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株式会社MM総研 代表取締役所長 関口 和一氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋 俊英
ポストコロナの経済、社会の変化に備えて、事業ポートフォリオの組み替えが重要になると指摘する関口氏。M&Aの活用だけでなく、事業における「協調領域」を明確にして、同業他社とも協業しながら、賢い戦い方をしていくべきだという。今後、期待される自動運転や3Dプリンティング、ドローンなどの新産業を進める上でも、こうした取り組みがカギを握るだろう。

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「第3回:産業資本主義からデータ資本主義へ」はこちら>

M&A戦略とポートフォリオの組み替えがカギ

八尋
私が以前に在籍していたソニーは、技術の会社でありながら、M&A戦略で事業を拡大してきました。M&Aは、これからのデータ資本主義の時代にさらに重要になるでしょう。M&Aを活用してグローバルに仲間を増やしていくことも、日本が生き残る一つの戦略だと思うのですが、いかがでしょうか。

関口
おっしゃるようにM&Aは有用なツールですが、実現すべきはビジネスポートフォリオの組み替えです。ソニーの場合、アメリカのCBSレコードやコロンビア・ピクチャーズを買収してコンテンツ事業に乗り出したり、保険事業を始めたり、さらにはPlayStationなどエンターテインメント事業に進出するなど、M&Aや合弁事業をうまく使って事業の枠を広げました。もはやソニーという会社は、電機メーカーというよりもエンタメ企業であって、Netflixなどと同じカテゴリーに入ると言えます。M&Aを梃子にしながら、アナログからデジタルへの切り替えをうまくやったわけですね。

このような事業ポートフォリオの組み替えを可能にするには、日本の終身雇用制度から見直していく必要があります。特に大企業では、事業に成功した人が出世してそのまま社長や会長を務めるケースが多い。すると後に続く人たちはそうしたトップに忖度して、いつまでも古い成功モデルに固執してしまいがちで、改革の妨げになります。DXを進めるということは従来の産業構造の変革を促すことであり、早めに業態の転換やポートフォリオの組み替えを進める必要があります。

画像: M&A戦略とポートフォリオの組み替えがカギ

「競争領域」と「協調領域」を明確に

関口
ビジネスの分野では競争は必要ですが、日本における競争は、製造業の例に見られるように、同質的な競争に陥りがちです。切磋琢磨と言えば聞こえはいいですが、同じようなモノをつくって、お互いに張り合ってきたことが結果的に日本の成功をもたらしました。しかし、そこでいったん成功モデルができると、それを壊したがらないのが問題です。

アメリカでも、IBMに代表される東海岸の大企業は日本企業と同様にデバイスの製造からサービス、販売までを含めた垂直統合型のビジネスモデルを展開して成長してきました。これに対して、西海岸のシリコンバレーでは、技術の各レイヤーごとに強みを持つ企業が集積することで成功を収めてきたと言えます。例えば、マイクロソフトがOSをつくるのなら、別の企業はその上のネットワークのレイヤーで、さらに別の企業はまたその上のアプリケーションのレイヤーでトップをめざすといったように、各レイヤーごとにNo.1をめざしてきたのです。パソコンやインターネットの産業がそのいい例ですが、結果として、西海岸全体としての産業コンプレックスが形成され、それがアメリカのIT産業の強みとなりました。

言うなれば、アメリカの企業は「競争領域」と「協調領域」を上手に切り分けた競争戦略を取っているわけです。これは最近のドイツなどでも見られます。例えば、自動運転車などに必要な3Dデジタルマップの開発を、日本はそれぞれ自動車メーカーの系列会社が別々に行ってきましたが、ドイツではアウディ、BMW、メルセデスベンツが共同でノキアからHERE Technologiesというデジタルマップ技術会社を買収して、共通のデジタルマップの開発に取り組んでいます。このように、競争領域と協調領域を切り分けて、無駄な戦いをしないことが賢明なやり方ではないでしょうか。ようやく日本もこの動きに追随し、2020年に三菱商事とNTTが共同でHERE Technologiesの株式3割を取得し、株主となりました。

これから伸びる産業へ踏み出すべし

八尋
ドイツには、欧州最大の科学技術分野における応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構があるのも大きいですね。この機関が、将来の科学技術の進歩を睨みながら、半官半民の運用により産学連携をうまくリードしています。日本にもこうした機能が必要かもしれません。

関口
フラウンホーファーのような橋渡し役は有用です。しかし問題の本質は、日本の大企業がリスクを取りたがらないことにあります。今後、伸びる産業としては、自動運転、3Dプリンティング、ドローン、さらには、私たちが子どもの頃に夢見た空飛ぶ車などがあります。技術の実装分野としては、スマートシティ、空、宇宙などですが、共通して言えることは、いずれも事故などを伴う危ない分野だということです。しかし、日本企業は技術があるにもかかわらず、総じてこうしたリスクのある新規分野へはすぐに進出したがりません。ドローンがその典型で、そうこうしているうちに、中国勢に先を越されてしまいました。

空飛ぶ車も最近は現実味を帯びてきていて、インテルはドイツのエアモビリティ開発企業のボロコプター(Volocopter)に出資していますし、中国のドローンメーカー、億航智能(イーハン)は、国内外で有人ドローンの実用化を推進しているところです。

八尋
コロナ禍を機に、デジタルやリモートが加速し、地方への移住が進むなら、空飛ぶ車での通勤も単なる夢物語ではありません。やはり後戻りすることなく、ポストコロナに向けた新しい取り組みをしていくべきですね。

関口
日本の強みとしては、観光産業やサービス業における「おもてなし」、つまりホスピタリティがあります。アニメや伝統工芸などに見る繊細な表現技術も強みの一つです。こうしたおもてなしの精神や文化をいかに産業化できるか、というのも大きな課題でしょう。日本の企業には、そうした強みを意識して、ぜひ果敢にチャレンジしてもらいたいですね。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像1: ポストコロナのビジネス
【第4回】産業構造の転換に備え、戦い方も転換を

関口和一

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社論説委員。1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。88年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。89年英文日経キャップ。90~94年ワシントン特派員。産業部電機担当キャップを経て、96年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間は論説委員として主に情報通信分野の社説を執筆。2019年に株式会社MM総研代表取締役所長に就任。法政大学大学院客員教授、国際大学グローコム客員教授を兼務。NHK国際放送コメンテーター、東京大学大学院客員教授なども務めた。

画像2: ポストコロナのビジネス
【第4回】産業構造の転換に備え、戦い方も転換を

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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