2012年に五所川原農林高校を中心とした6次産業化推進協議会を立ち上げ、本格的に農業の6次産業化に乗り出した佐藤氏。最終回では、農業へのITの活用や、高校生が手がけた商品開発などの具体的な活動の内容と、地域の雇用問題への取り組み、さらに、国際競争を踏まえた日本農業のあり方について話を聞いた。

画像: プロフィール 佐藤晋也 (さとうしんや) 青森県立五所川原農林高等学校校長。1954年、五所川原市生まれ。五所川原高校から東京農業大学農学部に進み、果樹の栽培技術を学ぶ。卒業後は青森県内の養護学校の教員を7年間務め、1984年から五所川原農林高校の教諭に。1993年から、弘前大学大学院教育学研究科修士課程学校教育専攻にて高等学校農業教育を研究。1995年に教育の現場に戻り、柏木農業高等学校を経て2010年より現職。2012年、五所川原6次産業化推進協議会を設立し、会長に就任。

プロフィール
佐藤晋也 (さとうしんや)
青森県立五所川原農林高等学校校長。1954年、五所川原市生まれ。五所川原高校から東京農業大学農学部に進み、果樹の栽培技術を学ぶ。卒業後は青森県内の養護学校の教員を7年間務め、1984年から五所川原農林高校の教諭に。1993年から、弘前大学大学院教育学研究科修士課程学校教育専攻にて高等学校農業教育を研究。1995年に教育の現場に戻り、柏木農業高等学校を経て2010年より現職。2012年、五所川原6次産業化推進協議会を設立し、会長に就任。

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ITで生産者と消費者をつなげる

五所川原6次産業化推進協議会の構成員は、地元の農業生産者や加工・販売業者、五所川原市や青森県などの行政、地元の弘前大学をはじめとする教育機関、売り場を提供している津軽鉄道株式会社などだ。そのほか、ITで6次産業化を支えるメンバーとして、株式会社日立製作所も名を連ねている。農業にもっとITを採り入れたいという思いは、かねてから佐藤氏にあった。

「それまでは、インターネットを使って商品を販売するぐらいでした。一方で、販売実習以外にも高校生と大人が交流する場面をつくりたいという考えもありました。そこで、日立さんが持っているITの力を借り、生産者でもある生徒と地元の消費者の皆さんとが情報交換できる"マイファームセンター"というしくみをつくったんです」。

画像: Webサイト"五農高 アグリコミュニティ"トップページ gonou.gnu.saas.secureonline.jp

Webサイト"五農高 アグリコミュニティ"トップページ

gonou.gnu.saas.secureonline.jp

五所川原農林高校には、水田やリンゴ畑などの農場が広がる。その各箇所にWebカメラと気象センサー、通信機器を取り付け、日射量や温度、湿度などのデータをクラウドに蓄積。このデータは、専用Webサイト"五農高 アグリコミュニティ"に、生徒のコメントや農場の画像などとともに日々掲載される。マイファームセンターの会員になった消費者は、サイトにコメントを投稿することで、生徒と栽培に関するやりとりができる。つまり、SNSとしても機能するのが特長だ。データの通信・蓄積には日立製作所の技術が用いられ、Webの設計はグループ会社である株式会社日立ソリューションズが担当した。

「栽培技術の履歴をデータとして残すことは、学校だけでなく地域にとっても貴重な財産になります。Webサイトの制作については、生徒の要望を設計に反映していただくという形で進めました。生徒がプロの技術者の皆さんと同じ目線で議論しあうことで、見やすさや使いやすさにこだわったサイトができあがったと思います。この体験は、生徒にとってかなり刺激になったようです。プロとのやり取りを通じて、ITが使われるリアルな現場を知ったことで、常に明確な目的を意識して行動するようになったのでしょう。普段の授業でも、教員に対して具体的な説明を求めるようになりました」。

画像: 生徒による栽培日誌を掲載したページ

生徒による栽培日誌を掲載したページ

画像: 水田の定点観測画像を掲載したページ

水田の定点観測画像を掲載したページ

地元のメーカーが日の目を見る

6次産業化の取り組みのもうひとつの柱は、地元の農産物を生かした商品開発だ。

「隣の鶴田町でスチューベンという品種のブドウをつくっているんですが、そこの町長から"食用以外の使い道はないだろうか"と相談を受けました。そこで、本校の食品科学科の生徒が中心になって、商品化のアイデアを出すことになったんです」。

