Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
2023年12月15日、『サステナブルな地域創生とDX』をシリーズテーマに日立製作所主催の2回目のイベントが開催された。今回のゲストは、紙管を使った建築や災害支援活動などで世界的に活躍されている建築家 坂 茂(ばん しげる)氏。イベント採録の第1回目は、これまでに手がけた建築を通して、坂氏が作り出す作品への思いや背景を解説していただいた講演の模様(前篇)をお届けする。

「第1回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(前篇)」
「第2回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(後篇)」はこちら>
「第3回:「動都」の持つ可能性」はこちら>
「第4回:地域創生の実際(前篇)」はこちら>
「第5回:地域創生の実際(後篇)」はこちら>

特権階級の建築への疑問

今日前半は僕が普段作っている建築作品の話、後半は世界中で行っている災害支援の話をしたいと思います。僕は建築をはじめて少しだけ周りが見えるようになってきた時に、「我々建築家はあまり社会の役に立っていない」と感じました。歴史的に見てもそうですが、建築家が誰のために仕事をしているかというと、それは特権階級を相手に仕事をしていることが多い。政治力を持った人や財力のある人が、彼らの力を示すモニュメントを建築家に依頼する。僕はモニュメントが嫌なわけではありませんが、もう少し一般社会に向きあう建築があってもいいのではないかと思いました。

例えば大きな災害があると、崩壊した建物を復興するために多くの建築家に仕事が依頼されます。しかし復興の前段階では、住民の方々が避難所や仮設住宅で大変な苦労をされます。僕は、そういった住環境を改善することも建築家の仕事だと思っていて、被災地支援のボランティアの仕事をはじめました。では、スライドで作品を見ていきましょう。

画像: アルヴァ・アアルト展会場(1986)

アルヴァ・アアルト展会場(1986)

最初は、展覧会の企画と会場設計をしていました。これは1986年の最初にやらせていただいた、僕が大好きなフィンランドの建築家アルヴァ・アアルト(※)の展覧会です。彼はふんだんに木を使うのですが、1カ月余りの展覧会で木を使う予算はないし、何よりもったいない。当時の僕の事務所には、ロールだったファクス用紙の芯やトレーシングペーパーの芯である“紙管”が捨てずにとってありました。この素材なら安くてどんな大きさにも対応できることに気づきまして、アアルトの設計した図書館の波をイメージした天井や、壁の間仕切りを紙管で作りました。まだバブルの絶頂期で、エコロジーやリサイクルといった概念が世の中で語られる以前のことです。

※ アルヴァ・アアルト:本名フーゴ・アルヴァ・ヘンリク・アールト 1989年~1976年 フィンランドが生んだ20世紀を代表する世界的な建築家、都市計画家、デザイナー。その活動は建築から家具、ガラス食器などの日用品のデザイン、絵画まで多岐に渡る。

紙管の可能性と実用性

画像: 「紙の家」(1995)

「紙の家」(1995)

紙管を建築資材として使うためには大臣認定が必要です。ただしそんな仕事を依頼する人はいませんから、自分の週末の家を紙管で設計しました。1年ぐらいかけて実験して何とか大臣認定を取り、世界初の紙を構造体としたパーマネントな建築を完成させました。

画像: ハノーバー国際博覧会 日本館(2000)

ハノーバー国際博覧会 日本館(2000)

2000年にドイツで行われた「ハノーバー国際博覧会」では環境問題が注目され、日本館の建築家として世界で唯一リサイクル材で建築を作っている僕に声がかかりました。紙管は全部ドイツの地元企業に提供してもらい、万博終了時にはすべてその企業が引き取ってリサイクルするところまでを契約に盛り込みました。基礎は木で作った箱に砂を詰めたものを使い、屋根も紙を不燃化・防水化に加工し、ジョイントは布テープを使用しています。

コンテナの美術館、シャッターを生かしたショールーム

画像: 「ノマディック美術館」ニューヨーク(2005)

「ノマディック美術館」ニューヨーク(2005)

この建物はカナダ人のグレゴリー・コルベール(※)というアーティストから依頼された彼の作品を展示する美術館で、街から街、国から国へと移動する建築です。構造材として中古のコンテナを使いました。なぜコンテナを使ったかというと、コンテナは規格が全世界共通ですから、世界のどこに行っても調達できる。世界各地で、毎回地元のコンテナヤードから必要な数のコンテナを会期中だけ借りました。建物の中はこのように、長さ10mの紙管で柱を作って屋根を支えています。

※ グレゴリー・コルベール:1960~ グレゴリー・コルベールは、カナダ・トロント出身の映像作家・写真家。ノマディック美術館の写真・映像作品展「Ashes and Snow」のアーティストとして知られている。

画像: 「ニコラス・G・ハイエックセンター」外観(2007)

「ニコラス・G・ハイエックセンター」外観(2007)

これはスウォッチグループの拠点「ニコラス・G・ハイエックセンター」です。銀座の目抜き通りにありますが、気候の良い時には冷暖房なしで過ごせるよう、シャッターを開けることによって上層のアトリウムまで自然換気できる気持ちのいい空間を作りました。

画像: 「ニコラス・G・ハイエックセンター」店内(2007)

