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高山善光寺をモデルケースに、賛同してくれるお寺を増やしながら、お寺ステイは宿泊数、売上を伸ばしていった。ところが2020年に起こった新型コロナウイルスの感染拡大が、同社のビジネスにも巨大なインパクトを与えた。訪日外国人を中心とした顧客が激減し、新たなビジネスモデルが必要になったのだ。この状況を前に思うこと、そして今後の戦略とは。

「第1回:地域社会の“ハブ”であるお寺の活性化をめざす」はこちら>
「第2回:好機をつかむには、『勝てる場所で勝負する』」はこちら>

売上は9割減。それでも諦めなかった

ほかでは得難い体験が人気を博し、外国人を中心にお寺ステイの利用者は順調に伸びていた。興味を示してくれるお寺も増え、ビジネスは軌道に乗り始めたところだったが、思わぬ要因に足をすくわれる。新型コロナウイルスの感染拡大である。

「利用者の9割以上が外国人だったため、訪日客が激減したことで、宿泊数も売上も従来比1ケタ%まで落ち込みました」

しかし、ものごとの見方は1つではない。ある角度から見ると絶望的でも、視点をずらせば別の可能性が見えることもある。今、自分たちにできること、すべきことは何かを徹底的に考えるなかで、見えてきたのが日本人向けのサービス拡充だった。

「利用者こそ外国の方が大半ですが、お寺ステイは決して外国人向けのサービスとして企画したものではありません。日本人にもっとお寺を体験して、知って欲しいし、そこで心と身体を調え、健康で幸せになって欲しいという想いがずっとありました。今こそ、この想いに立ち返るべきではないか。コロナ禍は、『自分たちがほんとうにやりたかったことは何か』を見つめ直すきっかけになったと思います」

画像: 株式会社シェアウィング 代表取締役社長の佐藤 真衣氏(※取材はリモートで実施)

株式会社シェアウィング 代表取締役社長の佐藤 真衣氏(※取材はリモートで実施)

また、コロナ禍のビジネス継続を図る上では、テクノロジーを活用することの重要性が増している。これはシェアウィングにおいても同様だ。佐藤氏は、これからの事業の重要な方向性の1つに「オンライン化」を掲げている。具体的には、これまで全国のお寺と築いてきた関係性やネットワーク、サービス提供で培ってきたノウハウをテクノロジーと重ねあわせることで、オンライン上でも同様の体験を提供するのだ。

この方向性の下、家にいながら修行を体験できる新しいサービスとして2020年10月にサービスインしたのがオンライン宿坊「お寺ステイ CLOUD HOTEL」である。これは、お坊さんの法話、初心者向けの坐禅講座、写経・写仏などの動画コンテンツや、お坊さんとの座談会などをオンライン上で配信/実施することで、「家にいながら宿坊に泊まり、新しい習慣を身につけられる」というもの。これまでにない切り口のサービスとして、注目を集めている。

画像: 売上は9割減。それでも諦めなかった

宿坊での修行体験をオンラインで提供

夕方頃、自宅からのWebチェックインを済ませ、夜はお坊さんの法話や座禅、写経などの映像コンテンツを見ながら“静”の時間を過ごし、自己と向き合う。就寝は22時で、起床は5時30分(CLOUD HOTELからのモーニングコールも可能)。日の出とともに起き、リアルタイムでお坊さんと一緒に朝の坐禅で心を調え、朝の掃除(作務)で身体を動かして自身で朝粥を準備し、いただく。朝は、その日どう生きるかを確認する“動”の時間となる。

「修行は、オンライン会議ツールでお坊さんとつながり、直接指導を受けます。また夜には、お坊さんとゲストが集まって対話する『ヨリアイ』を、週1回ほど開催しています。こうした朝と夜の修行を基本的には連泊で35宿泊を1サイクルとして体験するのがおすすめですが、隔日、週2回などご自身のペースでもご宿泊いただけます。また、1週間のプチ修行、1泊の体験修行も用意しています。リモートワークが続き、外出も人と会う機会・対話も減りがちな今だからこそ、人々に求められる体験の場を用意したつもりです」

「お寺という場の力とテクノロジーを組み合わせた『Temple Tech』の一例である、このお寺ステイ CLOUD HOTELのサービスを通じて生活習慣を変えることで、『心身の調整』『移動や感染ストレスのない旅気分を味わう』『修行体験によるセルフマネジメントで免疫力を高める』などの実現をめざしています」

モットーは“強く・やさしく・面白く”

Temple Techには今後も注力していく。その一例として、お寺をリモートワークや研修などの場にしてもらう「寺ワーク」もサービス提供を開始した。Wi-Fiやホワイトボードなど、リモートワークに必要な設備一式を整えたお寺は、貸し切りによる合宿も可能だ。普段と異なる環境に自らを置くことで、斬新なビジネスアイデアが生まれる可能性もある。サービスインからまだ間もないが、多くの問い合わせが寄せられているという。

画像: モットーは“強く・やさしく・面白く”

「振り返ると、ベンチャーキャピタル時代の先輩の言葉がずっと支えになっている気がします。『“強く・やさしく・面白く”、この順番がとても大切だ』とその先輩は話してくれました。確かに、強くなければやさしくなれないし、やさしいからこそ面白いこともできる。面白いことをしている中で多くの仲間にも出会い、さらに強く、やさしくなることもでき、このサイクルを回しながら人は成長していくのだと思います」

「若い頃は事業と商売が面白さの源泉でした。今も変わらず事業性やビジネスへの関心、こだわりは強いですが、人のため、社会のためになることがやりたい、50年・100年残していきたいと心から思える事業を行いたい、と感じる気持ちが強くなりました。コロナ禍によって『何を提供するか』『どう過ごしてもらうか』という事業の本質に、あらためて目を向けることができました」

「面白さを感じられる幅が広がって、より大切なことに気づいたという感覚ですね。忙しい時代、ふとしたときに心身に違和感を覚える人は多いと思います。そんなときは、自分1人で解決できると思わず、頼れる場所や自分らしくいられる場所があるかどうかが大切だと思っています。いくつかの居場所があれば、元気で楽しく生きられる。私たちはそんな場所を提供できる企業でありたい。その活動を通じて、廃寺の減少や、地方創生といった効果を生みだしていくことができれば、非常にうれしく思います」

画像3: お寺という「場」を起点に、人の健康と幸せに貢献したい
【第3回】ニューノーマル時代のマインドシフトに対応する新事業を

佐藤 真衣

埼玉県浦和市生まれ。早稲田大学スポーツ科学科卒。学生時代のインターンシップを通じてベンチャースピリットに共感し、独立系ベンチャーキャピタルへ入社。ライフスタイル分野の投資先発掘、育成を担当。アロマ空間演出メーカーを経て、2006年、26歳でスパプランニングを行う(有)ホットマークを創業。2016年、シェアウィング株式会社を共同代表取締役として創業。お寺での体験を核としたシェアリングエコノミー事業を展開している。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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