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活動の目的を再定義することで、停滞期を乗り越えた日立の社内勉強会「Team Sunrise」。2019年にはついに登録者が2,000名に達し、ますます社内から注目を集め、活動は順風満帆に見えた。しかし、絶頂にあった2020年3月、コロナ禍で自主イベントの延期を余儀なくされる。彼らが活路を見出したのは、オンラインを駆使した新しいイノベーション活動だった。

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「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>
「第3回:思考停止からの再起動」はこちら>

幻に終わった第100回記念文化祭

日立の佐藤雅彦が率いる社内勉強会「Team Sunrise」の登録者は瞬く間に1,000人を超え、勉強会には平日にもかかわらず300人ものメンバーが参加。2019年には新卒社員の入社式に代表の佐藤雅彦が登壇しTeam Sunriseの活動を紹介するなど、社内でのプレゼンスは日増しに高まっていった。

画像: 2019年度入社式で講演する佐藤雅彦。

2019年度入社式で講演する佐藤雅彦。

2019年は日立の研究開発グループにイノベーション拠点「協創の森」が設立されたこともあり、全社的にもイノベーションに向けた機運が高まっていた。Team Sunriseも月2回というハイペースでアイデアソン大会やハッカソン大会を開くなど盛り上がりを見せ、いつしか登録者は2,000人を数えるまでになった。そして迎えた2020年3月。前身のグローバル若手会から数えてちょうど100回目の勉強会を、日立製作所の社長も参加する記念イベントとして開催する準備を整えていた。

「メンバーが気軽に楽しめるよう『第100回記念文化祭』と銘打ちました。Team Sunriseの盛り上がりと実績に共感していただいた社長や役員、OBにも一個人として参加いただき、これまでの活動の振り返りやメンバーが所属する各社の活動紹介などを行う計画でした」

画像: 社長の東原敏昭(右)。2015年の「Make a Difference!」入賞を機に、佐藤雅彦(中央)らTeam Sunriseのメンバーは東原との直接対話の機会を得ていた。

社長の東原敏昭(右)。2015年の「Make a Difference!」入賞を機に、佐藤雅彦(中央)らTeam Sunriseのメンバーは東原との直接対話の機会を得ていた。

しかしこの頃、コロナ禍が日本を襲う。ギリギリまでなんとか開催の道を模索した佐藤らだったが、リアルな場に何百人もの従業員が顔をそろえるイベントの開催は現実的ではないと判断。本番1週間前のことだった。

「三密回避や在宅勤務が当たり前の状況になって初めて、自分たちがTeam Sunriseでやってきた活動がFace to Faceを前提としていたことにあらためて気づきました。それまで頻繁に開催して盛り上がっていた、アイデアソンやハッカソンもできなくなってしまった。新しいイノベーション活動を始める必要に迫られていました」

距離、時間、情報量の制約を超える

「オンラインとデジタルを活用することで、距離、時間、情報量の制約を超えた『バーチャルTeam Sunrise』にチャレンジしよう」

これは、コロナ禍での活動再開をめざし、佐藤らが打ち出したTeam Sunriseの方針だ。

画像: 距離、時間、情報量の制約を超える

まず、このチャレンジに賛同した、日立のサステナビリティ戦略をリードする増田典生を講師に迎え、第101回の勉強会をオンラインで開催。次いで、同じくオンラインでUXデザインの専門家を社外から招き、第102回の勉強会を開催した。これを機にTeam Sunriseの活動の幅を広げたのが、動画の活用だ。ビデオ会議アプリを使って配信された勉強会は録画され、Team Sunrise が情報共有に使用しているMicrosoft Teamsにアーカイブとしてアップロードされる。配信日に参加できなかったメンバーも後日視聴できるだけでなく、参加者も復習に活用できる。「メンバー間で共有できる情報量が格段に増えました」と佐藤は手ごたえを語る。

そのほか、社内の動画サイトにてオンライン番組「Good Morning Sunrise!」を配信。Team Sunriseに関係する注目の人物をゲストに招き、佐藤自らインタビューを行う15分番組だ。日立グループの従業員ならだれでも視聴が可能なため、ときには経営幹部からのアクセスもあるという。

画像: 社内限定のオンライン番組「Good Morning Sunrise!」では、Team Sunriseゆかりのキーパーソンを招き、佐藤(左)自らインタビューを行っている。右は日立製作所 サステナビリティ推進本部の増田典生。

社内限定のオンライン番組「Good Morning Sunrise!」では、Team Sunriseゆかりのキーパーソンを招き、佐藤(左)自らインタビューを行っている。右は日立製作所 サステナビリティ推進本部の増田典生。

Microsoft Teams上のコミュニティサイトには約1,000人が登録し、新事業のアイデア検討の仲間集めやイベント開催などの相談が気軽にやりとりされている。また、オンラインの活動にシフトしてから「アイデアの原石」の応援者向け窓口が拡大され、国内だけでなくアメリカや中国など18拠点に及んでいる。

