仮想通貨の草分け「ビットコイン」の運用が開始されたのは今から8年前。日本ではビットコイン交換所「Mt.GOX」の破産により、一時はその信用が大きく揺らいだが、ビットコイン自体はこれまで一度も破たんすることなく、順調な運用が続いている。その基盤が当時まったく新しい仕組みとして注目された「ブロックチェーン」(分散型台帳技術)だ。ブロックチェーンは、運営主体がないにもかかわらず、参加者が改ざんのない記録を共有できるプラットフォームとして、現在では金融だけでなくさまざまな分野から大きな脚光を浴びている。インターネットのように、社会そのものを劇的に変えると期待されるブロックチェーン。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの高木聡一郎研究部長にその仕組みと可能性について伺った。

幅広い分野での利用が期待される「ブロックチェーン」

ーーここ1〜2年、「ブロックチェーン」という言葉をよく耳にするようになりました。なぜこれほど注目を集めているのでしょうか。

高木
やはりビットコインの実績が大きいと思います。ビットコインは、国家や中央銀行が発行した通貨ではなく、発行主体もなく、不特定多数の参加者が分散型で完全にデジタルに運用している、まったく新しい仮想通貨です。その仮想通貨が破たんなく8年も運用されていることで、これは一部のマニアのものではなく、普遍的な価値を持つものかもしれない、という認識が広まってきたのでしょう。従来にはなかった"中央管理者がいないサービス"が、ある意味、リアリティをもって社会に受け入れられつつあるということだと思います。

ビットコインの場合、現状では投資目的の購入が多く見られるものの、いまや世界中に広がっていて、驚くほど価値が上昇しています。日本でも簡単に購入でき、大手家電量販店など、実際に通貨として利用できる店舗も出てきました。その背景には、ビットコインを支える基盤であるブロックチェーンへの大きな期待があります。

画像: 幅広い分野での利用が期待される「ブロックチェーン」

私は、2016年、2017年と米国・ニューヨークで開催されたブロックチェーンのカンファレンス「Consensus」に参加したのですが、2016年の段階でも世界40カ国以上から、1,300人を超える参加者が集まり、その期待の大きさを実感しました。アメリカだけでなく、イギリス、ドイツ、スイスなどのヨーロッパ各国や、カナダ、中国など、世界中で関心が高まっているのです。また、仮想通貨やブロックチェーン関係のベンチャー起業への投資も膨らみ続けていて、その額は、2016年前半の時点で、全世界で11億ドル(約1,177億円)※1に達していると言われます。

その背景には、ブロックチェーンは、単に金融や決済にとどまることなく、シェアリングエコノミーやクラウドソーシング、スマートグリッドといった、新しい社会の仕組みに組み込まれることで、新たな価値やビジネスを創出して収益をもたらすのではないか、という大きな期待があります。

既存技術の組み合わせの妙が生んだ、まったく新しい仕組み

ーー高木さんご自身は、なぜブロックチェーンに関心を持たれるようになったのでしょうか?

高木
私はもともと、ITが組織や経済にどのような影響を与えるのかを研究していて、オフショア開発※2やクラウドコンピューティング、クラウドソーシングなどの進展により、従来、組織の内部にあった業務が国境を越えて分散されていく中で、今後の日本経済や組織のあり方がどのように変化していくのかに興味を持ってきました。そうした観点からブロックチェーンを眺めると、これまでとは違ったまったく新しい、分散型の組織運営を実現できるのではないかと興味が湧きました。

さらに詳しく調べるうちに、技術そのものの面白さにも惹かれるようになりました。AIよりも具体性があるということもありますが、ブロックチェーンを支える技術そのものに面白みがあると思っています。その技術とは、以下のブロックチェーンの3つの要素を実現するものです。

第1は「データの連結による偽造防止」。ブロックチェーンでは、データを一定時間ごとに集約してブロックと呼ばれるデータのかたまりを作成するのですが、その際に過去のブロックを新しいブロックに入れていくため、過去のデータを改ざんすると、新しいブロックまで改ざんする必要があり、非常に手間がかかります。つまり、改ざんのメリットがないことから、改ざんを困難にしているのです。

