「第1回:15年目を迎えた、日立の社内ネットワーク活動」はこちら>
「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>
「第3回:思考停止からの再起動」はこちら>
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「挑戦」と「応援」の自主性
2021年で、Team Sunriseは発足15年目を迎える。浮き沈みはありながらも、なぜこれほど長く活動を続けることができたのか。その一因として、代表の佐藤雅彦は「自主性」をキーワードに挙げる。
「Team Sunriseの場合、自主性にも2種類あります。自身がアイデアを生み出して『挑戦する』自主性と、素晴らしいアイデアや才能を持っているだれかを『応援する』自主性です。挑戦と応援がともに自主的に行われることで、我々事務局にたくさんの相談が寄せられるようになり、Team Sunriseという社内ネットワークがうまく機能し続けています」
自主性という意味でもう1つ見られる特徴は、日立グループ内での活動にとどまらず、社外にもネットワークをつくるメンバーの存在だ。例えば、Team Sunriseのスピンアウト活動として、社外のイノベーターとともに街づくりをはじめとするさまざまなテーマを考える「SIGN(Social Innovators Global Network)」を立ち上げたメンバーがいる。自発的に外の世界に飛び出し、学識経験者や大企業、ベンチャー企業のビジネスパーソン、学生などとつながることで新たな刺激をもらい、さらにその知見をTeam Sunriseにフィードバックしている。
さらに佐藤は、Team Sunriseの活動継続の要因に「他人事→私事→仕事」というプロセスの存在を指摘する。
「どんなに著名な方の講演を聞いても、聞き手にとっては、初めは他人事に過ぎません。でも憧れを持ち続けることで、その方が取り組んでいる活動をいつか私事として捉えるようになる。Team Sunriseでのイノベーションプロボノや個人のネットワークを通じてその『憧れ』を突き詰め、新しいアイデアを考えつくようになる。すると、『それ、ビジネスプランコンテストに応募してみたら?』『うちの部署と共同で顧客に提案してみない?』と応援してくれる人が現れ、やがて仕事になっていく。そんなケースが実際に生まれています」
部下をして有言実行たらしめる
第3回で触れたコミュニティ活動の思考停止に悩んだ頃、佐藤らは日立の企業文化をあらためて学び直す勉強会を開いた。その際に教材とした文献に書かれた一文に、当時佐藤は深く感銘を受けたと振り返る。
「“部下をして有言実行たらしめる”。要するに、部下が思わず有言実行してしまうような人間になりなさいというメッセージです。日立を創業した小平浪平が、そういう人物だったそうです。
他者を動機付ける手段の1つに、インセンティブがあります。当時注目されていた成果主義は、まさに給料を上げるというインセンティブによる動機づけを目的としたわけですが、逆にインセンティブがなければ行動しなくなるという面もあります。大事なことは、他者をどのよう動機づけるかではなく、どのようにすれば、他者が自らを動機づける条件を生み出せるか。これはモチベーション理論の大家であるエドワード・L. デシという心理学者の言葉です。
『部下をして有言実行たらしめる』という姿勢は、まさにそれと合致しています。そして、Team Sunriseの活動にも通じるものがある。挑戦と応援の自主性をサポートする文化が、実は日立では100年も前から大事にされてきた。そう考えると、Team Sunriseの活動は日立の価値観にぴったりはまります。だからこそ長く続いているのかもしれません」
ゆるいネットワークを活用して「原石」を見つけ出す
企業がイノベーションを起こすうえで、Team Sunriseのような社内ネットワークはますます不可欠になると佐藤は説く。
「経営学の分野でも『ゆるいネットワークの活用』が注目されていますが、個人のコミュニティやネットワーク活動との関わり方にはIN/OUT型とON/OFF型の2つがあると思います。IN/OUT型は、先にも触れた、利害でつながる関係に近い。活動に深く関わる分、成果を生み出す力もつくのですが、コミュニティにおいて担うべき義務も生じます。もう片方のON/OFF型は、SNSで言うところのフォロワーに近い。つながりを保ちつつ、ONとして積極的に活動するときと、忙しいので少し距離を置いて活動をOFFにするときを、個人で選べるような関わり方です。
わたしはうまく行かないコミュニティやネットワーク活動もたくさん経験しましたが、活動に成果を求めすぎると義務のウェイトが重くなり、いつしか活動すること自体が目的となり、形骸化してしまうように思います。そうではなく、成果はあくまでも本業で生み出す。そして、共感をベースにしたON/OFF的な関わり方のネットワークと本業との間のハシゴを昇り降りするように、Team Sunriseのようなつながりと自分の所属部署とを上手に使い分けることが、企業におけるイノベーションのタネを探し育むことに役立つしくみとなって行くのではないでしょうか」
もともとはSEとして日立に入社した佐藤だが、幾度かの異動を経て、2018年からは研究開発グループに所属。同時に東京工業大学大学院の博士課程でイノベーション科学を専攻している。15年にわたりTeam Sunriseが歩んできたプロセスを整理しながら、業務としても学業としても、企業がイノベーションを起こせるしくみを日夜研究している。
「Team Sunriseが取り組んでいるイノベーション活動を、まずは日立に、よいしくみとして定着させたい。そして、よき事例と呼ばれるように発展させて、世の中にモデルとして活用していただきたい。そうなれば、日本に限らず世界中で新しい事業が生まれ、人々がより幸せになる。そう信じています」
CASE STUDY
迫田雷蔵(日立アカデミー 取締役社長)
Team Sunriseに関わるようになったのは2017年頃です。部下がTeam Sunriseに参加している縁で代表の佐藤さんたちとお話しする機会があり、その活動に深く共感したのがきっかけです。社員研修事業を展開している当社は「人がつながり、学びが触発されるワールドクラスの知の拠点となる」をビジョンに掲げています。1つの組織に閉じず、外部の人たちとつながっていくという点で、Team Sunriseのめざす方向性に非常に近いと感じています。
日立グループはさまざまなステークホルダーとの「協創」による社会イノベーションを掲げていますが、もともとは自前主義の考え方が強い技術者集団ですから、必ずしも協創は得意とは言えません。だからこそ、Team Sunriseのように組織の壁を越えて人々がつながる、草の根的なネットワークが不可欠なのです。
日立グループのアイデアや知見がTeam Sunriseに集まり、そして世界へと広がっていく。ハブ空港のような存在として、Team Sunriseが機能していくのではないでしょうか。同時に、従業員一人ひとりのモチベーションに火をつける活動でもあると思うのです。日立グループ全体がジョブ型雇用にシフトする中で、自分のこれからのキャリアを自分の頭で考え、いろいろなことに一人称で自発的に取り組むことが求められる。それを可能にするのが、Team Sunriseという一種のインフラではないかと。
今、日立はグローバルで通用するリーダーの育成に取り組んでいます。そのコンセプトは「Purpose Driven Leadership」。ここで言う「Purpose」とは、「志」です。自分がやりたいこと、会社がやるべきこと、社会が求めること、この3つが重なる部分にこそ志の源泉がある。志を持つ人でないと、本物のリーダーにはなりえません。また、いろいろな経験を積み、かつ、経験からアジャイルに学ぶことができ、自分をつくり変えていくことをためらわないことも、リーダーに求められる資質です。Team Sunriseの活動の中から、そういう方がどんどん生まれてくることを期待しています。
佐藤 雅彦(さとう・まさひこ)
NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部などを経て、2018年より日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」(旧称:グローバル若手会)の代表を務める。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程に在学中。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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