あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の登場により、人々の生活や企業活動などが大きく変わろうとしている。国・産業界を挙げた競争力強化の動きも活発になる一方、データ活用のあり方やセキュリティなど課題も多い。IoTの普及が本格化する中、私たちは何をめざし、どう取り組んでいくべきかを議論し、これからのデジタル化社会を展望する。

イノベーティブな社会を実現するIoT

関口
この20年、インターネットが、金融や商取引、コンテンツサービスなど、我々の生活を大きく変えてきましたが、3、4年ほど前から、もう一つ、IoT(Internet of Things)という新しい潮流が生まれてきました。IoTは一般に「モノのインターネット」と言われますが、モノがつながるだけではなく、さまざまなサービス、教育、医療など、インターネットの世界だけでなく、我々の実世界も大きく変えようとしています。

ドイツではIoT、ITを使って製造業を革新していこうというIndustrie 4.0が提唱され、アメリカでもGE(ゼネラル・エレクトリック)を中心に、データを活用して、産業のあり方を根本的に変えていくIndustrial Internetという動きが出てきています。日本でも村井先生が会長を務める「IoT推進コンソーシアム」が発足するなど、産官学を挙げた動きが本格化しています。

ここでは最新のIoTの技術や動向をとらえながら、それが我々の生活をどう変えていくのか、それを実現するには何をすべきなのかを伺っていきたいと思います。まずは村井先生、IoTとは何かというところからお話しいただけますでしょうか。

村井
IoTには多様な解釈があります。これまで、インターネットはコンピュータとコンピュータをつないでいましたが、これからは他のさまざまなデバイスもセンサーもインターネットにつながってきます。多様な機器がつながることは、ビッグデータの集積と表裏一体です。膨大なデータの集積により、AI(人工知能)の新しいモデルも生まれてきています。それらをひとまとめにしてInternet of Thingsと呼んでいます。このことは、things、つまり、モノというのは、人間からも学べるし、センサーからも読めるという意味があるのではないかと思っています。

私は1980年代初めにアメリカのスタンフォード大学に行きましたが、当時すでに哲学書をコンピュータに入力して哲学研究をしていたことに驚きました。コンピュータを用いることで、たとえばカントが言葉をどのように使ったかが分析できるわけです。その後もAIの世界は、自動翻訳もウェブも含め、ずっと言葉の世界が中心で、そこから言葉で検索するサーチエンジンも発展してきました。ところが近年、機械学習の進展などによりイメージ検索、画像検索が可能になり、流れが変わってきました。

さらに今後は、あらゆるものからデータが採れるIoTの登場により、たとえば自動車を運転するときの人間の動きから学ぶといったことができるようになるでしょう。このように、言語から解放されてインターネット上の情報の分析が可能になると、世界が大きく変わります。たとえば日本人なら英語コンプレックスから解放され、新しい流れが始まるのではないかと思います。日本はマニュファクチャリングのクオリティに強みがありますが、そこから出てくる数値をネットワークで集めて分析することもできます。それがIoTの時代ではないかと思います。

これを実現するための技術としては、洗練された情報通信アーキテクチャが必要ですし、インターネットやウェブの技術との連携や、標準化も重要です。さらに、農業、医療、教育などあらゆる分野を横につないで提供することが、IoT技術の使命といえます。一方で、もちろんサイバーセキュリティ、信頼性も重要です。このような広がりをもつIoTに対して、どの部分にどのように投資するのかを戦略的に考えなければいけません。現在は、そこに課題があるといえるでしょう。

関口
では、齊藤さんはIoTをどのようにご覧になっていますか。

齊藤
私はもともと制御システムのSEでしたが、アナログからデジタルに変わっていく中、機能をデジタル化し、システム全体を最適化するということをやってきました。私が考えるIoTとは、まずコネクティッドの世界、つながっていく世界ということです。そしてもうひとつは、データドリブンであるという点です。ほとんどありとあらゆる場所で、さまざまな機器がつながり、その結果として、データが入手できるようになったことは大きな変化だと思います。それと併せて、いろいろな分野の多くの人たちが、ネットワークを活用して参加できるオープンイノベーションの環境ができてきたという点も重要です。

