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株式会社MM総研 代表取締役所長 関口 和一氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋 俊英
世の中がデータ資本主義へ移行する中、いかに多くのデータを集め、それをうまく活用できるかが、国力を決しつつある。日本はデータ利活用では後れを取ったが、アジア諸国からは、ビジネスパートナーとして期待もされている。日本が国際社会の中で存在感を示すためには、こうした期待を梃子に、自由貿易のルールメイキングに貢献することが重要になるという。

「第1回:コロナ禍を契機に変わる日本社会」はこちら>
「第2回:米中対立における日本の立ち位置」はこちら>

データ資本主義を支える基盤づくりが急務

八尋
現在、短期的にはコロナ禍の影響、中長期的には、前回話題にした米中対立など、難しい局面にあるわけですが、さらに長期的な視点で今後、日本が衰退しないためには、どのような取り組みが必要だとお考えですか?

関口
これまでの産業資本主義では、モノづくりを支える工場設備をまかなう資本力の大きさが、競争を左右してきました。ところが現在はデータ資本主義へ移ってきていて、データをどれだけ持っているのか、それをいかにコントロールできるのかによって勝敗が決まるようになりました。アメリカはGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される民間のIT企業が中心となり、一方、中国は国策により国がデータを管理することで、データ資本主義へ突き進んでいます。

このようにデータの効率的な利活用を促すためには、中国のような国による管理、あるいはGAFAモデルに代表される民間主導型のデータ管理のように、国もしくは民間企業による強力な牽引が必要です。日本はDFFT(Data Free Flow with Trust=信頼ある自由なデータ流通)を標榜し、データ流通を促す試みを進めていますが、日本の特徴を生かしつつ、さらなる対策が望まれます。

国際的なヘゲモニー(覇権)の観点から見ると、19世紀は英国が金本位制を基盤に世界の銀行の役割を果たしつつ、植民地支配により覇権を築きました。20世紀に入ると、アメリカが電力と石油を武器に工業生産力を高めてドル本位制を構築し、英国からヘゲモニーを奪います。その後、20世紀後半では、日本が不動産バブルを梃子にしてアメリカの企業や不動産などを盛んに買ったわけですが、5年もしないうちにバブルを崩壊させ、ヘゲモニーを手放してしまいました。

そして今、そのヘゲモニーは中国に移りつつあります。すでに中国はデジタル人民元の大規模実証実験を行うなど、デジタル通貨によって一大中国経済圏の基盤を築きつつあります。日本はそうした状況への備えを早急に進めていかなければならないでしょう。

画像: データ資本主義を支える基盤づくりが急務

パートナーとしての日本への期待

八尋
日本は早々にヘゲモニーを手放してしまったということですが、一方で、アジアやEUの国の中には、アジアの拠点を中国ではなく、日本に置きたいと考えている企業も少なくありません。

総合的に見ると、世界経済に占める日本のGDPのシェアは下がってきているものの、安定した情勢も手伝って、ビジネスパートナーとして期待されているのでしょう。そう考えると、余力のある今のうちに、アジアの企業の株主になるなど、うまくパートナーシップを結んでいかなければならないと思います。

関口
私が所長を務めるMM総研の調査でも、日本に期待を寄せる結果が出ています。例えば、香港では情勢不安を背景に、データセンターを海外に移す動きが出てきているのですが、その移転先候補として日本が挙がっているのです。よくも悪くも日本は政治的に安定していて、イデオロギーの押しつけもないことから、好印象を持たれているのでしょう。それはうまく活用すべきです。

一方、日本の経営者たちは中国やアジア諸国について、30年前とは状況が違うということを肝に銘じなければなりません。かつてのように「技術を教えてあげる」といった上から目線では、まったく噛み合わないでしょう。日本は製造業で大成功を収めましたが、そもそも東アジアや東南アジアには手先が器用な人が多く、日本人に限らずモノづくりには長けています。さらに、サイエンス教育に注力する中国は、製造業のハードのみならず、ソフトウエア開発にも力を入れています。そう考えると、ハードに強くソフトに弱い日本は、ハードに弱くソフトに強いインドと組むのが最適かもしれません。

自由貿易のルールメイキングに貢献せよ

八尋
日本やEUは、単に経済合理性を追求するだけでなく、SDGsなどの社会課題にも向き合いながら、国際ルールに則って自由貿易を営んでいます。そういう意味では、アジア諸国からすると、日本やEUの方が安心して付き合えるということはあるのでしょう。その分、チャンスもあります。

一方、アメリカはバイデン政権になって、今後、どう変化していくと思われますか?

関口
トランプ前大統領が中国に対して振り上げた拳をバイデン政権がそのまま下ろすことはないと思いますが、ゆくゆくは中国と仲良くやっていくことになると考えられます。したがって、日本は米国と中国の両方にいい顔をしていると、最後に梯子を外されてしまう可能性があります。

八尋
そうなると、やはり日本は、国際標準や国際的な取り決めを遵守し、紛争などの際には仲裁に入るといった形で、国際社会に貢献していく他ないように思います。

関口
おっしゃる通りです。日本やEUは自由貿易のルールメイキングを担っており、ある意味、守護者的な立場にあります。ただし自由貿易の守護者になるためには、自国にどれだけ大きな消費市場を擁するかがカギとなります。アメリカが自由貿易の守護者たり得たのも、自国が巨大な消費国であったからこそです。今、世界最大の消費国は中国です。その中国が消費国としてのパワーを活用して、圧倒的な勝者とならないよう、うまく市場をコントロールしていくことが、今後、自由貿易の守護者に求められる大きな課題だと言えます。

八尋
日本は、経済合理性を追求する一方で、1970年代以降、対米貿易摩擦の際には輸出自主規制を行うなど、統制経済とも言える対策を実施してきた経験もあります。こうしたさまざまな経験を活かしながら、ルールメイキングなどに貢献し、成熟した国家として国際社会の中で存在感を示していくことができれば、道は開けるように思います。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像1: ポストコロナのビジネス
【第3回】産業資本主義からデータ資本主義へ

関口和一

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社論説委員。1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。88年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。89年英文日経キャップ。90~94年ワシントン特派員。産業部電機担当キャップを経て、96年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間は論説委員として主に情報通信分野の社説を執筆。2019年に株式会社MM総研代表取締役所長に就任。法政大学大学院客員教授、国際大学グローコム客員教授を兼務。NHK国際放送コメンテーター、東京大学大学院客員教授なども務めた。

画像2: ポストコロナのビジネス
【第3回】産業資本主義からデータ資本主義へ

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

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