第2は、「情報資産と主体(エンティティ:人や企業、組織、さらにはデバイスまで含む)の紐付け」です。「公開鍵暗号」と呼ばれる暗号技術を使っていて、公開鍵のハッシュ値※3がアドレスの役割を果たし、公開鍵に対応する秘密鍵を持っていることを証明できれば、そのコインを使うことができる仕組みになっています。

第3は、「不特定多数のコンピュータによる情報管理」ができること。ここで使われている技術が、ピアツーピア(P2P)と呼ばれる、中央管理者不要の分散型システムです。P2Pでは、どこか一カ所のデータが失われても、他の参加者のコンピュータが動いていれば、システムを維持することができ、システム障害に比較的強いという特徴があります。

画像: ブロックチェーンの3大要素

ブロックチェーンの3大要素

実は、これらの技術自体は、すでに使い古されてきた技術なんですよ。そうしたものをうまく組み合わせることにより、まったく新しい仕組みを構築したところにブロックチェーンの新規性があります。

ーーでは、ブロックチェーンというのは、非常に信頼性の高い仕組みと言ってもいいのでしょうか。

高木
仕組みそのものの信頼性は高いのですが、それを社会に実装するためには、まだまだ技術的に未熟な部分がたくさんありますし、一筋縄ではいかないと思っています。ただし、社会を劇的に変える可能性は大いにある。今後、中央管理者がいない組織やサービスにブロックチェーンがどう応用されていくのか大変興味深いところです。

※1 Consensus 2016におけるGarrick Hileman氏の報告による。
※2 オフショア開発:ソフトウェアやWebシステムの開発や運用・保守・管理を海外の子会社や開発会社にアウトソースすること。
※3 ハッシュ値:元になるデータから一定の計算手順により求められた規則性のない固定長の値。同じ情報から同じハッシュ値が作成されるが、元の情報が少しでも違うと、ハッシュ処理を行ったあとの情報も異なるものになる。つまり、ハッシュ値から元の情報に戻すことができない一方向関数であることから、改ざん検知に活用されている。--

組織ではなく、信頼できるアルゴリズムが「価値の交換」を可能にする

ーーブロックチェーンは、仮想通貨だけでなく、さまざまな分野で活用できると考えられているわけですが、具体用途としてどんなものがあるでしょうか。

高木
インターネットがもたらした最大の功績は、ITにより取引コストが劇的に低下したことであると言えます。インターネット上に取引のプラットフォームが整備され、その上でさまざまな価値が交換できるようになりました。ただし、そこにはAmazonやApple、Facebookなど、プラットフォームを構築して仲介する第三者がいるわけですね。そこにブロックチェーンを用いれば、従来のように第三者を介することなく、個人や組織がお互い対等な関係で何らかの価値あるいは資産の交換ができるようになると考えられます。したがって、現在、ITのプラットフォームを構築しているスーパースター企業の勢力地図を塗り替える可能性があります。

画像: ブロックチェーンとは何か

ブロックチェーンとは何か

そうしたことがなぜ可能になるのかというと、ブロックチェーンに登録された情報については、改ざんすることがほぼ不可能だからです。これまでは、銀行やクレジットカード会社といった信頼できる組織が、責任をもって我々の預金残高や出入金を管理してくれていました。組織が情報の信頼性を守るというビジネスモデルが構築されていたわけですね。ところが、これからはそうした信頼できる組織はなくても、ブロックチェーンというインフラが預金口座を管理し、大切な記録を守ってくれます。つまり、信頼の源泉が、「組織」から「アルゴリズム」(仕組み)に置き換わった、というのがブロックチェーンの最大の本質であり、もっとも革新的なところと言えます。

画像: 組織ではなく、信頼できるアルゴリズムが「価値の交換」を可能にする

ビットコインの弱点は「処理の遅さ」と「秘匿性の低さ」、「スケーラビリティの低さ」

ーーそれだけ信頼できる仕組みではあるけれど、まだ技術的には未熟だということですね?