データが「見える」ようになってきた中、テクノロジーを持った人たちが共同し、新しいやり方で、機械、装置、プラントなどを、より適切に運用・オペレーションできるようになってきました。サービス系においても、人の行動や嗜好がSNSなどのデータによって把握できるようになってきて、より省資源・省人化してサービスを提供できるようになりました。これらがみな合わさって、非常にイノベーティブな社会になってきたと感じています。

今まではモノを中心に考え、テクノロジーを開発して、モノやインフラをつくってきましたが、IoTにより、エンドユーザーとつながり、その状態をデータでとらえ、データに基づいてサービスをつくり、全体の仕掛けや仕組みを考えていく時代に入っています。弊社の執行役会長兼CEOの中西も、「プロダクトアウトからマーケットインへ」という話をしておりますし、我々のモノづくりも、従来のように単独で行うのではなく、お客さまやパートナーの皆さまとの「協創」によって新しい時代をつくっていこうとしています。IoTはそのような動きにつながると感じています。

日本の製造業はIoTにどう取り組むべきか

関口
私はIoTについて初めて耳にした頃、この分野では日本が主導権をとれるのではないかと思いました。インターネットはアメリカが発祥なので、アメリカに先陣を許すとしても、「モノのインターネット」の時代になったら、日本が主導権をとれるのでは、と。しかし、実際は動きが鈍く、アメリカのIT企業やヨーロッパの製造業のほうが先にこの世界に入っている気がします。

村井
私はかなり楽観的で、日本が乗り遅れたとは感じていません。むしろ日本人の良いところを生かせるという期待感があります。IoT、つまり、いろいろなデータの分析や理解、そして、どうやって進めていくかということに関しては、まだ、始まったばかりです。そういう意味では、日本はIoT化をしっかり進められる準備ができていると感じています。

関口
一昨年、 GEのイメルト会長にお話を伺ったとき、GEでは数年前からデータを集めて、ジェットエンジンの性能向上や、モノの長寿命化などのIndustrial Internetに取り組んでいる、自分たちはモノづくりの会社からソフトウェア、サービスの会社になるのだ、と語っていました。

齊藤
機器のデータを集めて予兆診断をするといったサービスは、弊社も含めて日本企業もすでに取り組んでいます。しかし、GEで特筆すべきは、それをサービス化・ソフト化する方向に注力していることですね。時代の流れを見て一気に舵を切りながら、次の手として顧客を抱え込む方向に移っている。マーケットがユーザーのニーズから考える方向にシフトしており、従来やってきた予兆診断などをコアなサービスにするために、サービスのプラットフォームをつくり、それをベースに事業化していこう、ということですね。モノづくりから発展したサービスというより、サービスから考えたモノづくりを進めようとしているのです。

村井
そこがまさに、IoTと従来の技術の異なる部分ですね。以前、日立のスーパーコンピュータの工場に行ったことがあるのですが、そこでは、Quality First、つまり、品質第一ということで、すごく立派な品質管理のプロセスがあり、これは、もちろん電子化されていました。このように、これまでも、品質管理のプロセスが電子化され分析されて、それに基づいて高品質の製品をつくるといったことは行われてきました。しかし今後は、あらゆる場所にあるすべてのものがつながり、そこからデータを回収できる「インターネット前提」時代になるということです。

また、今までは企業がつくったモノがどう人手に渡り、どう使われているかを知る術はありませんでした。たとえば紙の新聞の場合、どの記事が読まれ、どの記事が読み飛ばされているのかはわからない。ところが電子版になると、閲覧時間の長さから、この記事はじっくり読まれている、などがわかります。新聞社が読者の行為をデータとして集め、より読者のニーズに合った記事を提供する機会が出てきたわけです。

このように、新しい方法で、製品からのインパクトファクターをデータとして膨大に集められる可能性が出てきたとき、モノづくりはどう変わるのか。サービスの提供側と受け手の側のインタラクションが生まれ、先ほど齊藤さんもおっしゃったように、マーケットから分析することにより、供給側の論理を変えることができます。そのようなポテンシャルがIoT時代の最大の変化ではないかと思います。

関口
日本では一企業グループ内での、縦系列のデータ共有はできていると思います。しかし、ドイツがIndustrie 4.0でめざしているのは、中小企業も含め、異なる企業間をデジタルで横断的につないで製造業を強化するような取り組みです。これはおそらく、日本ではまだできていないのではないでしょうか。

