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元野球日本代表「侍ジャパン」監督 栗山 英樹氏
2023年7月21日、『サステナブルな地域創生とDX』をテーマに日立製作所主催のイベントが開催された。ゲストは、2023 「World Baseball Classic™」において「侍ジャパン」を優勝に導いた元日本代表監督の栗山 英樹氏。Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光が進行を務める講演の第1回は、WBCでの優勝やこれからについて、そして栗山氏の現在の自宅がある北海道夕張郡栗山町との出合いや暮らしをご紹介いただき、サステナブルな地域創生について掘り下げる。

「第1回:夢をかなえるフィールド」
「第2回:すべての基本は人作り」はこちら>
「第3回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その1」はこちら>
「第4回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2」はこちら>
「第5回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その3」はこちら>

WBCを終えて

加治
司会進行を務めますLumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光と申します。このイベントは、お客さまやパートナーさまと日立グループが持つ多様な知見を、素早くかつ継続的に掛け合わせて協創する場「Lumada Innovation Hub Tokyo」からお送りします。それでは、本日のゲストにご入場していただきたいと思います。今年のWBCで「侍ジャパン」を優勝へと導いた元日本代表監督、栗山英樹さんです。拍手でお迎えください。

栗山
みなさん、こんにちは。よろしくお願いします。

画像: WBCを終えて

加治
栗山さんに関してご紹介の必要はないと思いますので、早速進めてまいります。まず、なんといっても日本中が熱狂し、感動したWBCのことについてお話を伺います。WBCを終えた今、あの時の感想と、この先どのようなことを考えておられるのかを聞かせていただけますか。

栗山
おかげさまで、僕はあまり何もしていなかったのですが、選手たちのがんばりでWBCという舞台を勝ち切ることができました。たくさんの応援、本当にありがとうございました。大会がはじまる時、あれだけの一流選手たちが集まって一緒に戦うということがどういう感じなのか想像が付かないというか、僕もはじめてなので正直よくわからなかったです。しかし最終的には選手たちが、自分のことを捨ててチームのため、日本のために本当に全力を尽くしてくれました。その姿は僕も一緒にいて心から感動しましたし、その感動は同じように多くの人に伝わるということを感じながら戦っていました。

今は野球への感謝を含めてやらなければならないこと、そして自分のやりたいことの2つがあるのですが、具体的には何も決めていなくて非常にモヤっとしています。いつもそうなのですが、何かが決まる時には自分の中でストンと落ちる瞬間が来るので、それを待っている感じです。

『フィールド・オブ・ドリームス』がくれた新しい夢

加治
皆さんは栗山さんがWBCの監督ということは良くご存じだと思いますが、2002年から北海道夕張郡栗山町に移住されていることは知らない方が多いのではないでしょうか。今日はテーマが「サステナブルな地域創生とDX」ということで、持続可能な地域創生について栗山さんと栗山町をモデルに探っていきたいと思います。そもそも、この栗山町に移住されるようになったきっかけは何だったのでしょう。

栗山
『フィールド・オブ・ドリームス』(※)という映画があります。1990年に僕が引退を決める要因になった映画なのですが、現役を退いて取材者として野球と関わっている時に、この映画のモデルになったアメリカのアイオワ州の球場を訪れる機会がありました。そこではアメリカや日本、台湾などいろんな国や地域の子どもたちが遊んでいて、僕はそれをぼんやり見ていました。すると子どもたちは急に2つに分かれて、野球の試合をはじめたのです。
※『フィールド・オブ・ドリームス』:トウモロコシ畑で不思議な声を聞いた一人の農夫は、畑の真ん中に野球場を作り始める。K・コスナーの主演で大ヒットした名作ヒューマンファンタジー。

その時、何かすごく感じるものがあったのです。子どもは環境さえしっかりと用意してあげれば、言葉や国籍や年齢など関係なくみんな人として正しい方向に進む、ということがスッと理解できた。それからは、日本にそういう場所を作ることが僕の夢になりました。

仕事で日本の地方に行くたびに、土地を探しました。しかし僕の自己資金は限られていて、もう全然足りなくて、やっぱり無理なのかなと思っている時に、たまたま栗山町の青年会議所の青年が栗山という名字の人を集めたイベントを企画し、その相談で僕の事務所を訪ねてきたのです。その人に、「ところであなたの町に野球場は作れませんか」という話をもちかけたことが栗山町との出合いです。

加治
今のお話だけでもすごくわくわくしますが、そこからどんなふうにその町の方たちと人間関係を作っていかれたのですか。

栗山
実際に僕も見に行ってみると、栗山町はコンサドーレ札幌の練習場がある町で、若い人たちにすごく行動力があって、僕も30代でしたから夢をこんこんと語るとみんな真剣に聞いてくれました。しかも町を歩くと、栗山町役場とか栗山警察署とか栗山駅とか、もう自分の名前があちこちにあって、「これこそおれの町だ、ここしかない」と直感しました。

