Ajinomoto Group Shared Value、略してASV。大手食品メーカー、味の素株式会社がCSV(Creating Shared Value)にちなんで名づけた独自の経営戦略だ。CSV経営を標榜する企業は多いが、味の素のように敢えて社名を冠した例は珍しい。同社はいかにしてASVを掲げるに至ったのか。そして、ASVとはどんな経営戦略なのか。2013年から同社の経営企画部長を務める佐々木達哉氏に話を伺った。

CSVと重なる、味の素創業の志

――御社は2014-2016中期経営計画で、マイケル・ポーター教授が提唱するCSV経営戦略にちなんだ「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」を掲げました。どういった経緯でASVを表明するに至ったのですか。

佐々木
2009年頃から「企業はもっと社会課題と向き合いながら経営について考えるべきだ」という世界的なムーブメントが起きていました。ちょうどその時期に弊社でも、コーポレート・ガバナンスや経営の在り方を大きく見直そう、ステークホルダーの皆さまとしっかり対話していこうという議論が交わされていました。そうした流れの中で、2011年にマイケル・ポーター教授が発表したCSV経営戦略に社内でも注目が集まり、役員勉強会で議論が始まりました。

わたしが経営企画部長に着任した2013年の夏、2014-2016中期経営計画を策定するにあたり、CSVを弊社の経営にどう取り込むかが役員研修でのテーマになりました。そのときに共通して挙がったのが、「CSVは、“味の素グループWay”と似ている」という意見でした。

味の素グループWayとは、弊社の従業員一人ひとりが共有すべき価値観、仕事をする上での基本的な考え方や姿勢を「新しい価値の創造」「開拓者精神」「社会への貢献」「人を大切にする」の4つの言葉で表したもので、従業員に深く根づいています。実はわたしたちは、創業の頃からCSVに近い志を持ってビジネスをやってきたんじゃないか。そんな声が多く聞かれました。

画像: CSVと重なる、味の素創業の志

――御社の創業の志とは、どのようなものですか。

佐々木
弊社は1909年に「おいしく食べて健康づくり」という志のもと創業しました。明治の末で、当時の日本の一般家庭の食事はまだまだ貧しいものでした。それを、池田菊苗博士が発見した「うま味」を調味料として活用し、おいしくすることで、日本人の健康づくりに貢献したいと創業者の二代鈴木三郎助は考えたのです。ということはポーター教授のCSVと弊社の志の根っこは同じなんじゃないか、という結論に達して、CSVのCをAに変えてAjinomoto Group Shared Valueという言葉をつくり、2014-2016中期経営計画で発表しました。

ASVの達成目標

佐々木
さらに2017-2019(for2020)中期経営計画では、ASVの社内への浸透をさらに深めるため、その位置づけを明らかにしました。

まず、味の素グループには、「地球的な視野にたち、“食”と“健康”、そして、明日のよりよい生活に貢献します」というミッションがあり、それを追求する中で達成したい姿として、「先端バイオ・ファイン技術が先導する、確かなグローバル・スペシャリティ食品企業グループ」というビジョンがあります。そこでわたしたちが生み出すバリューがASV。すなわち、「創業以来一貫した、事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組み」だと位置づけたのです。

――ASVの達成度を測るうえで、どんなものさしを設定していますか。

佐々木
弊社の主力商品である「味の素」や「Cook Do」をはじめとする調味料事業を例に説明します。

味の素グループの調味料商品を購入したお客さまは、肉や野菜などの食材を使って調理し、食事しますよね。すると、うま味を通じてたんぱく質と野菜をおいしく摂取でき、栄養バランスを改善することができます。これが、調味料事業においてわたしたちが提供できる社会価値です。さらにわたしたちは、味の素グループ商品を通じた肉・野菜の摂取量を社会価値の達成目標として設定しています。日本および弊社がFive Starsと呼び注力している海外5か国(タイ、ブラジル、インドネシア、ベトナム、フィリピン)において、味の素グループ調味料による肉・野菜の摂取量の2020年度目標は、肉が年間860万トン、野菜が年間550万トンです。