齊藤
たしかに、ドイツは産業界全体でビジョンをある程度共有して、ネットワーク化と標準化を進めています。それはドイツの強みですが、どちらが進んでいる、遅れているということではなくて、アプローチの違いとも言えます。ドイツは組織的にシステム化を進めていくのが得意であるのに対して、日本は個々の現場の力を利用して、それぞれが自律分散的、つまり、それぞれの強みが出せるように自らを高めながら、和の世界でつないでいくほうが得意です。私どもは「共生自律分散」という言い方をしていますが、日本企業にはそのようなやり方が合っていると思います。共生するところは共生しながら、個々の強さを発揮できるモデルがつくれると、次の時代に向けた日本の製造業のモデルが実現できるのではないでしょうか。

官民一体で、社会を変える体制づくりを

関口
先ほどから何度か話題に出ていますが、IoT推進コンソーシアムでは、どのようなことをめざしているのか、また、何が今までと違うのでしょうか。

村井
まず、経済産業省と総務省が同じ目標を持って、進めていくのが画期的です。そもそも、IoTはすべての省庁の管轄分野に大きなインパクトを与えるものです。また、標準化を進め、共通のプラットフォームをつくり、それを日本社会全体に行きわたらせるためには、全省庁が力を合わせなければなりません。

たとえば「健康社会をめざす」と言ったときに、関係するのは厚生労働省だけではありません。健康は環境にも、農業にも関わりがあります。全省庁がこれまで担当していたそれぞれのデータを出し、それを共通のプラットフォームで利用して分析できるようにすることが第一歩なのです。

関口
ビッグデータの研究で来日したアメリカのあるコンサルタントが、「個々の省庁や企業の中にはデータはあってもそれを出してくれないので、ビッグデータにならない。日本にはビッグデータがない」と言っていました。日立ではこのビッグデータ時代、連携やデータ共有ができるようになっているのでしょうか。

齊藤
日立社内では、ITを核にデータを共通化しながらビジネスプロセスを変える方向で動いています。

ビッグデータといってもスモールデータの集まりですので、その場所その場所で、きちんとしたデータの単位がないと、まとめてビッグデータにすることが難しいのは事実です。ビッグデータがないのではなくて、それらをまとめる機能がないというだけの話だと思います。データを活用した次のサービスを考えるとき、データをどのように組み合わせると、どのような使い方ができるのかという、サイバー空間上でのデザインが要りますね。価値あるサービスを提供するためのデザインやアーキテクチャを共有することが大切で、やみくもにデータを集め、何とかなるからやってみようというのではうまくいきません。

日立の中でも、こういうサービスをやりたい、そのほうが優位性があるといったイメージを共有するようにしています。次の時代のビジョンや課題解決も含めたターゲットがあり、それに向けたデザインを共有してから、それを実現するための仕掛け・仕組みやシステムを考える。このようなアプローチにしなければ、全体がうまく動かないと考えています。

村井
ビッグデータは日本にはないというのは、納得できる面もあります。多くの場合、データは協力を求めると出てきますが、現状は、これを共通ルールのもとに社会で使っていく体制ができていないのです。したがって、IoTで社会を変える体制を行政を含めて、つくることは大きな使命だと思っています。安心してデータが使えることを前提に、データを使ってより良い社会をつくることにみんなが納得したうえで、活用していくわけですね。

私はさらに大胆に、各人の了解のもとにデータを積極的に使う仕組みがあってよいと思います。今年(2015年)の個人情報保護法改正により、一定の匿名化のプロセスがあればデータを使えるようになりました。国勢調査の匿名データ処理のノウハウなどもありますので、ガイドライン化もできるでしょう。そのような匿名化を行ったうえで、データ使用を了解してくれた人に対して、何らかのインセンティブを与える仕組みをつくる。たとえば、価格が下がる、ポイントがつくなど、個人から得たデータを用いて利益が上がった場合、できるだけ還元する仕組みをつくれば理解も進んでいくのではないでしょうか。その体制を速やかにつくることが大切です。これができると、データをサステナブルに利用できる社会が実現できると思います。

