日立が国内外の企業と取り組んでいる情報活用の事例を紹介するとともに、社会とビジネスの変化に応えて豊かな未来づくりに貢献する、価値の協創について語りました。

株式会社日立製作所 執行役副社長 情報・通信システムグループ長 兼 情報・通信システム社社長 齊藤 裕


情報を活用した革新的な時代へ

画像: 情報を活用した革新的な時代へ

今、人々の価値観は「モノ」から「コト」へと変化しています。モノの機能に価値があった時代は、所有することや使うことに意味がありましたが、現在は、自分にとってどんなメリットがあるのかというコトの感覚、つまり体験や経験、思い出、人間関係、サービスなど、目に見えない価値である経験価値に意味を求め始めています。その一つの例が、JR 九州様の「ななつ星 in 九州」です。これまでの移動手段というモノの提供だけではなく、九州の職人技の粋を尽くした内装や調度品、クルーのおもてなしなど非日常空間を味わえる、まさにコトを提供する象徴ではないかと思います。これからは、地球環境に配慮しつつ、人それぞれの経験価値を高めることが重要であると考えています。

ITのプラットフォームについても同様の変化が見られます。従来、プラットフォームと言えば、サーバやストレージ、ネットワークといったシステムのプラットフォームでした。現在ではソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド、いわゆるSMACと呼ばれるもので、これは、エンドユーザーやマーケットから見たときのプラットフォームを象徴しています。そして最近では、このプラットフォームを活用して、デジタル化した空間でモノとITとサービスを融合させた新しいソリューションも生まれています。3Dプリンターはその象徴です。人工知能も、人が作ったアルゴリズムどおりに動くのではなく、機械自身が自ら持っている大量データに意味を見い出し、学習し、その動きを最適化していく形に発展しています。また人の感情を認識して、人に対する対応を変えるロボットも登場しています。

ネットワークも、モノがつながるインターネット(IoT (*))に進化しています。機械から発せられるデータを取り込んで利用するM2Mのように、いろいろなものがインターネットを介して、取り込むことが可能となっています。M2Mでは工場の機械が発するさまざまなデータをとらえて、業務プロセスを革新したり、企業間でデータを相互に活用してバリューチェーンを革新したり、さらには社会にあるセンサのデータを活用して新しい経験価値、コトの世界、サービスをつくり出す動きが出てきています。

バリューチェーン全体を革新するという観点では、GE社のインダストリアル・インターネットやドイツのインダストリー4.0なども注目を集めています。例えば、インダストリー4.0はITを中核に、国や産業界を挙げて産業構造やビジネスモデルを戦略的に変えていこうという第四次産業革命の動きそのもので、まさにオープンなコラボレーションによって、さまざまな人が持つ知恵を集め、オープンなイノベーションをしていこうというアプローチであり、社会が大きく変化している。そういう実感を持っています。

現在、日立が取り組んでいる社会イノベーション事業は、こうした世界の動きをとらえ、革新的な経験価値を提供することで、ビジネスや社会が大きく変わろうとしている中、世界の期待に応え、社会に貢献していく。そういう事業です。

*IoT:Internet of Things

ビッグデータとは何なのか。それがもたらす価値とは

現在、ビッグデータを使ったサービスの創出が本格化しています。ビッグデータとは世の中にあるさまざまな情報をITのシステムに取り込んでデジタル化した数値データのことです。これまでは主にマーケティングの分野で活用されてきました。オンライン・ショッピングでの顧客分析やリコメンド、さらにはSNSの情報を商品づくりに反映するといった活動です。

デジタル化とは、あらゆるものをサイバー空間に持ってきて、数値化することです。現在、IoTやM2Mも含めて、ネットワークを介して世の中の現実、状態、動きなどをセンサやスマートフォンなどの端末からとらえることができるようになっています。つまり、これまでは、人がある断面でしか、とらえられなかった、さまざまなフィジカルな空間、さまざまなリアルな世界をデジタル化していく、サイバー空間に持っていく。それによって、いろいろな角度で、さまざまなことが、俯瞰できるようになる。そういうことが可能になっています。そして、それを活用して、世の中が大きく変わろうとしています。