リアルイベントよりも集まる人、声、アイデア

存続が危ぶまれた事態から、再び動き出したTeam Sunrise。復活を印象づけたのが、2020年10月に開催された第103回の勉強会だ。

「ある女性メンバーの提案で、『カスタマーサクセス』をテーマに有識者を外部から招きました。彼女が所属する事業部のバックアップのもと、Team Sunriseとのコラボ企画という形で、グループ会社の力も借りながらオンラインで開催しました。リモートワークが本格化した中で企画から集客用のチラシ制作、運営までしっかり時間をかけて準備したおかげで、実に48のグループ会社から368名が参加しました。遠くはヨーロッパなど海外からの参加者もいました」

画像: イベントにはカスタマーサクセスの有識者である株式会社ABEJAの丸田絃心氏を招き、日立のカスタマーサクセス普及を推進する渡辺薫との対談を行った。

イベントにはカスタマーサクセスの有識者である株式会社ABEJAの丸田絃心氏を招き、日立のカスタマーサクセス普及を推進する渡辺薫との対談を行った。

海外からも勉強会に参加できるのは、オンラインならではだろう。このイベントで、佐藤はオンライン活動のメリットを再認識することになる。

「アンケートによる生の声を集めやすくなりました。イベントで扱ったテーマに関する意識調査や今後の活動に対する要望などを、Microsoft Teamsで各自の好きなタイミングで回答できる。とにかくメンバーからのリアクションが増え、コミュニケーションはむしろ活発化しています」

探り探りで行ってきたオンラインでの活動で蓄積した運営ノウハウを、佐藤らはテンプレート化してその後の活動に役立てている。ちなみに、急遽取り止めになった第100回記念文化祭は、中止ではなく敢えて延期という扱いになっている。

「いずれリアルなイベントができる状況になったら、そのときはあらためて盛大に祝いたい。100回記念は、それまで取っておこうと思います」

「第5回:Team Sunriseはなぜ続くのか」はこちら>

CASE STUDY

画像1: リアルイベントよりも集まる人、声、アイデア

大澤郁恵(日立製作所)

2016年に入社し、社会イノベーション事業推進本部という部署に所属しながら、社内における「カスタマーサクセス(CS)」活動の加速を目的としたコミュニティ“Success Lounge”を、社内ポータルとして使用しているMicrosoft SharePoint内に立ち上げるなど、CSの社内普及に取り組んでいます。従来は製品を買っていただくことがビジネスのゴールでしたが、今、サブスクリプションサービスに代表されるように「モノづくり」から「コトづくり」へシフトが進んだことで、製品やサービスをいかに快適に利用していただき、契約を更新していただくかが重視されるようになりました。例えば、お客さまがそのサービスをお使いになることで売上目標を達成できる。つまり、お客さまの成功体験づくりに貢献する。そのうえで、自社の収益向上を実現すること。それがCSです。

まずは社内におけるCSの認知向上を図るにあたり、e-ラーニングや社内研修、Webを使用した情報発信などいろいろ検討したのですが、全体に浸透するまで時間がかかるのが懸念でした。そこで頭に浮かんだのが、わたしが参加しているTeam Sunriseとのコラボです。業務以外のことにも関心を持つほど熱量が高く、所属する組織において影響力の高い人が集まるTeam Sunriseには、まさにCSの大切さを伝えるべきターゲット層がそろっています。さらに、オンラインでの開催なら参加のハードルも下がるのでうってつけだと思い、わたしに企画と司会進行をまかせてもらいました。

画像2: リアルイベントよりも集まる人、声、アイデア

大澤が企画したオンライン勉強会における対談の様子。左から、日立製作所のCS活動を推進する渡辺薫、講師の株式会社ABEJA 丸田絃心氏、司会進行役の大澤。

勉強会には日本のCSをリードする丸田絃心様にご登壇いただきました。営業職をはじめ研究職や企画部門、SEなどさまざまな職種のメンバーが視聴し、時間内に答えきれないほどたくさんの質問をもらいました。さらに、イベント後「ぜひうちのプロジェクトでもカスタマーサクセスに取り組みたい」といった相談が来るなど、想定していた以上の反響に大きな手ごたえを感じています。なかには、実際にCS活動をともに行い、お客さまからよい評価をいただいているプロジェクトもあり、社内普及が少しずつ前に進んでいます。

わたしがTeam Sunriseの一員になったのは2019年です。きっかけは、Team Sunriseが企画した社内のアイデアソン大会への参加でした。それまで他部署やグループ会社との接点が限られていたのですが、Team Sunriseの仲間と一緒にビジネスアイデアを練っていく中で、組織の異なる人とコミュニケーションを取る際の障壁が格段に低くなりました。おかげで、新しいネットワークをつくることにも動じなくなりました。これからもCSの普及にTeam Sunriseのネットワークを駆使したいですし、Team Sunriseを通じていろいろな人とカジュアルにつながり、業務に活かせるひらめきを生み出せるよう取り組んでいきたいです。

画像: イノベーションを育てる社内ネットワーク「Team Sunrise」
【第4回】コロナ禍で挑む「イノベーションのDX」

佐藤 雅彦(さとう・まさひこ)

NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部などを経て、2018年より日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」(旧称:グローバル若手会)の代表を務める。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程に在学中。

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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