関口
IoTにはさまざまな分野がある中で、日立はどこから手を付けていこうとお考えですか。

齊藤
私どもは「社会イノベーション」と言っていますが、インフラの分野を主体に、その効率アップ、バリューアップに取り組んでいこうと考えています。鉄道や電力など、万一何か起こったときに、私たちの生活に影響をおよぼすような社会インフラを支える企業として、パートナーの皆さまと一緒にデータ活用をしていこうとしています。ITだけではなく、これまで日立が培ってきたモノづくりの技術やスキルやナレッジを導入し、現場の実際のデータを収集・分析して、安全・安心なインフラを、まずは、IoTの世界でつくるのがスタートだと考えています。

その次に、たとえばスマートグリッド、スマートコミュニティで住民参加型でインフラ全体を良くしていくために、消費者・需要家とのインタラクションの部分のサービスなど、我々が貢献できるモデルもあるのではないかと考えています。このように、インフラの分野でBtoBとBtoC、それぞれに対するサービスを提供することが、IoTの時代に私どもがやろうとしていることです。

IoT時代のチャンスと課題

関口
IoTの本来の意義は、ビッグデータの技術を使ってビジネスモデルをイノベーションするところにあると思いますが、データはあっても、なかなか使えるようになっていないというお話が先ほどありました。それには、法規制や国民の意識の問題などもあると思います。

たとえば、IoTにはドローンの活用も含まれますが、残念ながら日本では、活用より先に規制法(改正航空法)ができてしまいました。日本にとってIoTにおけるチャンスと、越えなければならないハードルはどのようなものだとお考えですか。

村井
心配だからやめるのは慎重でよい面もありますが、やはりリスクとベネフィットのバランスを考えた方がよいですね。東日本大震災のときにはビッグデータのありがたみを感じた人も多かったと思います。あのときは普段は利用できない自動車の走行履歴などを活用し、被災地の道路状況を把握し、物資の輸送に生かすことができました。この震災時の通行実績マップは、自動車データの標準化ができていたから合成できたわけで、標準化の重要性を示す良い証拠ともなりました。

そういう意味で、日本で利用が始まるきっかけや価値は、防災や災害などへの対応ですね。あるいは高齢社会を健全な社会にしていくために、健康を推進したり、独居高齢者の見守りなどをして、そこで取得されたデータを診察につなげていったりという取り組みがあるでしょう。このような大きな社会問題解決へのデータの貢献を明確にし、仕組みをつくっていく必要があります。

私がもう一つ関心を持っているのは、最近日本にも上陸した、アメリカの映像ストリーミング配信サービス会社、Netflixの例です。一人ひとりの視聴データから、人が好む主人公やストーリーを分析し、それをもとにドラマ(「ハウス・オブ・カード」)をつくったところ、エミー賞を受賞してしまった。このことが象徴するように現在、データ活用により、消費者に対するきめ細やかでリアルタイムのマーケティングが可能になっています。また、データにより、人の行動から学ぶ方法が進化すれば、伝統芸能の継承などにも生かされていくでしょう。

関口
IoTでは、Industrial Internet的アプローチも極めて重要になりますが、日本の場合はITとOT (Operation Technology)との融合、すなわち情報管理系の情報システムと、工場の生産システムの融合という課題がある。工場ごとに独自のソフトウェアをつくりあげてきていて、データ抽出が困難であったり、インターネットにつなぐことでセキュリティ面などで新たな問題が生じることも考えられていますね。

齊藤
基本的には、データドリブン型でいろいろなプロセスを変え、サービス、モノづくりを向上させていく中では、多くの方の知恵を集めることが必要になります。そうした場合、やはり重要なのはサイバーセキュリティです。デバイス、ネットワーク、センターのすべてにおいてセキュリティが確保されていないと、インフラの制御システムに不具合が生じるような事態が起こりかねません。インフラの制御システムでは、制御セキュリティが非常に重要なのです。

また、 OTの世界、製造現場のデータには、製造プロセスのノウハウなども含まれています。機能を守るだけでなくデータを守ることもできなければ、OT×ITを縦横無尽に駆使して、生産計画から調達、製造までグローバルに自由自在に行っていくことはできません。