町の人たちとは、戦略とか計画なんてまったくなしで、もう裸のまんま僕の思いを話すだけだったのですが、なにかひとつ思いを語ると「ここならできるかもしれない」とか「これなら僕が手伝えます」とすぐに行動してくれました。そんな腹を割った付き合いの中で、少しずつ人間関係が広がっていった感じです。

加治
ありがとうございます。では実際にスライドで「栗の樹ファーム」を紹介していただきましょう。

画像1: 『フィールド・オブ・ドリームス』がくれた新しい夢
画像2: 『フィールド・オブ・ドリームス』がくれた新しい夢

栗山
誰もが遊べる天然芝の野球場、これが「栗の樹ファーム」です。いろいろな大会が自主的に開催されていて、時々僕も一緒に遊んだりしています。作った頃は、僕も若かったですね。

画像3: 『フィールド・オブ・ドリームス』がくれた新しい夢

栗山
このログハウスは、イチロー選手や松井秀喜選手たちから送ってもらったバットやユニフォームが展示してあります。博物館とは違って、実際に手で触って振ることもできるオープンな場所です。バットやグローブも用意されていて、いつ誰と来ても野球で遊べるようになっています。

画像4: 『フィールド・オブ・ドリームス』がくれた新しい夢

栗山
このベンチ、見た方ならわかると思いますが、まるで『フィールド・オブ・ドリームス』みたいですよね。映画の中でも重要なシーンでベンチが使われていて、僕は町の人たちとお酒を飲んだ時にそんな話をよくしていました。そしてある朝起きたら、そこにこれがあったんです。しっかりと土台に据え付けてあって、安全性も考えられている本格的なベンチです。でも、誰が作って置いて行ったのかはわからないのです。私が作ったとか、おれが手伝ったとか、誰も名乗らない。だから僕も、あえて誰が作ったのかは探りません。みんながくれたプレゼントだと思っています。これが、僕と栗山町との長い付き合いの中で育まれた「関係性」なのかもしれません。

加治
素敵なエピソードをありがとうございます。たぶん、地域創生ということ以前に、栗山さんは自分でここに遊び場を作って楽しみたいという思いが、情熱の核にあるということですね。

栗山
おっしゃる通りです。

倉本聰氏からのプレゼント

加治
『フィールド・オブ・ドリームス』では、「君がそれを作れば、彼は来るだろう」という言葉がキーワードとして出てきます。このLumada Innovation Hub Tokyoもそういう発想で作った場所になっていまして、いろいろな方が集まることで新しい協創、イノベーションを生み出そうという目的でご利用いただいています。栗山町は、先日のパレードではまさにすごい数の人が集まりました。

栗山
人口が1万1,000人から1万2,000人といわれている町に1万4,000人という人が集まりました。これはがんばった選手や日本野球へのご褒美だと思います。実はこんな大騒ぎになるなんて想像もしていなかった昨年、10年間続いた日本ハムファイターズの監督を辞めた僕に、『北の国から』の倉本聰先生から、「10年間北海道のためにお疲れさま」と100本の栗の樹の苗木をいただきました。先生はわざわざ仲間と一緒にここまで届けにきてくれたのです。

その時「栗の樹ファーム」を見ていただき、食事をしながらいろいろな話を伺いました。その時に先生は、「人が生きていくためには何が必要なのか、ちゃんと考えて欲しい」と言われたのです。先生は塾生に、シラカバの樹の葉っぱの数を実際に数えさせるそうです。一本のシラカバに何万枚の葉がある。この何万枚もの葉を作る自然があるから、水ができる。そんな先輩の残してくれた自然の大切さがわかれば、自分が次にどんな行動を起こせばいいのか、次の世代に何を伝えなければならないかわかるはずだ。

『北の国から』でも、先生はそれを伝え残そうとされたのだと思います。地域創生やサステナビリティに僕が答えを持っているわけではありませんが、縁あってできた「栗の樹ファーム」が、そんな教えを受けたり、助け合ったり、環境を整えるために人と人が手をつなぐ場になればいいと思っています。

「第2回:すべての基本は人作り」はこちら>

画像1: サステナブルな地域創生とDX
【第1回】  夢をかなえるフィールド

栗山 英樹(くりやま ひでき)

1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、1984年にヤクルトスワローズに入団。1989年ゴールデングラブ賞を獲得。1990年に現役を引退した後は解説者として活躍するかたわら少年野球の普及に努め、2002年には名字と同じ町名の北海道栗山町に同町の町民らと協力して少年野球場「栗の樹ファーム」を開設。2004年からは白鷗大学でスポーツメディア論などの講義を担当した後、2012年からは北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを2度のリーグ優勝に導き、2016年には日本一に輝く。2021年、野球日本代表監督に就任。2023年、WBCで優勝。現在、北海道日本ハムファイターズプロフェッサー。

画像2: サステナブルな地域創生とDX
【第1回】  夢をかなえるフィールド

加治 慶光(かじ よしみつ)

株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、 鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

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ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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