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多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授 紺野 登氏/日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長 森 正勝
企業活動や事業にパーパス=存在意義が求められる今、社会やビジネスの「問い」を起点にビジョンを描き、いかにビジネスにつなげていくか――。日立の研究開発グループは、研究者やデザイナーとの対話を通じ、この「問い」について考えるための新たな協創の場として、定期イベント「協創の森ウェビナー」をスタートさせた。2021年6月8日にライブ配信された「問いからはじめるイノベーション」第1回では、デザイン思考の第一人者であり、目的工学によるイノベーションを提唱している多摩大学大学院教授の紺野登氏をゲストに招き、「パーパスと社会イノベーション事業」をテーマに日立の森正勝との対談を実施。その様子を4回にわたってお送りする。

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パーパスの重要性を問う

――本ウェビナーのナビゲーターを務めさせていただく、日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長の丸山幸伸と申します。本日は「パーパスと社会イノベーション事業」と題し、パーパスすなわち「目的」について、専門家と日立の研究者との対談をお送りします。今回のゲストは、多摩大学大学院経営情報学研究科の紺野登教授です。紺野先生には2007年に『ソーシャルイノベーションデザイン―日立デザインの挑戦』という本を編集いただき、以来、日立のデザイン活動をご指導いただいてきました。それでは紺野先生、よろしくお願いします。

画像: 左から経営学者の紺野登氏、日立の森正勝、対談のナビゲーターを務めた日立の丸山幸伸。

左から経営学者の紺野登氏、日立の森正勝、対談のナビゲーターを務めた日立の丸山幸伸。

紺野
どうぞよろしくお願いします。「目的」の重要性についてはすでに世界中の経営者が語っていると思います。今、SDGsに代表されるように社会課題に目を向ける動きや、ステークホルダーエコノミーのように顧客や従業員などとの関係を重視した経営に舵を切るという流れ、あるいはオープンイノベーションへの取り組みもよく聞かれます。ただ、なかなかうまくいっていません。なぜかと言うと、こうしたイノベーションの目的がはっきりしていないケースが非常に多いからです。そこでわたしが提唱・実践しているのが「目的工学」という考え方です。今日はそんなお話ができたらと思います。

画像: 多摩大学大学院教授 紺野登氏

多摩大学大学院教授 紺野登氏

――ありがとうございます。本日もう1人の登壇者は日立の研究開発グループから、社会イノベーション協創統括本部 統括本部長の森正勝です。


紺野先生、よろしくお願いします。わたしは研究開発の立場で、お客さまと一緒に新しいソリューションを生み出して社会イノベーションを実践していくという取り組みをしています。もともと、いわゆるデジタルテクノロジーを使ってお客さまの課題を解くソリューションの研究に携わってきました。お客さまに価値を届けるために何ができるかを模索する中で感じたのは、技術はあくまでも手段であって、大事なのは目的だということです。また、日立でイノベーションの創出をめざしているリサーチャーやデザイナーたちとの研究開発のベクトルを合わせるためにも、目的というものは非常に大事です。そういったところを今日はいろいろと勉強させていただきたいと思っています。

画像: 日立製作所 研究開発グループ 森正勝

日立製作所 研究開発グループ 森正勝

「ソーシャル」と「ソサイエタル」という、イノベーションの両輪

――それでは1つめの問いに参ります。「社会イノベーションの概念とは?」。いかがでしょうか、紺野先生。

紺野
非常に広い概念ですが、大きく2つの要素から成ることがだんだんわかってきました。それが「ソーシャル(social)」と「ソサイエタル(societal)」です。

貧困問題を例にとりましょう。着る服がない、食べるものがないといった目に見える現象に注目して世界を変えていこうという動きが、ソーシャルイノベーション。ソーシャルアントレプレナーの方々の取り組みに代表されるものです。一方で、問題の背景にある社会システムや社会インフラに着目し、貧困問題そのものが生じないよう社会の構造を変えていこうという動きを、ソサイエタルイノベーションと呼んでいます。この両方が相互に作用することによって、社会イノベーションが具現化されていくのです。

ソサイエタルイノベーションの典型例として、都市を1つの大きなフィールドとして捉える「アジャイルシティ」という考え方があります。専門家だけで初めからガチっと街づくりを計画するのではなく、市民と専門家が一緒に考えて都市をデザインし、ソサイエタルイノベーションを起こしていく。おそらく日立さんのような企業が、その役割を担うべきなのではないでしょうか。


先生の今のお話、とても腑に落ちました。研究開発の立場にいる我々としては、社会で起きている現象を解くうえで、お客さまと一緒に考えるということを重視しているのですが、目に見える課題を解決するというアプローチだけではなく、課題の根本を直すことの重要性を日々痛感しています。そこで活きるのが、例えばデジタルトランスフォーメーションのように世の中のしくみを変えられる動きですが、ソーシャルとソサイエタル、この2つのコンビネーションでもって実践していくことが非常に大切なのですね。

また、アジャイルシティのお話も出ましたが、我々も「フューチャー・リビング・ラボ」という取り組みを通じて、地域の未来を地域の方々と一緒につくっていくという社会イノベーションにトライしています。そうしたプロジェクトを進めるにあたって、自分たちが今どこをめざして何をやっているのかを、その都度理解することの大事さを改めて感じました。

画像1: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その1】社会イノベーションとは何か?(前篇)

紺野 登(こんの のぼる)
多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授。一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)Chairperson理事、一般社団法人フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン(FCAJ)代表理事、エコシスラボ株式会社代表。早稲田大学理工学部建築学科卒業、博士(経営情報学)。デザイン経営や知識創造経営、目的工学、イノベーション経営などのコンセプトを広めたほか、組織や社会の知識生態学をテーマにリーダーシップ教育や組織変革、ワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。また、FCAJやトポス会議などを通じてイノベーションの場や世界の識者のネットワーキング活動を行っている。2004年〜2012年グッドデザイン賞審査員(デザインマネジメント領域)。著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、『知識デザイン企業』、『知識創造経営のプリンシプル』(野中郁次郎氏との共著)など多数。

画像2: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その1】社会イノベーションとは何か?(前篇)

森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。

画像3: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その1】社会イノベーションとは何か?(前篇)

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

「第2回:社会イノベーションとは何か?(後篇)」はこちら>

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