子どもの頃に読んだ本がきっかけで、ずっと「国連職員になることが夢だった」と角田氏は言う。それがなぜ、“スキルをシェアし助け合えるサービスで起業する”という形に至ったのか。何の関係もないように見える両者だが、実は一貫した思いでつながっている。描いた夢が、社会人経験を積むなかで「自身の立ち位置」や「やるべきこと」と結びつく。そこで見えてきたのが、現代社会が抱える構造的な問題を、手の届く範囲から少しずつ解決していく「ANYTIMES」というサービスだった。
画像: 角田千佳 -Chika Tsunoda- 1985年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後の2008年に野村證券株式会社に入社。2010年に株式会社サイバーエージェントへ転職し、関連会社でPRプランナーとして企業のPR事業に携わる。2013年「豊富な幸せの尺度を持った社会の実現」をめざし、株式会社エニタイムズを創業。同年末、日常のちょっとした困りごとを、簡単に依頼・請負できるスキルシェアサービス「ANYTIMES」をリリースする。

角田千佳 -Chika Tsunoda-
1985年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後の2008年に野村證券株式会社に入社。2010年に株式会社サイバーエージェントへ転職し、関連会社でPRプランナーとして企業のPR事業に携わる。2013年「豊富な幸せの尺度を持った社会の実現」をめざし、株式会社エニタイムズを創業。同年末、日常のちょっとした困りごとを、簡単に依頼・請負できるスキルシェアサービス「ANYTIMES」をリリースする。

暮らしの“ちょっとした困りごと”をITを介して解決

日常生活のなかで、「誰かの手を借りたくなる瞬間」は誰にでもあるものだ。これはなにも、大きな問題にぶつかったときに限ったことではない。「家具を少し移動したい」「スーパーで買ってきて欲しいものがある」「勉強で分からないところを質問したい」――。そんな、“ちょっとしたこと”を含めれば、きっとほとんどの人が、毎日のように感じることだろう。

「ANYTIMES」は、そんな日常のちょっとした困りごとを、これまでになかった方法で解決してしまおうというサービスである。

特徴は、自分ではない誰かの「スキル」や「特技」を使って困りごとを解決するという点だ。アプリ上のマッチングサイトを通じて、近くに住む人同士がスキルを「シェア(共有)」することで、暮らしの便利を高める。つまり、最近は希薄化しているご近所同士の助け合いを、ITを介して支援しようとするサービスなのだ。

「例えば、お隣の人に子守を頼んだり、近所のおじさんに日曜大工をお願いしたり。1人では動かせない家具の移動を手伝ってもらったり、旅行に行く間、観葉植物やペットの世話をお願いしたり――。そんな、専門業者に依頼するほどではない、日常の困りごとを解決できるのが、ANYTIMESです」とアプリの発案者であり、株式会社エニタイムズ 代表取締役社長の角田千佳氏は話す。

画像: 株式会社エニタイムズ 角田 千佳氏

株式会社エニタイムズ 角田 千佳氏

ありそうでなかった、スキルのマーケットプレース

ANYTIMESの使い方はシンプルだ。手伝ってほしいことができたら、アプリでその内容を投稿し、手伝ってくれる人を募集する。それを見た、自分のスキルや空き時間が役立ちそうだと思った人が応募し、条件が合えば取引が成立する。反対に、自分のスキルをチケット化して販売すれば、サービスを提供する側になることもできる。利用登録時の情報をもとに、近くに住む利用者が優先的に表示されるため、必然的にご近所同士の助け合いが促進される仕組みだ。

画像: 利用者からのリクエスト(お手伝いの依頼)が並ぶANYTIMESの画面。スマートフォン向けアプリのほかPC向けのWebサイトも用意されている。

利用者からのリクエスト(お手伝いの依頼)が並ぶANYTIMESの画面。スマートフォン向けアプリのほかPC向けのWebサイトも用意されている。

対価・場所などはすべて「困りごとの依頼者(ユーザー)」と「スキルの提供者(サポーター)」の間で決められるが、金銭のやりとりはエニタイムズが仲介する。具体的には、ユーザーからの支払いが確認できたら、エニタイムズがサポーターに通知。サービスが正しく提供されたことが確認できたら、エニタイムズからサポーターに報酬が支払われる仕組みだ。こうすることで、利用者の間で金銭にまつわるトラブルが起こらないようにしている。

「登録者は、誰でもユーザー/サポーターの両方になることができます。つまり、誰かのスキルや時間を使うこともあれば、自分のスキルを誰かに使ってもらうこともある。このように、スキルが循環する『マーケットプレース』的な役目を持っていることも、ANYTIMESの特徴の1つだと考えています」

小学生の頃の夢は「途上国の開発援助」

そんなANYTIMESが生まれた背景には、角田氏のパーソナリティーが大きく関わっている。

小さな頃から本を読むのが大好きだったという角田氏。小学生のとき、海外の偉人の伝記を山ほど読むうちに、「現代の人の話や、日本人の話も読みたい」と思うようになった。そこで母親が用意してくれた本が、日本人として初めて国連難民高等弁務官を務めた、緒方貞子氏の『国連からの視点』だった。

