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日立製作所 研究開発グループ 森正勝/日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal / シナモンAI 取締役会長 加治慶光
日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principalを務め、AI関連のスタートアップの会長でもある加治慶光と、日立製作所 研究開発グループの森正勝との対談。その2では、DXを推し進める上で、組織の枠を超えて交流するための“場”の重要性について語った。

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「第1回:社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?」はこちら>
「第2回:なぜ「越境して接続する場」が重要なのか?」
「第3回:社会イノベーション事業における、DXの役割とは?」はこちら>

日本人は「美徳」から一歩踏み出すべし

丸山
今年4月に行われた、ここLumada Innovation Hub Tokyoの開所式で、加治さんは「お客さまやパートナーと協創しながらDXを推し進める上で、『越境して接続する場』が重要になってくるでしょう」というお話をされていました。そこにはどんな思いが込められているのでしょうか。

加治
日本人には「謙譲の美徳」があります。他人を尊重し、お互いの領域に踏み込まない。それは一種の素晴らしい価値ですが、敢えて少しだけ踏み込んでみる。つまり自分の領域から他人の領域へ越境してみて、意見を言い合う。こういった境界の混ざり合いが、協創によるイノベーションを起こすうえでとても重要になると思います。

ここLumada Innovation Hub Tokyoは物理的な空間ですから、リアルにいろいろな組織の人が集まって議論することで、さまざまな化学反応が起こりえます。そして、オンラインでも同じような化学反応が起こりえる。いわば、バーチャルとリアルのクロスロードとしてこの場所が機能すればいいなとの思いから、「越境して接続する場」という表現をさせていただきました。

画像: 日本人は「美徳」から一歩踏み出すべし

わたし自身、日立でのお仕事と並行して、シナモンAIというスタートアップの経営と鎌倉市の支援に携わっています。それぞれの組織の方々と話していて感じるのは、皆さんが同じような発想で同じようなゴールをめざしていることです。SDGsという人類共通の大きな目標ができたことが非常に大きいと思います。このように今、異なるセクターの方々同士がSDGsという共通言語で議論できる状況ができあがってきています。だからこそどんどん越境して、相手へのリスペクトを持ちながら、いろいろな組織の人に接続していく。こういった協創のあり方に、人類の未来につながるヒントがあるのではないでしょうか。

丸山
加治さんご自身が、ある種のバウンダリー・オブジェクト(※)となって協創の場をつくられているという印象を受けます。森さんも研究開発グループという立場で協創の場をマネジメントされていますが、今のお話を伺っていかがでしょう。

※ Boundary Object:組織を区切る境界線(バウンダリー)を越えた行動や、組織間の相互作用を創発する媒介。


越境の話で思い浮かべたのが、トヨタのカイゼン活動です。自分が担当する1工程だけを見るのではなく、その前後の工程も含めて全体を見ながら生産方式を改善していくというものです。これはイノベーションを起こしたり新しいしくみをつくったりするときにも言えることで、専門領域の違いを超えて物事を広い視野で見ないといけない。このように日本人は、謙譲という美徳も備えながら、自分の領域を飛び越えた視点を持つ柔軟さも併せ持っています。そこをもっと活かしていけば、日本からもっと新しいイノベーションが起こせるのではないでしょうか。

イノベーションを起こせるのは、密接な関係よりも「weak ties」


日立の研究開発グループには「協創の森」という施設が東京の国分寺にあり、さまざまな企業や行政の方にお越しいただくことで協創を推し進めています。そこでも、先ほどの加治さんのご指摘のように、「SDGsでも触れられている〇〇〇の問題を解決しましょう」といった感じで、SDGsを共通言語にしてディスカッションされることが多くなってきました。

画像: イノベーションを起こせるのは、密接な関係よりも「weak ties」

第1回のウェビナーで多摩大学大学院教授の紺野登先生が、世の中をよくする大目的と、個人や組織レベルの思いである小目的とを結び付ける中目的=駆動目標の設定がプロジェクトにおいて肝だとおっしゃっていました。まさにSDGsの17目標が、大目的を設定する際の参考になりますし、組織の異なる人々がフィジカルだけでなくリモートでもつながれるようになったことで、駆動目標に共感した人々が集まり、力を合わせてプロジェクトを進めていく。そういったフレームワークがより実践されやすくなっていると感じます。ですから我々としても、協創の場をファシリテートすることで日本を盛り上げていければと思っています。

加治
アメリカの社会学者でイノベーション研究の大家であるマーク・グラノヴェッター氏は、「The strength of weak ties」という概念を提唱しています。つまり、弱いつながりが持つ強み。それは、毎日同じオフィスで働いている同僚や、家族、親友といった密接な関係よりも、単なる知り合い程度のネットワークのほうが、実はイノベーションが生まれる機会につながりやすいという考え方です。Lumada Innovation Hub Tokyoが、この「weak ties」を拡大再生産するような場になることを願っています。(第3回へつづく)

「第3回:社会イノベーション事業における、DXの役割とは?」はこちら>

画像1: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その2】なぜ「越境して接続する場」が重要なのか?

加治 慶光(かじ よしみつ)
日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 取締役会長、 鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

画像2: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その2】なぜ「越境して接続する場」が重要なのか?

森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。

画像3: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その2】なぜ「越境して接続する場」が重要なのか?

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

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