関口
現場で働く方たちの意識はどうでしょうか。データ活用、デジタル化を進めていくときに、現場のモチベーションをどう上げていけばよいでしょうか。

齊藤
そこには、「グローバル競争の中で勝つため」という、もうひとつ上位の概念が必要だと考えています。単に、IT化を進めたいから今までのやり方を変えなさい、というだけでは進みません。こうするほうがコストも下がるし、やり方も楽になるし、データを守るときも全体で守る方が効率的だ、といったことがきちんと理解されると、現場の発想は変わってきます。また、口で言うだけでなく、具体的なデザインを示し、プロトタイプをつくりながら進めるなど、工夫する必要があります。デジタル社会になって、IoTを見ていると、あらゆる企業がサービス化に向かっています。皆の意識が「今のままではまずい」というほうに変わってきているので、実現できる仕掛け・仕組みをつくるのが次のステップだと考えています。

関口
あえて意地悪な質問をさせていただきたいのですが、ビッグデータは儲かるのでしょうか。モノをつくって売るビジネスモデルはわかりやすいのですが、ビッグデータを利用してサービス化したときに、本当に利益は上がるのでしょうか。

齊藤
サービスで利益が出るのかというのは、我々がお客さまに対する価値をどの程度提供して、それに対する対価を払っていただけるかということです。ですから、利益を増やすうえで重要なのは、我々がお客さまに提供できる価値を上げていくことです。そしてもうひとつ、実はこれからの時代はモノを売るだけの企業では、お客さまの評価が得られず、シェアが下がっていくだろうという危機感があります。サービスが付随していない会社では、もうモノも売れなくなるだろうと考えているのです。サービスで儲かる、儲からない以前に、モノ自体が売れなくなってしまう、という危機感があります。

村井
利益が出るとはリターンが投資を上回るということですが、ビッグデータ時代になってデータ取得コストが下がり、分析コストも下がっています。現場に行って測定して集めなければいけなかったようなデータが、すべてインターネットを通じて低コストで集められるようになっています。そういう意味では、儲からないとおかしいでしょう。

セキュリティ技術・人材育成への取り組みが急務

関口
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本の存在や競争力を対外的に示すショーケースにもなります。日本でも今年(2015年)サイバーセキュリティ基本法が施行され、個人情報保護法も改正されて、ビッグデータ活用の方向に少し舵を切りましたし、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」も立ち上がるなど、日本の戦略がここに来て一度に動き出しています。村井先生は2000年のe-Japan以降、日本のIT戦略のグランドデザインを描いてこられましたが、そのような観点から、今後どのようなことをしていくべきだとお考えでしょうか。

村井
技術・制度の両方においてまだ課題はあります。ひとつはセキュリティです。ここには技術として守るということと、社会制度の中で意識して守っていくことの両方があり、制度的な整備はされてきていますが、まだまだです。技術的には、インターネットのセキュリティはかなり進んでいますが、問題はその進み方です。

これまでになかったIoTから新しいサービスができたとき、どのようなリスクが出てくるのか予想できません。これに対処するには、テクノロジーの進歩と一緒に、セキュリティのテクノロジーを進歩させる必要があり、そこをカバーするための体制をつくり、人材を育成しておかなければなりません。たとえば、まもなくマイナンバー制度が始まり、1,700以上の地方自治体に対する監査が必要になりますが、それだけの人材や技術はそろっているのか、という課題です。今後、このようなスケール感でのセキュリティ技術への取り組みが必須となります。

もう一点、IoT時代にはデータのトラフィックが大きく変わります。映像が4K、8K と高画質になるのに伴いトラフィックも増大しますが、その一方、農地の耕運機などのセンサーから集められたデータは、サイズは小さいけれどカバー範囲はとても広い、つまり広く薄くとなります。また、厳重な取り扱いが必要なデータがあったり、アクセス権をきちんとコントロールしなければならないプラットフォームも必要となります。

我々インターネットをつくってきた側の立場から言うと、これらをクリアするには情報通信基盤をつねに見直しながら、最先端のものにしていく必要があります。しかしIoTではその点の議論が行われていません。これはかなりのリスクであり、洗練された情報通信基盤の構築は、技術的になすべき最重要ポイントです。

