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大学卒業後は商社に就職。充実した仕事内容だったが、数年後に退職し、通訳会社を設立した。起業はこれまでの経験を生かし、等身大で始めたものだった。そして関谷さん自身も通訳者として働き始める。「自らが動いて、ビジネスをまわしていく」、彼女の描いていた夢がひとつかなった。

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通訳はお願いする側だった

——大学卒業後は商社に勤められていたそうですね。海外の取引先との商談に通訳として出張されることも多かったのでしょうか。

関谷
新卒で伊藤忠商事に入社し、ポール・スミスやブルガリなどの海外ブランドを日本に展開する部署に配属されました。海外ブランドなので、主には輸入製品の配送や通関手続きに関わる仕事から始まり、その後ステップアップして、海外のデザイナーとの商談やライセンス管理まで担当しました。伊藤忠には4年ほど在籍し、非常に充実した毎日を送りました。その後、ロレアルという外資系メーカーに入って、プロダクトマネージャーとして働きました。

伊藤忠時代には業務の一環として、通訳や翻訳の仕事はこなしていました。とは言っても、伊藤忠やロレアルにいたときは、さまざまな交渉事や事業運営が主な仕事なので、会議があるときは外部の通訳者に仕事を発注していました。英語やイタリア語、フランス語など、その時々の仕事の状況に合わせて依頼していたので、通訳者の仕事の内容については理解できていました。

等身大で始められるビジネス

——通訳会社を設立された経緯について教えてください。

関谷
当時、自分で事業をまわして、営業して稼げる人間でありたいと思っていました。それで「等身大」で始められる仕事は何だろうかと考えたときに、そこに通訳会社という選択肢があったわけです。フリーで活躍されている通訳者に登録してもらい、クライアントと結びつける役割です。何らかの事情で通訳者が来られないというときにも、私が代わりにできるものにしたかったのです。

1年間はとりあえずやってみようという気持ちでした。生活費を洗い出して、1年間は収入がゼロでも生きていけるぐらいの貯蓄はしていました。最初のうちは自分で現場に行っていました。現場に足を運ぶのは、経費節約という名目もありましたが、お客さまとのコミュニケーションが直接取れるというのが理由です。お客さまが望むことや現場がどういう雰囲気なのかがわかります。

日本企業の通訳者として立ち合うと、相手先の外国企業から、「自分たちが今度、別の会議をする際にはぜひ通訳をお願いしたい」と通訳の依頼を受けることもありました。私が現場に行くこと自体がプロモーションになり、営業に結びつくという経験をしたのです。その当時、ウェブサイトも自分で作っていたのですが、SEO対策をしたり、広告をどうしようかと考えるよりも、自ら現場に行くことのほうがビジネスチャンスを広げられるということがわかりました。

画像: 等身大で始められるビジネス

言葉にとらわれすぎない

——通訳者を始める前には通訳学校にも通われたそうですが、どのような目的からでしょうか。専門学校での学びは、ビジネスで培ってきた英語とは違いましたか。

関谷
一番の目的は、当社に登録する通訳者がどのような過程を経て、何を学んできたのかを確かめたかったというのが理由です。英語と日本語が流暢なだけでは通訳者にはなれません。通訳者になるためには、どういったトレーニングをどのくらい積むのか、通訳スキル以外に求められる資質や能力は何なのか。この実体験は、通訳者をマネジメントするうえで役立ちました。

授業では、言葉の意味や正確性にとらわれすぎることもあるように感じました。たとえば、通訳演習のときに「冒頭の“very”を訳し忘れていますね」と指摘を受けることがあります。ささいなことでもそれがマイナス評価につながれば、本番で通訳者は伝えることよりも、自分のパフォーマンスばかりに気をとられてしまいます。それが原因で、橋渡しすべき両者のコミュニケーションに支障をきたすようでは本末転倒なのです。

このような経験から、言葉にとらわれすぎないことが大切だと、そのときに実感し、当社に登録する通訳者には、訳した言葉が正しいか、正しくないかだけではなくて、双方の話者が正しく理解しているか、お互いの心が通い合っているかによりフォーカスしましょうと伝えています。

出版を契機にラジオの世界へ

——2009年に初めての著書を出されてから、これまでたくさんの書籍を出版されていますね。またラジオでもご活躍されていました。

関谷
書籍はこれまで英語関連のものを20冊ほど出版しました。初めて書籍を出版したときは、ビジネスパーソンを意識した英語の指南書はありませんでした。読者ターゲットが狭いため、売れるはずがないと思われていたのです。しかし、時代の要請でしょうか。『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、ビジネス英語というジャンルが注目されるきっかけを作ることになりました。

その後、その本を読んでくださったNHKの方から声がかかり、ラジオの「入門ビジネス英語」の講師役を経験させてもらいました。当時、海外出張に出かける多くのリスナーがこの番組での学びを参考にしてくださったと聞いています。練りに練られたテキストを使ったラジオ媒体は、ビジネスパーソンの英語学習に向いています。

画像: 出版を契機にラジオの世界へ
画像1: 話し手の内なるビジョンをとらえ、聞き手に響く言葉をつむぐ
【第2回】通訳会社を起業し、経営者として歩み始める

関谷英里子 Eriko Sekiya

慶應義塾大学経済学部卒。スタンフォード大学経営大学院修了。日本通訳サービス代表。同時通訳者としてアル・ゴア元米副大統領、フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ氏、ダライ・ラマ14世などの著名人の通訳を務める。NHKラジオ講座「入門ビジネス英語」の講師としても活躍した。主な著書に『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『同時通訳者の頭の中』(祥伝社)などがある。

画像2: 話し手の内なるビジョンをとらえ、聞き手に響く言葉をつむぐ
【第2回】通訳会社を起業し、経営者として歩み始める

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