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特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International代表 小暮真久氏 / 株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 課長代理 齊藤紳一郎
ブロックチェーンという技術は、ITやエンジニアの世界にとどまっているうちはイノベーションにはつながらない。そのためには、自社内で議論し、自社内でサービスを考えていくという従来のビジネスのあり方を見直す必要がある。もっと組織や世代の垣根を取り払った環境をいかにして作るのか。二人の議論も佳境へと入っていく。

「第1回:連携というチカラ」はこちら>
「第2回:ブロックチェーンへの切実な期待」はこちら>
「第3回:ブロックチェーンの輪をどう広げるか」はこちら>

異文化の交流

小暮
日立さんは、よくハッカソンとかアイデアソンをされてるじゃないですか。そこから、何か生まれそうな感触はありますか。

齊藤
そうですね、以前と比べると社内でもいろいろやるようになってきて、組織の文化として育っているという感じはします。ただ、やはり中で閉じてやることが多いので、それをもっと外の方々を交えてやるべきだと思っています。今作ろうとしている企業間情報連携のコンソーシアムは、そういう場にしていきたいのです。もっともっと外とつながり、外に発信していく手段として、ハッカソンもどんどん企画していきたいですし、アイデアから実際の社会実装というところまでサポートしていく、そういうコンソーシアムにしたいと思っています。

小暮
そうですよね。そうやって若い人にも裾野が広がっていけば、面白いアイデアが生まれる可能性も高くなる。

齊藤
そうなんです。同じ組織の中の同じ世代の人間が集まっても、視点が同じだからアイデアなんて出てこないんですよ。それよりも、小暮さんのような違う経験をされていたり、違う業界・業種を知っている人たちが集まって議論するから、新しい視点ができてアイデアが出てくるのだと思います

小暮
そうですね。だから、社会課題とブロックチェーンというものが掛け算で出てくるような、ドラえもんのポケットのような、何かそういう仕組みが作れると面白いですよね。

齊藤
ざっくばらんに企業同士が集まって意見交換ができる、そういう場というものが、僕の知る限りないんです。特に、データを使って何かやろうと言っても、「自分から言うとデータを出さなければいけないよね」、みたいな話になりがちなので、もっとフラットに議論できる場所を作りたいんです。

画像: 異文化の交流

技術論ではなくアイデア

小暮
僕の印象として、今そういう場に集まる人たちというのがエンジニアとか技術者系の人たちが中心で、どうしても話がトピック的に技術論になっていく傾向がある。どのプロトコルがいいとか、プライベートチェーンとパブリックチェーンで何が違うのかとか、その辺の基礎がないと入りにくい雰囲気がどうしても漂っているように感じます。ノンエンジニア系の人は、やっぱり入りづらい。僕はどちらかといえばそっち系なので、その辺はちょっともったいないなと思います。

齊藤
実現する手段がブロックチェーンであるだけで、「面倒なことを解決しよう」というようなビジネスサイドの人の方が、本来はいいんですよね。

小暮
本当にそう思います。ビジネスサイドでアイデアを持っている人とか、幾つかブロックチェーンもアート系の人も出てきてるじゃないですか。もともとアーティストの人たちが、勝手に作品を売買されてしまったりするのでブロックチェーンに興味を持つというケースもあります。全然毛色の違う人たちが入ってくると、何かもっと面白い実装のケースが出てくるのかもしれません。

齊藤
そういう、自分たちの組織に閉じることなく意見交換ができる「部活」みたいな場があってもいいと思います。日立もそうですが、課題解決は得意でも、価値創造は難しい。いま必要なのは、改善ではなく、価値を創り出すことです。

小暮
なるほど、その課題を見極めるタイプももちろん必要ですが、そこからどういうふうに飛躍させて、実際の価値、企業だと収益に結び付けていくかっていうのは、またちょっと別の発想なんでしょうね。

画像: 技術論ではなくアイデア

グローバル企業の新しい動き

齊藤
TABLE FOR TWOも、それに参画することで企業が社会的価値を上げているはずなんです。それは、価値を創造していることだと思います。

小暮
確かにグローバルの潮流は、今そうなってきていますよね。企業がそういう取り組みをしないと、なかなか株価が上がらないとか、商品が売れないとか、究極で言うと時価総額が上がらないというように。これまでCSRとか、交流のための部署だけがやっていたことを、本当に経営層がきちっと取り組まないといけないという流れが、グローバルなトップ企業では起きています。