データ活用による最適化を、私の経験も踏まえ、お話します。制御、モノを動かす世界は、機械や仕上げていく製品の状態をセンサでとらえて、現象をモデル化し、アクチュエイター、いわゆる駆動機やモーターで機械を動かして、製品の品質や歩留まりを上げていくというシステムでした。自動化により、省人化でき、稼働率も向上するということを日本の製造業は制御システムの中で実現してきました。現在のコトの時代は、人間中心であり、生活の品質や社会の品質が重要になっています。そういう人を含めた社会のシステムを良くしようというところにITを活用していく時代になっています。今、スマートフォンなどで、制御システムのセンサと同じように人の動きを把握することができます。そこで集まったビッグデータを分析し、インフラと連携し、また、それぞれの人達へのインセンティブやナビゲーションで、動きや生活もサポートし、社会全体の効率を上げ、ムダ、ムラ、ムリを省いていく。つまり、エコで、安全・安心、快適・便利な社会を実現する。そういう時代になっています。

ビッグデータの本当の役割を考えてみます。人やモノ、金といった社会の中のいろいろな状態、動きなどから大量のデータが発生しています。そのデータをリアルタイムに把握し、世の中がどうなっているかを認識していく。そして、その認識した結果を用いて、次にどうなるかというモデルをつくり、予測し、行動するということが、ビッグデータ利活用のモデルになっていくと考えています。言い換えると、人の動き、モノや金の動き・流れを相互関係や時系列関係も含めて分析し、その中からインテリジェンスを見つけ出し、サービスの創出に活用していく。それがビッグデータの利活用だと考えています。ビッグデータの利活用には、現場の勘やノウハウ、人の経験といったナレッジが必要です。それをデジタル化することで、ビッグデータ利活用のツールになります。そのためには、ビッグデータで導き出した結果が、本来どうあるべきかといった経験も必要です。これからはそういった経験やノウハウによる解析・分析もデジタル化していくことで、さらなるイノベーションの材料になっていくのではないかと考えています。

画像: 図:「データ×ナレッジ」で価値を生み出す情報活用

図:「データ×ナレッジ」で価値を生み出す情報活用


ここで、今日の講演の主題となっている「情報活用」という言葉について少し考えてみます。「情報活用」とは、“データ”ד人のナレッジ”で価値をつくっていくことであり、大きく二つの領域があります。一つは経営や業務の最適化を図ることで、業務の効率化を進めながら投資コストや運用コストを減らしていくこと。従来のCIOのミッションですが、さらに人の成長や従業員の活性化にもITの活用があります。もう一つはビジネスの成長や売り上げの拡大に向けて新しいサービスを展開することで、エンドユーザーやコンシューマーと良い関係をつくりながら、快適で、安全・安心な生活を提供していくことです。そのためには、データをわかりやすい情報であるインフォメーションに変え、さらにその中の因果関係を見つけ、分析することでインテリジェスを生み出していく必要があります。これは、現場のリアルな動きをデータで把握し、可視化、分析し、本質を見つけ出していくという流れです。もちろん、それぞれの過程で人の持つノウハウや経験、勘が大切であることは言うまでもありません。それでは、そうした情報活用の三つの事例をご紹介します。

情報活用の三つの事例紹介

北米における配電設備の保守事例

配電とは地域の変電所から家庭などに電気を届けるシステムですが、現在北米では配電線の距離は1000万キロメートル以上(日本の約9倍)、電柱の数は1億3000万本(日本の約6倍)にのぼります。米国の配電会社はその配電設備の保守をアウトソーシングしていて、委託業者が電線、電柱、トランスといった機器類の保守にあたっています。これらの設備の中には1960年代から70年代の高度成長期に設置されたものが多く、その老朽化が課題となっています。耐用年数が40年と言われる設備の寿命だけでなく、保守作業員の高齢化による一斉退職も課題となっています。しかも最近は、新エネルギーや再生可能エネルギーの普及、地球温暖化による気候変動によって、設備への負荷が増大しています。ここ10年間で停電時間は15%も増えたという統計もあります。

こうした課題に対応していくには、壊れる前に保守を行うための分析手法の確立、経験年数や知識に頼らない保守体制の仕組みづくりが必要です。日本ではすでに電力会社がITを活用して事前保守の条件を洗い出す仕組みなどを確立して、運用を行っています。日立は日本の電力会社のこうしたノウハウを活用させていただきながら、このプロジェクトに取り組んでいます。

熟練者のノウハウやナレッジを活用する仕組みをご紹介します。雪の深い米国北部では除雪車がまき散らす雪には融雪剤の塩分が含まれていて、高架になっている道路の下側の電柱では上からの除雪によって機器類の上部が腐食しやすくなっています。これまでベテランの保守員はそのことをよく知っていて、通常は電柱の下から目視点検するところを、上の道路から点検していました。そして錆止めを施した上蓋を自主的に取りつけていましたが、これは個人のノウハウ、工夫でした。こうしたことを地図データや、自治体が持つ除雪車の稼働実績、機器交換の記録などを掛け合わせることで耐久性の高い設備計画を立案することができるようになります。このベースとなっているのは、設備資産管理ソリューションと呼ばれるものです。