その目標が達成されると、2015年度比で、うま味調味料ではプラス約10万トン、風味調味料ではプラス約9万トンの消費につながります。これが、わたしたちが掲げる2020年度の経済価値の指標のひとつです。要するに、非財務目標(社会価値)と財務目標(経済価値)とがしっかり結びついているのです。

――社会価値の目標設定が、御社のビジネスと直結していてわかりやすいです。

佐々木
CSV経営を実践するにあたって、社会価値を生み出すためには、本業以外に何か特別な取り組みをしなくてはいけないということではありません。わたしたちは、ASVはあくまで日々の事業活動を通じて行うものと考えているのです。

日本以外でも、「国民的調味料」として浸透

――さきほどお話に挙がった2020年度目標ですが、海外の対象国をFive Stars(タイ、ブラジル、インドネシア、ベトナム、フィリピン)とした理由を教えていただけますか。

佐々木
弊社は、もちろん世界のどの国においても同じ志で事業を展開しています。ただ、すべての国における数字を集計してその推移を追跡するのは大変ですので、グループ内で売り上げ規模の大きいこの5か国を、海外展開の代表として選びました。

例えば、タイで販売している風味調味料「Ros Dee(ロッディー)」は、タイの国民的調味料として現地で親しまれています。豚肉などの畜肉の風味を料理に付与する風味調味料です。また、インドネシアの風味調味料「Masako(マサコ)」。これも同国では国民的調味料です。このように、Five Starsの国々では味の素グループの商品が親しまれています。

画像: 味の素グループがタイで販売している「Ros Dee」(左)と、インドネシアの「Masako」。

味の素グループがタイで販売している「Ros Dee」(左)と、インドネシアの「Masako」。

――日本で言うと御社の「ほんだし」に近い存在でしょうか。

佐々木
そうですね。炒め物の味付けや、スープのだしとして使われたり。要するに調味料ですから、このまま封を切って食べるのではなく、料理に使っていただくものです。ということは、これらの商品が売れれば、肉や野菜の入ったメニューが家庭の食卓に出ていることになる。そう考えると、ASVの概念も各国の味の素グループの従業員にすっと浸透するのです。

――Five Starsに、人口の多いインドや中国が含まれていないのが意外です。

佐々木
インドは東南アジアとは食文化がだいぶ異なります。インドの食卓によくのぼる鶏肉の揚げ物やチャーハンなどのメニュー用調味料を販売したり、東洋水産株式会社との合弁で現地に設立した「マルちゃん味の素インド社」から即席麺を売り出したりして市場開拓を進めています。

画像: 味の素と東洋水産株式会社による合弁会社「マルちゃん味の素インド社」が販売している即席麺。

味の素と東洋水産株式会社による合弁会社「マルちゃん味の素インド社」が販売している即席麺。

中国においては、外食産業の成長を支える提案で現地法人が業績を伸ばしつつあるところです。食べ物は、嗜好性のローカル色がとても強いのです。企業にとってチャンスになる場合もある反面、より緻密な販売戦略と地道な商品展開が求められる難しさもありますね。

味の素が、グローバル食品企業トップ10クラス入りをめざす理由

――ASVを、Ajinomoto Shared ValueではなくAjinomoto “Group” Shared Valueとした意図は何ですか。

佐々木
わたしたち味の素は、企業単体というよりもグループとしての経営を志向しています。例えば、海外の法人は味の素の支社ではなく、すべてグループ会社なのです。いかに現地に適合するかが、食品ビジネスにおける成功の肝になります。と同時に、わたしたちはグローバル食品企業のトップ10クラス入りをめざしていますから、グループ全体としての企業哲学の共有が不可欠なのです。

――トップ10クラス入りをめざす理由は何でしょうか。

佐々木
広く社会に貢献するためには、やはりある程度の規模の利益を生み出せないと、社会への貢献と味の素グループの成長を持続できないだろうとの考えからです。

ここで言うトップ10クラスとは、わたしたちがお手本にしたい世界的な食品メーカーのことです。いくつかその判断基準を設けていますが、だれもが思い浮かべる企業は、わたしたちが定義づけるトップ10クラスに当然入っています。そうした企業に共通して言えるのは、人と地球の未来の進歩に貢献している会社であること。そして、世界一と言えるコアな技術領域や事業領域を持っていること。加えて、世界レベルの多様な人財力を備えていること。同時にそれは、味の素グループが実現したいことでもあります。