「ニコラス・G・ハイエックセンター」店内(2007)

シャッターを開けることで建物の中に誰でも入れるパッセージを作り、そこから専用の油圧式エレベーターで7つのブランドのショールームにお客さまをお連れすることができます。

世界の作品たち

画像: 「ポンピドゥー・センター」仮設事務所(2003)

「ポンピドゥー・センター」仮設事務所(2003)

パリにある総合文化施設「ポンピドゥー・センター」が、2003年にメス市に第2のポンピドゥー・センターを作るということでコンペが行われました。僕は運よく勝つことができ、パリにオフィスを作ろうと思いました。しかしパリは家賃が高すぎるので、ポンピドゥー・センターの館長に「ここの屋根かテラスでいいから貸してもらえないか」とお願いしました。幸いなことに許可が出まして、日本とフランスの学生に協力してもらい、3カ月間で紙管と木のジョイントを使った35mの仮設事務所を作りました。

画像: 「ポンピドゥー・センター・メス」(2010)

「ポンピドゥー・センター・メス」(2010)

これが完成した「ポンピドゥー・センター・メス」です。幅15m×長さ90mのギャラリーチューブと呼んでいる展示場が3本、45度ずつシフトして重なっています。各ギャラリーの両端はピクチャーウィンドウになっていて、きれいな景色を絵のように効果的に切り取っています。

画像: 「ラ・セーヌ・ミュージカル」(2017)

「ラ・セーヌ・ミュージカル」(2017)

これは「ラ・セーヌ・ミュージカル」という音楽複合施設で、パリのセーヌ川の中州にあります。この木造の卵型の建物は、1,150人収容のクラシック音楽専用ホールです。その一部を覆っている帆のようなもの、これは太陽光発電のパネルで、太陽を追尾して少しずつ動いて常に太陽に直面して発電し、背後に日陰をつくることで冷房の効果を高める。見る時間によって建物の形が変わるというシンボリックな建築です。

画像: 「静岡県富士山世界遺産センター」(2017)

「静岡県富士山世界遺産センター」(2017)

富士山がユネスコの世界遺産に登録された時、地元の静岡県による博物館のコンペがあり、それに通った作品です。僕は中学・高校とラグビーをやっていまして、山中湖畔の合宿所から見た湖に映る逆富士が僕にとっての富士山のイメージでした。その形を富士ヒノキで作り、ここは富士山からの地下水がたくさん出る場所なのでそれを建物の冷暖房に使い、その水を前面の水盤に流して建物を反射させることで富士山のフォルムを映し出します。

画像: 「オメガ・スウォッチ本社(スウォッチ本社/Cité du Temps(シテ・ドゥ・タン)/オメガファクトリー)」(2019)

「オメガ・スウォッチ本社(スウォッチ本社/Cité du Temps(シテ・ドゥ・タン)/オメガファクトリー)」(2019)

画像: 公道をまたいで連結するスウォッチ本社とCité du Temps(シテ・ドゥ・タン)/オメガファクトリー(2019)

公道をまたいで連結するスウォッチ本社とCité du Temps(シテ・ドゥ・タン)/オメガファクトリー(2019)

これはスイスのオメガ・スウォッチ本社ビルです。スウォッチはご存じのようにカラフルでプレイフルなデザイン、オメガは非常にリジットです。スウォッチの方は敷地のL字型を生かして有機的な形にし、屋根はすべて木造で太陽光発電や換気を良くする空気膜などを採用しています。この木造の屋根が、公道をまたいで隣に建つCité du Temps(シテ・ドゥ・タン)/オメガファクトリーにつながっています。

画像: 「SIMOSE」全体(2023)

「SIMOSE」全体(2023)

画像: 「SIMOSE」施設(2023)

「SIMOSE」施設(2023)

これが最新のプロジェクトで、広島県大竹市にありますアートオーベルジュ「SIMOSE」、美術館とヴィラとレストランが楽しめる施設です。ここから広島湾の島々が見えるので、そのイメージで敷地の中に水盤を作り、小さな島のような可動式ギャラリーを浮かべました。美術館の企画内容によって配置が変わりますので、お客さまは来るたびに新しい体験ができる「動く建築」です。

かなり駆け足でしたが、ここまでが僕のこれまでの作品の紹介です。ここからは、災害支援活動の話になります。(第2回へつづく

「第2回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(後篇)」はこちら>

画像: サステナブルな地域創生とDX
【第1回】作品づくりと社会貢献の両立をめざして(前篇)

坂 茂(ばん しげる)

1957年東京都生まれ。クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)で建築を学び、東京、パリ、ニューヨークに事務所を構える。紙管を使った建築や、木材を使った革新的な構造で知られている。代表作はポンピドー・センター‐メス(2010年)、紙の大聖堂(2013年)、大分県立美術館(2014年)、ラ・セーヌ・ミュジカル(2017年)、富士山世界遺産センター(2017年)、SIMOSE(2023年)。1995年、NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」を設立し、世界各地での災害支援に数多く貢献したことからプリツカー建築賞(2014年)、マザー・テレサ社会正義賞(2017年)、アストゥリアス皇太子賞平和部門(2022年)を受賞。現在芝浦工業大学特別招聘教授。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.