齊藤
まさに同感です。現実の社会に警察や消防があるのと同じように、サイバーセキュリティについては、不正なアタックを見つけたら対処する、被害の拡大を食い止めるというミッションを持つ体制をきちんとつくる必要があると感じています。トラフィックの増大についてもその通りで、全体のアーキテクチャ設計やトラフィックマネジメントに取り組んでいきたいと思います。

デジタル社会では、データの活用について、多種多様なニーズが出てくるでしょう。そこに対しては、サーバ系、ネットワーク系、デバイス系、すべて含めて技術開発していく必要があります。それともうひとつ重要なのは、データハンドリング、データマネジメントです。アナリティクスツールもありますが、今後、データ量はどんどん増えていきますから、大量のデータをきちんと扱えるデータマネジメント、これにはデータベースも含みますが、これをきちんとつくらないといけない。そうでないと性能も出ず、投資回収も難しくなる。そうなると結局、実現されなくなってしまいます。ですから、デジタル社会において、どういう社会をつくりたいか、そのためにサイバー空間上で何が必要かということをトータルにイメージしながらデータを扱っていく技術開発を進めていかなければいけないと考えています。

関口
人材の問題は大きいですね。日本ではソフト人材とベンチャー人材、グローバル人材が不足していると思います。特にサイバーの世界では、セキュリティ人材が8万人不足しているともいわれていますし、データアナリティクス人材も中国、インドに比べて大きく不足しています。人材育成についてはどうお考えでしょうか。

村井
私が考えているのは、大学や社会人大学院が企業と組んで、セキュリティやイノベーションに関する学位をつくるべきだということです。企業エキスパートが社会人大学院に行って専門的な勉強をするプロセスはつくれると思います。産官学が連携して計画的に人材を育てていくモデルは提案できるでしょう。

齊藤
我々もインフラ系に IT人材を投入したいのですが、2018~19年頃まではシステムインテグレーション(SI)案件が多く、なかなか難しい状況があります。しかし、その一方で、ビッグデータの利活用やサイバーセキュリティについては人材を強化していかなければいけません。そのため、村井先生がおっしゃるように、大学院の専門コースなどに企業の人材を受け入れて教育してもらい、また、新卒の学生も採用していかないと、2020年には間に合わないと考えています。

新しい社会・価値を生み出すためには

関口
最後に、お二人からメッセージをお願いいたします。

村井
IoTにより、さまざまな情報を低コストで人や環境から学ぶことができ、それをサービスやモノづくりに生かせるようになりました。たとえば義手や義足をつくるときに、その人に最適な形状のものを一個だけつくることができます。今までのテクノロジーではできなかったきめ細かいものづくりやサービスを安価にできるようになったことも、IoTがもたらす大きなメリットです。そして今後は、個人の才能や創造性をより生かせる社会ができるのではないかと思っています。

齊藤
日立はモノづくりに加え、鉄道、電力などのシステムをつくってきました。デジタル社会はモノではなくて「コト」の世界であり、ビジネスのうえでもサービスが重要になります。日立はその中で、これまで以上にサービスの観点を重視し、引き続き、社会の重要インフラを担っていきたいと考えています。

私は今の日本を2020年に向けて、まず変える。そして、そのあとのデジタル社会をつくり出していきたいと考えており、日本の社会全体がサービス面でも世界に冠たる国になっていくように、会場の皆さま方や私どものお客さまと連携して、サービスまで含めて次の社会のインフラをつくりあげ、グローバルにも展開していきたいと思います。ぜひ一緒にオープンイノベーションでやっていきましょう。

関口
IoTはまだ始まったばかりなので、今しっかり取り組めば、日本もこの新しいデジタル社会で競争力、存在感、発信力を高めていけると、本日の議論から感じました。IoTの技術を使ってバリューをいかにつくりだしていくか。これが2020年に向けて日本に問われていることでしょう。

画像: 新しい社会・価値を生み出すためには

(モデレータ:日本経済新聞社 編集委員 関口 和一氏)

画像: 慶應義塾大学 環境情報学部長・教授 村井 純氏

慶應義塾大学
環境情報学部長・教授
村井 純氏

画像: 株式会社 日立製作所 執行役副社長 情報・通信システムグループ長 兼 情報・通信システム社社長 齊藤 裕

株式会社 日立製作所
執行役副社長
情報・通信システムグループ長 兼 情報・通信システム社社長
齊藤 裕

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