日本の電力会社のナレッジと日立のデータ利活用の総合力で、グローバルに安定供給が実現できる。そういう、より良いエネルギーサービスの提供を実現していきたいということで、現在、取り組んでおります。

インドにおける金融サービス事例

インドでは現在「より多くの国民が正規な金融取引を行える環境を整える」という政策のもと、金融サービスの改革に取り組んでいます。現在、口座保有率は35%ですが、経済成長に伴う所得増から金融インフラの整備が求められています。ATMの台数で見ると、2014年現在約20万台(日本とほぼ同数)ですが、2018年には44万台まで増加すると見込まれています。

日立は、今年(2014年)の3月、インドのプリズム・ペイメント・サービス社を買収しました。この会社は金融機関にATMの包括的なアウトソーシングを提供しており、運用・保守だけでなく、ATMの最適な設置場所のコンサルティングまで行っているのが特徴です。また、日本と違って、ホワイトラベルというプリズムブランドの独自のATMを持っており、取引量に応じた手数料収入がプリズム社の業績のポイントになります。そのため、利用者が多いと見込まれるATMの設置場所を選定することが重要となります。プリズム社は、人の動きの予測や過去の取引データなどの分析で半年先の取引量のシミュレーションを行い、ナレッジを蓄積し、ATMを設置しています。

現在、プリズム社では毎月1000台のペースでATMを設置しています。今後増加していく現金利用のニーズに対し、利便性を向上させ、決済インフラという社会インフラの拡充に貢献していきます。

ユニー様(流通小売業)における事例

中京圏を中心に、店舗数227の総合スーパーを展開されているユニー様の事例です。その取扱商品数は100万件、一日の来客数は全店舗合計で100万人。これだけ多くのお客さまがお買い物をされると、そのデータの組み合わせからいろいろな相関関係が見えてきます。ユニー様にはクレジットカードおよび電子マネー「ユニコカード」の会員400万人のデータがあり、そのカード利用から、POSデータだけではわからない年齢や居住エリアなどの属性と購買傾向を日立の高速データベースエンジンを活用して分析。お客さまに合った価値のすみやかな提供、嗜好変化への対応などを実現されています。例えば、ロイヤルカスタマーがよくお求めになる商品を切らさないようにする、用途に合ったクーポンを発行してご来店を促すといった取り組みをされています。また、自社開発のプライベートブランド商品については、リピート率を見て、品質を改善していくなど商品力の強化に努められています。

日立は、新生活小売業をめざして個々のお客さまに合わせた価値の提供、まさに経験価値の提供を続けているユニー様をこれからもしっかり支援していきたいと考えています。

ここまで情報活用で価値を生み出している事例をご紹介してきました。次に、こうした、インテリジェンスを生み出し、情報活用を拡大していく基盤をご紹介します。そこで必要なのは、今後、さらに増加するデータを、安全に、自在にハンドリングすると同時に、さまざまな人たちのナレッジを活用できる基盤です。信頼性、可用性、拡張性が高いことはもちろんですが、さらに、次のことが求められていると考えています。まず、さまざまなものがネットワークで広くつながる中、セキュアな基盤であること。環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できるアジリティな基盤であること。大量のデータをリアルタイムに収集し、分析、活用できる基盤であること。加えて、「個」を可視化し、価値を提供するサービスセントリックな基盤であること。そして、これからの基盤として、最も大切だと考えているのは、いろいろな人の知恵を集めて、それを活用できるコラボレーションによる情報活用が可能な基盤であること。こういう基盤をつくり上げ、活用することで、イノベーションの加速ができると考えています。

その一つの例として、トラフィック・マネジメント・ソリューション(TMS)をご説明します。TMSはネットワーク上のトラフィックを把握して、リアルタイムに制御を行い、ネットワークの構成を最適化するものです。ネットワークを流れるデータは、スマートフォンの利用でもわかるように、音声、テキスト、画像、動画など多様で、かつ大容量です。想定以上のトラフィックが発生した際のデータ遅延に即座に対応するのがTMSの機能であり、これによって、利用者の満足度の向上につながり、また、事業者の設備投資の最適化を実現することができます。TMSの考え方は工場の製造ラインやインフラ関連のメンテナンスにも活用することができます。今後、コラボレーションを促進するサービスの基盤として期待できると考えています。