高木
そうですね。ブロックチェーンは、大別すると不特定多数の誰もが参加できるパブリックなブロックチェーンと、特定のメンバー・特定の用途での使用に限定されたプライベートなブロックチェーンに分けられます。ビットコインは、パブリックなブロックチェーンの代表例ですが、ビットコインの弱点として、ブロックを作成する間隔が現在は約10分ごとと時間がかかることや、1 秒間に取り引きできるのが7件程度と少ないことなどが挙げられます。それは、合意形成のやり方に起因するもので、オープンで分散的な仕組みゆえの悩みです。

ビットコインの合意形成には、「プルーフ・オブ・ワーク」(Proof of Work)という方法が採用されていますが、これは、より多くの計算能力を投入し、高速に処理を行った者が台帳を更新する役割を担うというものです。そのインセンティブとしてコインが新規で発行される仕組みで、参加者はそのコインと手数料を目当てにシステムを運用しています。そのことから、このブロックの作成は金の採掘などになぞらえて「マイニング(採掘)」と呼ばれ、ブロック作成に参加する人は「マイナー(採掘者)」と呼ばれています。

つまりこの仕組みは、単純な計算さえすればいいという機会の平等を保証したという意味で非常に画期的と言えます。しかし一方で、電気を多く使って、計算パワーを投入したマイナーに富が集中するという寡占化を加速させてもいる。実際に、電気代が安い国や地域にマイナーが集中していることがわかっています。とはいえ、誰かがブロック作成を担う必要があり、ビットコイン以外のプラットフォームでは、合意形成の仕組みをどうすべきか、今、まさにさまざまな手法が試されているところです。

画像: ビットコインの弱点は「処理の遅さ」と「秘匿性の低さ」、「スケーラビリティの低さ」

また、一つのブロックにたくさんの取引データを入れてしまうと、データの転送に時間がかかるため、ビットコインでは一つのブロックの容量を1MBに制限していることからスケーラビリティが低いことも課題です。

ちなみに、合意形成ができないまま、ブロックチェーンが分岐(フォーク)してしまうという課題もあります。フォークが起こったときは、ブロックがたくさんつながって長くなった方を正しいブロックとして皆が受け入れます。そうしたことから、本当に正しいブロックであると安心できるまでには1時間程度待った方が良いとも言われています。

もう一つ、不特定多数のコンピュータが接続するブロックチェーンでは、誰でも情報を見ることができ、その秘匿性の低さも課題です。これに関連して、秘密鍵の管理をどのように行うのかも重要な問題となっています。

また、ここ最近ビットコインの分裂騒動というのが見られますが、これはブロックチェーンの機能改善やバージョンアップに伴う合意形成の難しさを示しています。リーダーや階層的な権限が無いということにもメリット・デメリットがあるということです。

このように、課題は山積していて、その課題を解決すべく、今まさにさまざまな取り組みが始まったところです。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

画像: 高木聡一郎氏 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究部長 /准教授/主幹研究員、および東京大学大学院情報学環客員研究員。 国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ代表。これまでにハーバード大学ケネディスクール行政大学院アジア・プログラム・フェロー、慶應義塾大学SFC研究所訪問所員、東京大学大学院情報学環客員准教授などを歴任。 専門分野は情報経済学。IT産業のビジネスモデルや、ITの普及・発展に伴う 社会への影響を、主に経済学の観点から分析している。 主な著書に「ブロックチェーン・エコノミクス 分散と自動化による新しい経済のかたち」(翔泳社)、「Reweaving the Economy: How IT Affects the Borders of Country and Organization」(東京大学出版会)、「学び直しの方法論 社会人から大学院へ進学するには」(インプレスR&D)など。 2015年、社会情報学会より「新進研究賞」等を受賞。

高木聡一郎氏
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究部長
/准教授/主幹研究員、および東京大学大学院情報学環客員研究員。
国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ代表。これまでにハーバード大学ケネディスクール行政大学院アジア・プログラム・フェロー、慶應義塾大学SFC研究所訪問所員、東京大学大学院情報学環客員准教授などを歴任。
専門分野は情報経済学。IT産業のビジネスモデルや、ITの普及・発展に伴う
社会への影響を、主に経済学の観点から分析している。
主な著書に「ブロックチェーン・エコノミクス 分散と自動化による新しい経済のかたち」(翔泳社)、「Reweaving the Economy: How IT Affects the Borders of Country and Organization」(東京大学出版会)、「学び直しの方法論 社会人から大学院へ進学するには」(インプレスR&D)など。
2015年、社会情報学会より「新進研究賞」等を受賞。

「第2回:仮想通貨を超えるさまざまな活用法」に続く >

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