ウォールマートが、食品のサプライチェーンを全部ブロックチェーンで可視化させましょうという試みは、食品の安全性を開示していかないと、ウォールマート自体の企業価値や信頼性が向上できないからだと思いますし。

アメリカだと、名門大学の人気就職先トップ10の中に、2つのNPOとNGO(※)が入っているんです。また、アメリカのトップの金融機関では、NGOで2年間働く間給料を出すので、その2年が終わったら戻ってきて働いてもらうという制度があります。それだけ、社会的な仕事での経験やリーダーシップの価値が認められているということです。

(※) NPO『Teach for America』およびNGO『Peace Corp』世界ランキング統計局データ

例えば日立にいま入社してくる人たちも、そういう社会的なプロジェクトに関わりたい人は増えているのではないですか。

齊藤
そうですね。増えてきているとは思いますが、やはりこれまで培われた組織の中で、会社のリソースを使おうと思うと、会社と折り合いを付けるための建て付けはどうしても必要なんです。それをどう実業に、つまり利益につなげるのかという建て付けが必要で、それさえちゃんとできれば、いろいろな社会課題と向き合ってきた会社なので、技術やノウハウを提供してもらい、プロジェクトを進めていくことができます。

自前主義を越えた連携

小暮
そうですよね。だからそういう意味でも、齊藤さんが始めようとしているプロジェクトには注目しているんです。参加する企業どうしが納得の上で新しい価値を追求するということに、何かを生んでもらえそうな期待が湧いてきます。ブロックチェーンは、いろいろ話題にはなっていますが、PoC(概念実証)を越えて出てきたものって、ほとんどないじゃないですか。

齊藤
そうです、ないですね。みんなテクノロジーベースでアイデアを考えようとするから、時間がかかるんだと思うんです。本来やりたいことがあって、その中で一番ベストな今のテクノロジーのトレンドは何なのかを選んで使えばいいし、多くの会社でデータをシェアするという話であれば、証跡を管理しないと「トラブル時はどうするんだ?」と反発される。それなら改ざん耐性のあるブロックチェーンがいい、というのが合理的だし価値創造への近道だと思います。

小暮
全部自社で抱えて管理していくということではなくて、外部との連携もうまく使っていくときには、ブロックチェーンは有効ですからね。

齊藤
もうすべて自前でやる時代ではないということだと思います。

小暮
そうですよね。パタゴニア創業者の経営論「社員をサーフィンに行かせよう」じゃないですけど、やっぱり何かそういう普段と違う体験だったり、違う人と会ったりすることで、エンジニアの人でもそういう新しいビジネスのアイデアとかその事業化みたいなところに入り込んでいけると、面白いアイデアが出てくる気もします。

(撮影協力:Los Angeles balcony Terrace Restaurant & Moon Bar)

画像1: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第4回】必要なのは、技術ではなくアイデア

小暮 真久(こぐれ まさひさ)

1972年生まれ。1995年に早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。1999年、同大学修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社入社。ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。同社米国ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、先進国の肥満と開発途上国の飢餓という2つの問題の同時解決をめざす日本発の社会貢献事業「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。2007年NPO法人・TABLE FOR TWO Internationalを創設し、理事兼事務局長に就任。社会起業家として日本、アフリカ、米国を拠点に活動中。2011年、シュワブ財団・世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」(アジアで5人)に選出。同年、日経イノベーター大賞優秀賞を受賞。2012年、世界有数の経済紙Forbesが選ぶ「アジアを代表する慈善活動家ヒーロー48人」(48 Heroes Of Philanthropy)に選出。主な著書に『「20円」で世界をつなぐ仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』(ダイヤモンド社)などがある。

画像2: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第4回】必要なのは、技術ではなくアイデア

齊藤 紳一郎(さいとう しんいちろう)

株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部 課長代理 通信会社担当 メーカー系通信端末販売会社を経て2007年日立製作所入社。通信会社の基幹システム構築プロジェクト及びコールセンター等のアウトソーシングサービスの立上げプロジェクトに従事。2017年よりエンタープライズ領域におけるブロックチェーンのビジネス適用の検討に参画。Society 5.0のめざすつながる社会の実現へのブロックチェーン適用の可能性を検討中。2020年4月発足の企業間情報連携推進コンソーシアム立ち上げメンバー。

「第5回:ブロックチェーンがめざす、納豆スパゲティとは」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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