「この本を読んで、いろいろなことに感銘を受けました。特に心に残っているのは、世界では内戦によって難民となり、その日の食事にも困る子どもたちが大勢いること。それから、そんな現場に自ら赴き、難民を助けようと奮闘する日本人女性がいることにも驚きました。それ以来、将来は私も国連に入って、途上国の開発援助をする仕事がしたい。特に内戦や紛争後の街づくりに携わりたいと思うようになりました。小学校の卒業文集に国連の事務総長についての話も書いたほど、子どもながらに本気でしたね」

「急がば回れ」で社会人経験を積むことを優先

中学・高校は創作ダンス、大学ではチアダンスと、アクティブな青春時代を過ごした角田氏だが、その間も夢は消えることがなかった。当然、大学卒業後は、国連職員につながる進路を検討。ただ、強い情熱を持ちながら、自分を客観視する冷静な部分も角田氏は持ち合わせていた。

「国連職員は国際公務員なので、大学院を修了していることが応募の必須条件でした。それには大学院へ進むのが最短経路ですが、私は、当時の自分の状態で社会人経験のないまま国連職員になっても、良い仕事はできないだろうと考えたんです。だったら、まずは社会人としての基礎をつくってから大学院に進もうと、一般企業に就職先を求めました」

最も多くの経験が積める業界はどこか。資本主義社会の基盤を形成するのは貨幣経済。それならばと、角田氏は金融業界を第一志望に決めた。野村證券に入社し、そこで約3年を過ごす。短い間だったため、ビジネスの奥深い部分に携わることはなかったが、巨大な組織のなかで、仕事の進め方や社会人としての基本マナーを学んだという。

さらに違った経験も積みたいと決めた転職先は、大学時代にインターンを経験していたサイバーエージェントだった。インターン時代の上司が、子会社をスタートしており、初期のメンバーとして入らないかと声がかかったのだ。

そこでは約2年間、顧客企業のプロモーション活動を支援する仕事に携わった。少数精鋭のチームだったため、業界未経験の角田氏も多くの権限を任された。責任も重く大変だったが、自らビジネスを動かす経験が積めたのは大きかったという。

画像: 「急がば回れ」で社会人経験を積むことを優先

大勢の顧客と接するなかで変わった、夢の形

角田氏の目標はあくまでも国連職員として途上国の開発援助、街づくりに携わること。野村證券も、サイバーエージェントも、そのための経験を積む場だと考えていた。事実、どちらの会社でもその意思は入社時に伝えており、上長からも承諾を得ていたという。

「ただ、2社で仕事をするうち、私のなかで変化がありました。特に野村證券では、営業として中小企業の経営者や、個人のお客さまと親しくお付き合いさせていただく機会も多くありました。そんななか、年配の方の日常の困りごとや、一人暮らしの方の不安、働きたいのに働けない女性の悩み……といった問題がたくさんあることが分かってきた。それまで私の目は遠くの国にばかり向いていたのですが、もしかすると、やるべきことは身近にもあるんじゃないかと考えるようになっていったんです」

振り返ってみれば、角田氏自身も一人暮らしを始めた頃から、家具の組み立て・移動などを便利屋サービスに依頼することがあった。これを非常に便利に感じていた一方で、「近所に住んでいる人に頼めたら、もっとリーズナブルで簡単なのに」と思うこともあったという。

「現代は地域社会での人間関係が希薄になっていますが、何か困りごとがあったとき、それを解決するスキルや時間を持っている人は近所に必ずいるはずです。困っている人と、手助けできる人をうまくマッチングするサービスがあれば、大勢の人によろこんで使ってもらえるんじゃないだろうか。そんなアイデアが、徐々に私のなかに芽生えていました」

無人島で1週間、徹底的に考え抜いた

そこで角田氏は意を決し、自ら会社を立ち上げるために動き出す。まずは1週間の休暇を申請して、友人ら4人とパラオの無人島に飛び立った。これは、幼少期からの夢や、社会人経験を通じて知った社会課題、自らの内にたまってきた新しいアイデアなどを整理し直し、事業計画として練りあげる“合宿”を行うためだ。電話もインターネットもない環境に自らを置くことで、ひたすら自身の思考を掘り下げ、友人たちと議論することができると考えた。

「この1週間で、会社の事業目的を3つに定めました。1つ目が『日常の手助け需要に応える』。これは一人暮らしのお年寄りなど、生活の不便を感じている人を助ける仕組みをつくるということです。2つ目は『多様な働き方の提案』。定年退職したお父さん、子育てを終えたお母さんなどが、趣味やスキルを生かして働く機会をつくる。そして3つ目が『地域のつながりを取り戻す』。人の交流を促すことで、困ったときに頼れる“近所の顔見知り”をつくりたい。この3つを、人と人のマッチングで実現するのが『ANYTIMES』だと定義したんです」

帰国後は、すぐさま当時の上司にこのアイデアを相談。「すごくいい。頑張れ」と全面的な後押しを受けた角田氏は、迷わず退社し、28歳の誕生日に株式会社エニタイムズを法人登記した。

「 後編:地域社会の“弱いつながり”を取り戻すきっかけになりたい」に続く >

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