スチューベンは、メロンをしのぐとも言われるほどの甘さが最大の特徴だ。その糖度は、約20度。当初はスポーツドリンクをつくってほしいというオーダーだったが、ジュースを試作してみたところ味が甘すぎたため、方向転換を余儀なくされた。

「もっと飲みやすくするために、発酵して酢にしてはどうかというアイデアが出ました。そこで、担当の教員が生徒たちを連れて、リンゴ酢をつくっている地元の醸造メーカーへ頼みに行ったんです。そうしたら、なかなか帰ってこない(笑) メーカーの社長が、実は以前からスチューベンを扱ってみたかったそうで、すっかり乗り気になってしまったんですね。それまでは、他の品種に比べて発酵に手間がかかるのと、果汁が高価で採算がとれないことがネックになって、実現できなかったそうなんです」。

画像: 地元特産のブドウを商品化した"酢チューベンドリンク酢" 画像提供:五所川原6次産業化推進協議会

地元特産のブドウを商品化した"酢チューベンドリンク酢"
画像提供:五所川原6次産業化推進協議会

スチューベンからの酢の醸造には、前例が無かった。しかし、半年間におよぶ開発の末、スチューベンからつくった酢をジュースで割ることで飲みやすくした新商品"酢チューベンドリンク酢"が誕生した。醸造のノウハウを持っていながら、なかなか商品化のチャンスに巡り合えなかった地元企業。行政と農業高校の働きかけによってスポットが当たり、地元特産のスチューベンに新たな価値が生まれた。

五農生が、商品開発

生徒の6次産業化活動の現場を預かる三上教諭は、スチューベンの商品開発に携わった生徒の変化をこう振り返る。

「商品のネーミングとパッケージデザインも含めて、アイデア出しの段階から生徒は面白がって取り組んでいました。いつの間にか、自発的に企業に足を運び、先方の研究者と一緒に実験を行うようになって、生徒のほうからわたしにアイデアを持ってくるようになったんです。そうなると、わたしたち教員も真剣に向き合わざるを得なくなりますね」。

画像: インタビューに答える三上教諭

インタビューに答える三上教諭

このほか、生徒たちは、五農でつくった味噌をつかったドーナツ"みそド"の商品化にも成功。地元の菓子メーカーにアイデアを持ち込み、駅での販売にこぎつけた。三上教諭は、こうした企業とのやり取り以外にも、生徒を公的な場に参加させることで、成長の機会を与えている。

「メディアへの記者発表などの場に、生徒も同席させています。そうすると、地域が五農をどう見ているのか、彼らなりにわかってくるんですね。大人が出る会議にも出席させて、わたしから話を振ってみることもあります。もちろん最初から上手く受け答えできるわけではありませんが、どうすれば相手に自分たちの活動内容が伝わるのかを考えるようになる。そうやって説明能力を磨くことで、地域の人たちと交流できるようになるんです」。

6次産業化をリードする

五農を中心とした6次産業化の取り組みは、商品開発にとどまらない。佐藤氏は語る。

「小学生を対象に、本校の生徒が先生役となって農業の理解を深めるための体験学習を行ったり、五農で飼育したカブトムシをプレゼントしたりしています。目的は、地域の農業を支える次の世代の人間を育てていくことです。子どもたちを"農"に近づけるには、こうした小さい頃からの意識づけが必要なんです。そのため、高校生だけではなく、異なる年齢層どうしでの交流の機会があるのも、わたしたちの活動の特長です」。

そのほか、地元産の品種のブランド化も大きな目玉だ。佐藤氏が農業を志すきっかけとなった、果肉まで赤いリンゴ"御所川原"。現在、この後継となる新品種の開発を生徒が行っている。技術的な取り組みだけでなく、商標制度をはじめとする知的財産に関する知識も習得させることで、実際に就農してからの販売にも役立たせようとするのが佐藤氏のねらいだ。

