどあるんですよ。

* 電圧をかけると発光する有機化合物。EL:electroluminescence(発光)

ところが、出資してくれる大企業を見付けるには、わたしたちも経験したようにとにかくトライし続けるしかない。それにはやはり大変な時間がかかりますし、もたもたしていると外資に持って行かれることだってありえます。せっかく日本発のテクノロジーなのに、それではあまりにももったいない。リアルテックファンド設立には、そういったことを防いで日本の産業を守りたいという思いも込められています。

ミドリムシクッキー3,000人分というプロトタイプ

――もともとユーグレナ設立のきっかけは、バングラデシュの子どもたちを栄養失調から救いたいという出雲さまの思いでした。今、バングラデシュに対して何か取り組みはしていますか。

出雲
2014年4月、バングラデシュのスラム街の小学校に通う約3,000人の子どもたちに、ミドリムシを使用したクッキー1食分6枚入りを毎週6日間配布する取り組み「ユーグレナGENKIプログラム」をスタートさせました。ミドリムシクッキー6枚で、現地の子どもたちに特に不足しているビタミン類や鉄分といった栄養素の一日分を摂ることができます。クッキー製造に必要な資金は、日本で販売しているミドリムシ商品一つにつき10円をユーグレナと協賛企業さまが負担し、地元の老舗クッキー工場で製造しました。

画像: ミドリムシクッキーを食べるバングラデシュの小学生たち

ミドリムシクッキーを食べるバングラデシュの小学生たち

目標はバングラデシュ国内100万人の子どもたちを栄養失調から救うことですから、3,000人への配布なんて微々たる取り組みかもしれません。でも、これも一つのプロトタイプなんです。わたしたちの取り組みを知った大勢の人たちがサポートや助言をしてくだるようになり、そこからいろいろなチャンスやご縁が巡ってくるようになったからです。

同じ年の9月、安倍総理大臣のバングラデシュ外遊に随行させていただくことになり、現地のシェイク・ハシナ首相と直接お話しできる機会を得ました。「今はまだ3,000人だけど、100万人の子どもたちにミドリムシクッキーを配りたい」とハシナ首相にお伝えしたところ、関係機関に働きかけてくださることになり、現時点で8,000人の子どもたちにミドリムシクッキーを食べてもらっています。今年から国連のサポートもいただけることになったので、これからさらに増やしていきたいです。

ベンチャーがいくら大きな目標を掲げていても、現状でできていることがまだまだ小さいと格好悪く思われるかもしれませんけど、やはりプロトタイプが無いと話が進まないんですよ。3,000人の子どもたちが、実際にミドリムシクッキーを食べ続けたことで栄養失調から元気になり、笑顔で学校生活を送っているという事実はすごく大きな説得力を持つんです。そこからさらに取り組みを大きくしていく時に、大企業や政府などと力を合わせてやっていくのがベンチャーの役割ですし、オープンイノベーションの醍醐味ですよね。

画像: ミドリムシクッキー3,000人分というプロトタイプ

――出雲さまは学生時代からこれまで10年以上にわたり初志を貫徹されてきました。モチベーションを保つために何かなさっていることはありますか。

出雲
本を読むことです。科学者の伝記や気に入った経営書などは、何度も読み返しています。また、漫画も好きで、秋本治先生の「こちら亀有公園前派出所」*を愛読しています。先日惜しくも40年間の連載が終わってしまいましたけど、これには本当に勉強させられました。主人公の“両さん”こと両津勘吉はいろいろと破天荒なことに挑戦するんですが、どんな状況でも「お金が無いからできない」とか「時間が無いから諦めた」というセリフを言わない。全200巻、どのコマにも一度も出てこない。自転車レースに出場して、途中で自転車が壊れてしまったらそれを自分で背負って走る。とにかく彼は言いわけをしないんです。これはビジネス以外にも当てはまることですけど、特にベンチャーを率いる人間として見習っていくべき姿勢だなと、読むたびに強く思いますね。

* 1976年から2016年まで、集英社の「週刊少年ジャンプ」に連載された漫画作品。

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