スマートな社会に向けて

ITの活用とナレッジで高度化されたサービスで社会全体をつくっていこうというのがスマートシティです。しかし実際には、環境と利便性・快適性など二律背反的な問題もあって難しいところがあります。私はこれに対して、かつて「ちょうどいい」というメッセージを出していました。つまり住民に焦点をあて、住民参加型で、住民とインフラの双方向で共生できる暮らしを実現していくことです。人々の生活ニーズがいろいろなサービスに反映される仕組みを持つことで、インフラ側の設備投資を減らし、自然と調和した、活気ある、暮らしやすい街を実現することができると考えています。そうしたトライアルの例をご紹介します。

まず、三井不動産様が中心となって、世界の課題解決モデルをめざして進めている柏の葉スマートシティをご紹介します。この柏の葉スマートシティでは環境共生都市、健康長寿都市、新産業創造都市という三つのテーマが掲げられています。日立は、これまで環境共生都市の実現に向けて、エネルギーのマネジメントに取り組み、地域で効率的にエネルギーを使うため、電力ピーク時に電力を融通しあう仕組みや、利用者には省エネ活動に有効なエネルギー情報を提供していく仕組みなどを実現してきました。また、現在は、健康長寿都市の実現に向けた取り組みにも参加しています。三井不動産様は多くのステークホルダーと、住民にとって街の価値を上げるために、ヘルスケアが重要と位置づけ、地域の人材やNPOとも連携を取りながら、さまざまなサービスモデルの検討を進められています。例えば、住民が健康なライフスタイルを維持していくために行動を変えることを促す仕組みや、生活動線にヘルスケアが組み込まれた街づくりへの取り組みなどです。

デンマークにおける取り組みもご紹介します。

デンマークは福祉制度の充実で知られ、欧州のスマートシティ・ランキングでも1位です。デンマークも世界の先進国と同様、多くの課題を抱えていましたが、世界に先駆けて対策を取ったことで、例えば、出生率は1983年を底に、以降は増加しています。これは幼児の教育施設の充実、出産・育児休暇の延長、児童手当の充実といった取り組みの成果だと言われています。

日本も少子高齢化や医療費の増加、エネルギーの問題など数々の課題があり、デンマークの事例が参考になると考えています。そういう中、日立もプロジェクトに参加し、貢献していこうとしています。現在、デンマークの具体的な取り組みとして、例えば、グリーンで持続可能な社会の実現をめざし、エネルギー政策として2050年に化石燃料を一切使わないことを目標にしています。また交通分野では、コペンハーゲンで通勤通学時の自転車利用について、2025年に50%をめざしています。ヘルスケアの分野では、スーパーホスピタル構想のもと、最先端の設備を備えた利用施設の建設が2013年からスタートしています。日立では、こうした幅広い取り組みに貢献していくため、近々、デンマークにビッグデータラボを開設します。

ビッグデータラボは、ビッグデータ利活用に関する研究開発、お客さまとの共同実証、サービス開発などを行うことを目的としており、デンマークにおいても環境・エネルギー、交通、ヘルスケア分野を中心にデンマーク社会の発展に貢献していきたいと考えています。

日立のビッグデータラボは、デンマークのほか、米国や英国などに設置し、さまざまな実証やトライアルを行っています。また、北米にある日立イノベイティブ アナリティクスグローバルセンタが各拠点を結び、お客さまの課題解決に向けて、コラボレーションで、ビッグデータを活用したソリューションを開発し、新たな価値の創出を加速しております。とくに、日立のインフラ事業との関係が強い分野に取り組み、スマートな社会の実現に貢献していきたいと考えています。

価値をつないで豊かな未来へ

人間中心、ヒューマン・セントリックの時代と言われる今日、経験価値がますます重要になってきています。世の中の流れが「モノ」の提供から「コト」の提供へと変化していく中で、新しいサービスや価値が提供されつつあります。

人々の活動から生み出されるさまざまなデータを、IoTやM2Mといったネットワークを介してデジタル化し、「情報活用」という形で企業が連携し、協創することにより、価値をさらに拡大していくことができると考えています。

価値の協創とは、それぞれ違う価値観を持つ個人、企業、インフラがつながって社会を良くしていくために連携し、コラボレーションによって新しい価値をつくり上げていくことです。それには、人々のナレッジが重要になってまいります。日立がこれまでさまざまな事業で培ってきたテクノロジーやノウハウに、皆さまが持っておられるナレッジを合わせて活用し、生き生きと暮らせる豊かな未来をつくっていきたい。それが私たち日立の夢です。Executive Foresight Online私ども情報・通信システムの事業コンセプトです。人々の夢をITで実現していくということでございますので、今後とも、日立グループをよろしくお願いします。

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