画像: 果肉まで赤いリンゴ"御所川原" 画像提供:五所川原6次産業化推進協議会

果肉まで赤いリンゴ"御所川原"
画像提供:五所川原6次産業化推進協議会

こうした活動が、国の目にも留まる。今年1月、五所川原6次産業化推進協議会は、経済産業省と文部科学省が実施する「キャリア教育推進連携表彰」において奨励賞を受賞した。これは、学校が地域・社会や企業などと連携・協働して、生徒のキャリア発達を促す教育に取り組んでいる先進事例を表彰するもの。キャリア発達とは、社会のなかで自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程を意味する*。発足から2年足らずと日は浅いながら、6次産業化を実現した先駆的な取り組みや、高校生が商品開発を手がけるという斬新さ、小学生から高校生まで幅広い年齢層を対象している点などが、高い評価を得たのだ。

*平成23年1月の中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」による。

地域の雇用を生み出したい

今年6月、佐藤氏は、現在進めている6次産業化推進協議会の活動の発展形として、生産者と加工業者、流通業者が共同で取り組む新たな制度を始めた。それが"スペシャルG 生産加工クラブ"だ。

「スペシャルG 生産加工クラブとは、五所川原の農産物をブランド化し、その販路を確保することで、生産者の利益を向上する組織です。クラブが、農家自身で決めた値段で農産物を買い取り、スペシャルGという商標として、ダイレクトマーケティングによって販売します。また、厳しい品質基準"Gギャップ"を設定し、それをクリアした商品でなければ、農家からは買い取らない。高い品質を維持することでブランドを強化しなければ、リピーターを獲得できないからです。リンゴやコメだけでなく、ゆくゆくは花やシジミなどもブランド化していきたいですね」。

この"スペシャルG" を活用して、地域の重大な問題の解決にも貢献したいと佐藤氏は言う。

「以前は60,000人を超えていた五所川原市の人口が、この10年間でおよそ4,000人も減ってしまったんです。そのほとんどが、都会など他の地域への流出です。理由は、雇用の機会が限られているから。スペシャルGによって雇用を生み出すことで、なんとかそれを防ぎたいと考えています」。

スペシャルGと雇用創出。それらをつなぐカリキュラムを、五農につくる構想が佐藤氏にはある。

「スペシャルGに、コールセンターを設置するんです。まずは高校生のうちから、消費者とのやり取りを積ませることで、実践の場でのコミュニケーション能力を育てる。一種のジョブトレーニングですね。そのなかから、やがて地元に定着する卒業生が出てくる。このように、卒業後も地元に住んで働くことを考慮したカリキュラムを生徒たちに提供し、地域での雇用の循環をつくっていきたいと考えています。5年間で200人~300人の雇用を生むのが目標です」。

農業を教育だけに終わらせない、学校の枠を超えたイノベーション。こういった活動を積み重ねることで、地域の人々が問題解決の意識を共有するようになると佐藤氏は信じている。

ブランド力で世界に挑む

国内各地において農業従事者の高齢化や後継者不足が問題とされてきた一方で、日本の農業がグローバル化の波にさらされている。佐藤氏は、この状況をあくまで現実的にとらえている。

画像: ブランド力で世界に挑む

「国際競争は避けられません。そこで重要になるのが、商品の差別化です。ブランドの特徴を、生産者がしっかりと語れるかどうか。品質をどう担保していくか。その明確なルールづくりが必要になってきます。ブランドと言っても、もう名前だけで勝負できる時代ではないんですね。今、日本の農業に求められているのは、規模の拡大ではなく、農産物の機能性や安全性です。そして、さらに地域性を織り込むこと。わたしは、青森リンゴを世界農業遺産にしようという活動にも参加しています。青森と言えばリンゴというイメージを、世界の人に植え付ける。それがブランドの役割だと思います」。

生まれ育った五所川原のために高等学校農業教育のあり方を探り、全国に先駆けて農業の6次産業化に取り組む佐藤氏。そこには、教育者の枠にはまることなく、一人のリーダーとしての努力を惜しまない姿勢がある。

「今、社会が何を求めているか。それを肌で感じ取る能力は、学校経営者にも必要な資質だと思います。そのために、わたしがいつも心がけているのは、教員の範疇を超えた仕事をやること。常に新しいことを考え、頭の中に引き出しを増やしていくことが大切だからです。そして、実際に何かを起こすときに必要なのは、思い、勢い、そして覚悟。それだけですね」。


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