――これをクリアすればトップ10クラス入りできる、という判断基準はありますか。

佐々木
2020年度の目標として設定しているのが、グループの事業利益額1,370億円以上。それから事業利益率10%、ROE10%以上など。こうした目標を達成できて初めて、トップ10クラス入りできると考えています。そのためには、やみくもに事業を拡大するのではなく、わたしたちが強みを発揮できる事業領域や技術領域を磨いていくことが大切です。

例えば、弊社の調味料と冷凍食品は、世界でも通用する事業領域だと考えています。

ドライセイボリー(※)と呼ばれるジャンルの調味料におけるシェアは、実は弊社はすでにグローバルのトップに立っていて、日本や東南アジアなどで、主に炒め物用途で愛用されています。また、食文化の異なる欧米において市場のドアを開ける商品として、近年味の素グループが力を入れているのが、冷凍食品です。

※うま味調味料と風味調味料(粉末、キューブなど)

味の素グループは2014年に、アメリカにおけるアジアン・エスニックの冷凍食品メーカー最大手、ウィンザー・クオリティ・ホールディングス社(現味の素フーズ・ノースアメリカ社)を、そして2017年にはフランスの冷凍食品会社ラベリ・テレトル・スージェレ社を傘下にしました。この新たな販路を活かして、味の素の冷凍餃子や冷凍ラーメンを欧米の消費者の皆さまにも食べていただきたい。というのは、意外かもしれませんが、欧米では餃子はヘルシーな食品として注目されているのです。

画像: 味の素グループがアメリカで販売している冷凍餃子。

味の素グループがアメリカで販売している冷凍餃子。

餃子は野菜が結構入っていますし、ヘルシーなイメージが現地では強い。そこに、味の素グループが日本国内で培ってきた減塩、減脂の技術などを組み入れて、加速度的に拡大を進めています。

2017年、ロゴリニューアルのねらい

――御社は2017年10月に企業ブランドロゴをリニューアルしました。どんな意図があったのですか。

画像: 左側がリニューアル前のコーポレートブランドロゴ。右側が2017年10月から使用されている味の素グループグローバルブランドロゴ。

左側がリニューアル前のコーポレートブランドロゴ。右側が2017年10月から使用されている味の素グループグローバルブランドロゴ。

佐々木
狙いとしては、グローバルにおけるブランド価値をもっと上げていくためです。というのは、欧米での味の素の知名度はまだ低いのです。それに加え、近年はM&Aにより国内外のグループ企業が増加し、事業領域が拡大しており、“味の素グループ”として全体を束ねる統一ブランドの必要性が増してきました。そこで、2017-2019(for2020)中期経営計画で掲げた2020年度までのグローバル食品企業トップ10クラス入りに向けて、日本を含む世界の生活者が“言語を超えて”弊社グループの象徴として認知できるような、親しみやすいデザインのブランドロゴを開発しました。

これからは、このグループグローバルブランドロゴに味の素グループとしてのブランド価値を蓄積させていこうと考えています。

画像: 佐々木達哉 1963年、東京都生まれ。1986年、味の素株式会社に入社。関東支店水戸営業所、東京支店営業第一課で営業職を経験。1994年から6年間にわたり本社調味料部で「Cook Do」シリーズの商品開発・販売マーケティング等を担当。その後、東京支社営業スタッフグループ、本社健康事業開発部、同ニュートリションケア部を経て、2013年から経営企画部長。2017年7月より執行役員。

佐々木達哉
1963年、東京都生まれ。1986年、味の素株式会社に入社。関東支店水戸営業所、東京支店営業第一課で営業職を経験。1994年から6年間にわたり本社調味料部で「Cook Do」シリーズの商品開発・販売マーケティング等を担当。その後、東京支社営業スタッフグループ、本社健康事業開発部、同ニュートリションケア部を経て、2013年から経営企画部長。2017年7月より執行役員。

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